第3章 ⑪
「いいんじゃない? マリオンがやりたいって言っているんだから」
ライラの軽い口調にフレデリカは額を押さえた。猛烈な頭痛に襲われた。マリオンは工房に閉じこもり、武器の準備中である。『恥ずかしいので見ないでください』と二人は部屋を追い出され、リビングのソファーで横に並んで座っていた。
「ですが、マリオンの戦い方はその……すごくて」
「私、見たことないけど、そんなに凄いの?」
興味津津に聞いたライラへ、フレデリカは歯切れ悪く答える。
「頼りになるには、なるのですが。マリオンが本気を出すと周りが危険だというか。とにかく、マリオンが近くに来たら即行で逃げなさい。巻き込まれると大事ですわよ。変にテンションが上がるというか……怖いですの」
ごくりとライラが生唾を飲み込んだ。両腕を上げ、ぐぐっと背中を伸ばす。
「まあ、戦力は無いより有った方がいいでしょ」
「それはまあ、そうですけど」
「仲間外れみたいでマリオンも寂しいんじゃない?」
フレデリカはげんなりし、頬に手を当てる。従者を想う主の気持ちも考えてほしいものだ。あんな小さい娘が戦う姿を想像するだけで顔を覆いたくなる。最後に戦わせたのはいつだったか。そう、あの時は逆恨みした結社がロンドンの田舎町まで追いかけて来たときだった。不注意で怪我をして利き腕が使えなくなった。――マリオンがキレた。思い出し、身震いする。
「ライラ。期待していますわよ」
「了解。私がマリーベルを倒してやるんだから」
肩と肩を触れ合わせて二人は手と手を握り合う。可憐な乙女というには、あまりにも固い皮膚だった。フレデリカは銃とナイフで。ライラもまた、鍛錬に明け暮れ、沢山の肉刺を潰したのだろう。
「ねえ、勝ったらさ、お祝いしようよ。お菓子とか沢山買ってさ」
「それは、素晴らしい計画ですわね」
「ねえ、フレデリカ」
ライラがフレデリカの肩に顎を乗せるように顔を近付ける。
「勝とうね」
「うん」
ライラの手が微かに震えていた。フレデリカは彼女を安心させるように手を強く握る。自身の勇気が彼女に伝わりますように。彼女には感謝してもしきれない。孤独な自分を助けてくれた。力になると言ってくれた。
だから、精一杯応えないといけない。
たとえ、命を賭けたとしても。
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