第2章 ⑧

 食後の紅茶をカップに注いだマリオンが目を丸くして口を開いた。

「では、今日はあの家にむかうのですね」

 リビングのソファーに座っているフレデリカがカップに口をつけた。奥深しい味わいを楽しむかのように目を細める。その隣ではライラが角砂糖とミルクを入れ、スプーンでかき混ぜていた。

「ええ。やはり、アレを揃えるとなると、頼れるのは〝あそこ〟だけですから。事前の連絡は私が済ませておきますので、マリオンはいつもの準備をしてくださいな。ライラは……そうですね、着いてこられるのも困りますし留守番でも」

「ええ、なんで私が留守番なのー。一緒にいくー」

 子供のように駄々を捏ねるライラの反応も半ば予想していたのだろう。フレデリカは嘆息一つして紅茶を一口。

「言うと思いました。ですから、これだけは約束しなさい。ぜったいに相手の機嫌を損ねないことです。あちらはこちらの流儀なんて通用しません。もちろん、アプリコット家の肩書きも無効ですわよ」

「……なにそれ。あんた、どんな奴らと手を組んだのー?」

「ですから留守番を」

「それは嫌。ここまで来たんだから私も腹を括る!」

「じゃあ、私の言いつけをきちんと守ることですわ」

 賭けに勝ったとばかりにライラが指を鳴らした。マリオンがフレデリカの言葉を待っていると、女は一瞬だけ言い淀みながらも口を開く。

「マリオン。貴女は自分のしたいようにしなさい」

 その言葉だけで十分だった。マリオンは深く頭を下げる。

「はい。かしこまりました」

 空になったカップを皿に置き、フレデリカが立ちあがる。今日は紺色のフレアスカートに白のブラウスだった。胸元のボタンがなんともきつそうである。一方、ライラは昨日のゴスロリが白になった服・甘ロリと呼ばれる服装であった。

「じゃ、さっそくいきますか」

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