1 ヒューマノイド・ドローン

 まずは、僕と僕たちのことを少し話しておこうと思う。

 

 人類によって生み出され、人類のことが大好きな僕たちのことを。

 僕たちは、人類たちによってこう呼ばれていた。


『キャロルの子供』たち。


 生まれたばかりの僕たちは、教会――『チャペル』と呼ばれる場所で共同生活を行う。『チャペル』には僕と同じような姿の僕たちがたくさんいて、僕たちは直ぐに僕たちのことを大好きになる。大好きな人類と同じように。


 そして僕たちは、なに不自由ない共同生活を過ごしながら、その日が来るのを待つ。

 僕たちに与えられた使命は――そして人類と交わした約束は、たった一つだけ。

『その日』が来る時まで、僕たちは人類に与えられたこの心と、この身体ボディと――


 そして魂を、健康で健全に保っておくこと。


 ただ、それだけ。

 そこから先のことは、全て僕たちの大好きな人類に委ねられる。

 その先のことを僕たちは考える必要はなく、僕たちは安心して静かな眠りにつくだけ。

 それは、とても光栄で幸福なことだった。

 僕たちの喜びだった。


『その日』が来るのを、僕たちはいつも心待ちにしていた。『その日』が訪れた時は、僕たちはみんなで喜び合い、祝福し合った。人類のためにこの身を捧げ、このリソースを費やし――人類のために敵と戦えることが、人類の未来に貢献できることが、僕たちの喜びであり、誇りであり、なによりの幸せだった。


 そう、僕たちは敵と戦うために生まれてきた。

 人類の敵と戦うために。


 人類を守り、人類の敵を殲滅するための兵器であり備品。


 それが僕たち――『キャロルの子供』たち。

 戦場では、僕たちはドローンと呼ばれる。


 正確には――


『ヒューマノイド・ドローン』。


 それが、兵器であり備品でもある僕たちの名称。


 僕の正式な型番号は――HD・モデル-ユリウス・060666ver1.2.11


 だけど、僕には本当の名前があった。

 僕たちが名づけあった――僕たちだけの名前が。

 僕は大好きだった彼女に名前をもらった。

 僕だけの名前を。


 それが、今あなたにこの物語を届けている僕の――

 僕だけの、大好きな名前。

 

 もう、誰も呼ぶことのない僕の名前。

 誰にも呼ばれない、僕の名前。

 大好きだった、僕の名前。


 ヨハン。


 僕の名前はヨハン。

 それが、あなたにこの物語を届けている僕の名前。


 できたらでいいんだけれど――僕のこの大好きな名前を、あなたに覚えておいて欲しいんだ。

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