第2章 ⑦

 翌日、フレデリカの目覚めは概ね快調だった。多少眠気が残るのはいつものことだから気にしない。ただ、どうやってベッドまで来たのだろうかと首を傾げる。服を着たままだったから、自分の意志で戻ってきたわけではないらしい。記憶は魔術書室にいた辺りからぷっつりと消えていた。マリオンは小柄で無理だろうから、ライラでも運んでくれたのだろうかと適当に予想立てた。

 ドレスが大きくはだけ、ホルスターが締められた太股が丸出しになっていた。さっきまでうつ伏せになり、尻を上に突き出すように眠っていたらしい。誰も見ていない。よかったよかった。羞恥心を誤魔化そうと軽く咳払い。

 女は服を脱ぎ、ホルスターを外す。いつものように替えの服とタオルを持って風呂場へと向かった。すると、先に誰かが入っているのか硝子張りのドアの向こう側に人影があった、シャワーの音まで聞こえる。

「ライラですの?」

「あ、フレデリカ? おはよう。先にお風呂借りちゃったー」

「別に構いませんわ。私には構わずに存分と楽しみなさい」

 全裸のままフレデリカが待機しようとすると、お湯でくぐもった声が返ってきた。

「一緒に入るー?」

「遠慮します!」

 昨晩のことを思い出し、フレデリカは即断った。ちえー、とライラが唇を尖らせたのがありありと予想できる。

 それから数分もしないうちにライラが風呂場から出てきた。フレデリカの裸身を見て、少女が生唾を飲み込んだように見えたのは気のせいだろう。そう願いたい。

「今日はどうするのー? また指輪の調査する?」

「いえ、たった二日ではどうにもならないでしょう。ですから、マリーベル対策を練りますわ」

「おお、なんとも好戦的ー。そういうの好きだよ」

 シャワーを浴びるフレデリカにきちんと届くようにか、ライラの声が大きくなった。少女は頭からお湯を被り、口の中に入り込むにも構わずに淡々と述べる。

「接近戦ではどうにもなりませんわ。ですから、中、遠距離から広範囲高威力の攻撃をぶつけます。あなたは魔術で、私は銃器で。手加減なんて無用。殺す気でかからなければ、こちらが殺されますわ」

「同感。《レイジング・ハート》ってさ、魔術と剣術を一体化した流派の技を使う結社でしょ。荒事専門の文字通り、戦闘のスペシャリスト。生半可な戦略なんてもっての他だし。そうなれば、私も本気を出そうかなー」

「あら、なにか手があるのですか」

「ふふん。杖一本じゃ限界があるからね。今日中には届くはずだよ。私秘蔵の術具がね」

 植物は魔力と感応しやすい。ライラの杖は確かに一級品ではあるが、戦闘向けとはいえなかった。それでも、あれだけの攻撃魔術を行使できる彼女の腕は間違いなく一流であるが。

「フレデリカこそ銃器でどうにかあるわけ? あいつ、弾丸でも斬りそうだよ」

「あなたこそ見くびらないでくださいませ。私、ちょうど当てがありますの。素敵な素敵な上物を用意しますわ。さすがに、拳銃弾では力不足ですので」

 シャワーで寝汗が流れていく。しかし、鼻孔には血臭が漂っていた。

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