エピローグ
それでは
「最後に、新婦からご両親へお手紙を読んでいただきます」
ピンクのカクテルドレスに身を包んだ綾野が、高砂の席から正面へ案内された。結婚披露宴もお披楽喜に近付き、鮫島――成隆と、源太が、入口前に案内された。小松家の両親も、同様に入口に呼ばれている。
チャペルでの純白のウエディングドレスも、お色直しで着替えた今のドレスも、とても綺麗で可愛くてお姫様みたいなのに、嫁にいき、離れていく娘を思うと涙が溢れて止まらなくて。成隆は二時間前から号泣しっぱなしだ。隣で源太が苦笑しハンカチを差し出す。
高砂側と入口側とで対面すると、ああ、もうこの子は大人になったのだなと今までを感慨深く思う。綾野と源太と山奥の平屋に移り住んで、農業に打ち込むようになってから、二十年が過ぎたのか、と。
あっという間だった。
「お父さん、お母さんへ」
綾野が手紙を読み始めた。涙でべちょべちょになりながらも、源太も成隆も、綾野をじっと見つめていた。
* * *
ふつうのおうちの皆さんには信じられないことかもしれませんが。私には、お父さんが三人います。今はもう天国に旅立ったお父さんとお母さん、そして、今ここにいるお父さん二人です。匠パパ、小夜ママ、今日は天国から見てくれてますか。二人の親友だった成パパと源パパのおかげで、私は今日の日を迎えることができました。
二人が銭湯のことをすごく手伝ってくれて、源パパの家の銭湯が繁盛したことは、子どもの頃からすごくすごく耳にたこができるほど聞かされて育ちました。きっと、源パパ自慢の親友だったんですね。まっすぐな二人の子どもに生まれてよかったと、いつも思っています。
私の二人のお父さんは、互いのことをすごく信頼しています。自分にできることを精一杯やって、互いをカバーしあっています。
うちはお母さんがいなくて、お父さん二人だから、小学校の頃は近所のひーちゃんとかむっくんとかがからかいにきたけど、いつも源パパが皆を巻き込んでかくれんぼとかケイドロとかやって、しかも子どもにこてんぱんにやられて、皆で真っ暗になるまで遊びました。源パパはガキ大将みたいでした。その後必ず、成パパにいつまで遊んでるんだーって怒られて、しかも本気で怒ってて、心配してくれてるんだなって申し訳ない気持ちになりました。
二人とも私や友だちのことを本気で向き合ってくれたから、うちの不思議な家庭環境のことで、誰も私をいじめなくなりました。毎日楽しいことばかりで、中学を卒業したくなくて、倉敷の高校に行くことを不安に思ったくらいです。
でも、そのことを源パパに言ったら、不安になるのは当たり前だって言ってくれました。今でもそのことを覚えています。新しい環境に飛び込んでいくのは、誰でも不安なことだって。でも、その不安ごと楽しめるようになったら、人生はより良いモノになるだろうって。つらいことや悲しいことは、楽しい人生のスパイスみたいなものだと思えばいいって言葉に、励まされました。高校の寮で、ひとりぼっちになった夜、何度もこの言葉を思い出しました。
私は愛されて育ったんだなぁと、感謝してもしきれないくらいです。
いつも一緒の成パパと源パパを見ていて、私にもいつかこんな風にお互いを思いやれる人と結婚ができたらいいなとずっと思っていました。
そして今日、大好きな大志さんと結婚します。成パパと源パパのように、いつまでも仲良しの、アツアツ夫婦になりたいと思います。
三人のお父さん、私をここまで育ててくださって、本当にありがとうございました。
でも、これからもずっと変わらず、お父さんたちの娘でいさせてくださいね。
綾野より
共生 聡梨加奈 @k_satori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます