第2章 ④

 副長室へ戻ったレイルは背もたれのあるフカフカの椅子に腰を下ろし、喉の奥を鳴らしながら笑っていた。痛む右腕を左手で擦り、足を組んだ。フレデリカが放った三八スペシャル弾を防いだのはスーツであり《硬化》と《衝撃吸収》の魔術を施していた。詠唱もなく瞬時の集中力だけで高速発動できたのは、副長を任される者の腕前であれば当然かもしれない。

「けど、私の動きが止められたのも事実。……そして、あの子は私に刃を届かせた」

 本気でフレデリカがこちらを攻撃するわけがないと油断していた。その分を差し引いても、女の動きは魔術師にとって〝魔法のように思えた〟。

 レイルがフレデリカのナイフに気が付いたのは喉元に届いてからだった。その間、魔操銃士は一度も魔術を発動させなかった。ライラの後ろにいたから、距離にして十メートルあるか、なかったか。牽制射撃で動きを止められ、視界の死角へ潜り込むように姿勢を低くして急接近。

 そして、最短距離で急所を狙う抜刀術のようなナイフ捌き。どれをとっても一級品だ。ここまで完成された殺し屋を、レイルは本当の魔術師以外では彼女しか知らない。

「そりゃあラズベリー家も焦るよねー。魔術師の根底を覆そうとしているんだもの」

 事の顛末を全て承知しているレイルは呆れたように溜め息を吐く。正直に言えば、フレデリカの監視役を志願したのは面白そうな子を間近で見たいと思っただけであり、粗探しをして機関への評価を下げようとも考えていない。フレデリカとライラの思いこみと勘違いであった。

 ただし、今回ばかりは正しく報告しないといけない。

 たとえ、どんな惨劇が待っていても。

 ちなみに、マリオンへの暴言はフレデリカを怒らせたらどんな反応をするのか興味が湧いたからであった。

「ああいう可愛いメイドが欲しいわー。一週間ぐらいレンタルさせてくれないかしら」

 どうにかしてマリオンを借りられないかとレイルはあれこれ作戦を練るのだった。

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