獅子は語る

球陽の獅子

【和色:赤色あか


 熟した苺や血のような色。日本最古の色名の1つで、明(アケ、アカ)が語源。「朱/緋(あけ)」の表記が用いられることもある。


 赤色の呼び名は多くの言語で「血」か「火」を表す言葉から派生し、世界的に共通した特徴として、呪術的な意味合い、魔除けの意味合いが込められている。



***



 抜けるような青空によく映える赤瓦の屋根に立ち、カッと見開いた大きな目で宙を睨みつけ、魔物まじむんを近づけまいとする勇ましい姿。


 悪霊を追い払うと言われる「石の獅子像」が沖縄に伝えられたのは、琉球王朝時代が幕を開けた15世紀初頭。

 古代エジプトではファラオの顔とライオンの身体を持つ神聖な守護獣として崇められ、メソポタミアでは人間の女性の顔とライオンの身体に鷲の翼を持つ怪物として恐れられたスフィンクス。それがシルクロードを横断して中国の石獅子となり、琉球王国へと伝わったのだとか。



 世界屈指の透明度と豊かな生態系を誇り、「世界が恋する海」と称されるケラマブルーの海に囲まれた慶良間けらま諸島。

 第二次世界大戦末期、この美しい島々が沖縄戦の最初の犠牲となった。


 1945年3月26日早朝。アメリカ軍は連合国軍アイスバーグ作戦(Operation Iceberg)に基づき、沖縄本島上陸前に慶良間諸島の上陸作戦を展開した。


 険しい山々が連なる丘陵地が多く、航空基地に適さぬ慶良間の島々に、日本軍の地上部隊の配備は薄かった。

 沖縄本島に先立ち侵攻される、という想定外の成り行きにパニック状態となった日本軍の兵士と住民達は、ジャングルのような山中に逃げ込んだ。慶良間の海には数百ものアメリカ軍艦艇が鉛色にひしめき合い、昼夜を問わず無差別に砲爆撃を行った。逃げ場を失った人々は追い詰められ、命を奪われ、島々の大地が赤く染まった。


 上陸作戦から三日後の29日、アメリカ軍は慶良間諸島全島を占領。この後、「ありったけの地獄を一つにまとめた戦争」と表現される沖縄地上戦が幕を開ける。



 人間という名の愚かな生き物が繰り広げた戦争に身をさらし、自らも砲弾の雨を浴び、非情の炎に焼かれながら、物言わぬ石の獅子達は地上の地獄を大きな無垢のまなこで見つめ続けた。

 この世の「魔物」とは何なのか、見定めようとするかのごとく。

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