第3章 ④
ビルの外へと出たレイルの隣にさり気なく歩み寄ったのは六天咲和也だった。男は、苦みの多い笑みを湛え、女へ言う。
「ばらしちまったのかよ全部。戦う前から戦意無くさせてどーすんだ?」
歩みを止めずにレイルは和也を一瞥し、唇を歪めた。
「あれぐらいで折れるような雑魚を飼っても嬉しくないの。私が欲しいのは猟犬。どんな条件だろうが敵の喉笛を噛み千切り、絶命させるまで離さない優秀な犬。それに、フレデリカなら戦うわ。魔操銃士を甘くみないことね」
和也はレイルの命でマリーベルに接触した。というのも、フレデリカがライラに相談し、助っ人に入るのは予測済みだった。二対一ではつまらないからである。無論、機関の女が。
「俺はともかく、マリーベルは油断してねえよ。そうじゃなかったら五十人なんて言うかよ。ったく、こっちだって揃えるのに苦労してるんだぜ。最初に貰ったのとは別の報酬が欲しいくらいだ」
「なら、幾らでも私のポケットマネーであげるわ。それで満足?」
簡単に言われ、和也は拍子抜けした。これが金持ちの余裕というものだろうか。用事も済ませた男が立ち去ろうとして、
「で、私との契約は忘れてないわよね?」
女の言葉に総毛立つ。まるで、背中に直接液体窒素を流しこまれたような悪寒に襲われる。勘付かれないようにがりがりと頭を掻く動作の内で精神の暴れを強引に矯正する。この女に下手でてはいけない。飽くまで対等の立場を維持しなければ即行で喰われる。
「俺を誰だと思ってる?」
レイルはまるで、心の底でも覗きこむように和也の目を見る。自然と男の足は止まっていた。
「どうした?」
「ふふ。別にー」
女は和也から顔を背け、再び歩き出す。
「おい、支部があるのはこっちだろう?」
和也が指差したのは十字路の左だった。しかし、レイルが進んだ道は真反対の右である。すると、女は背中で言葉を受け止めたまま振り返らずに、謳うように言った。
「ちょっとだけ遊んでくるわー」
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