2 第六チャペル

「おめでとう。そして、ようこそ『キャロルの子供』たち。『第六チャペル』へ――」

 

 これが僕の、そして僕たちの最初の記憶。

 生まれたばかりの僕たちは、真っ白な部屋の中に真っ白な衣服を着て集められて、そこでシスターから歓迎の祝福を受ける。


「あなたたちには、これからこの『第六チャペル』で共同生活をしてもらいます。そして、来るべき敵との戦いに備えて出荷の日を待ちます。それまで、あなたたちは私たち人類から与えられたその身体ボディを健康で健全に保ってください。それだけが、あなたたち『ヒューマノイド・ドローン』の――そして、この『第六チャペル』の子供たちに与えられた役割です」

 

 僕たちのシスターとなるアンナが、とても優しい微笑を浮かべながらそう言った。

長い黒髪が滝のように肩先に伸びて、黒のエプロンドレスの中に消えていくのが印象的だったことを今も覚えている。大きな灰色の瞳と、大人の女性特有の母親のような表情で、僕たちを本当の子供のようにで、慈しんでくれていた。


「まずは五人一組の班を作っていきます。その五人は、これからの生活を共にする大事な五人です。あなたたちが健康で健全に保たなければならない身体ボディの一部だと思ってください」

 

 僕は急に不安になったあたりを見回した。

 僕は一人で心細くて、こんな僕の身体ボディの一部になってくれる子供たちがいるのかと心配になったんだ。

 

 すると、僕は直ぐに一人の女の子と目が合う。

 僕と同じ――真っ赤な目と真っ白な髪をもった女の子。それが僕の一番大切になる女の子で、僕に名前をくれる女の子だったんだ。


 そして、いずれ僕が名前を与える女の子。

 

 でも、その時の彼女は――HD・モデル-アテナ・060807ver2.1だった。

 

〈や、やぁ〉

 

 僕たちは言葉を出さなくても会話をすることができた。誰かに教えられたわけでもないけれど、僕たちは生まれながらにそれを知識として知っていたんだ。これを人類に分りやすく説明するなら、僕たち『ヒューマノイド・ドローン』の頭の中には電話とパソコンのようなものが備え付けられていて、心の声で会話をしたりメールができるといった感じかな?


『iリンク』と呼ばれる技術だけど、詳しいことは後述する。たぶんだけど。


〈なに、その挨拶? 「や、やぁ」って、かっこ悪すぎ。もう少し気の利いた声のかけ方があるでしょう?〉

 

 僕は、その女の子のことが大嫌いになりかけた。

 でも、次の瞬間彼女が僕の手をぎゅっと握ってくれていて、『iリンク』を通じて感情を送ってくれていた。


〈あなたの「不安です」って感情が、私にまで流れ込んできてるわよ。ほら、私が一緒の班になってあげるから安心しなさいよ〉

 〈/優しさ〉

〈あっ、ありがとう〉

 〈/喜び〉

 

 僕が感情のタグをつけて返すと、彼女はにっこりと笑って強く握っていた手を優しく握り直してくれた。僕はもう、彼女が大好きになっていた。とても大好きに。

 

 僕たちは、その後めでたく同じ班になり、他の三人――モデル・アタランテの女の子と、モデル・アキレウスとモデル・ヘラクレスの男の子と五人組みの班になった。

 

 この五人が、僕の身体ボディの一部になる五人。

 大切で大事な班のメンバー。

 僕は、直ぐにみんなのことが大好きになったんだ。

 

 生まれながらに大好きな人類と同じように。

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