顔の見えないあなたへ

月夜

第1話 猫が見守る駅

自宅から走って約30秒。鹿児島市にある『猫月駅みょうげつえき』という一風変わった名前を持つこの駅は私が高校に行く際いつも使っている最寄り駅だ。木造の一階建てという一昔前の外見をもつこの駅は春には満開のしだれ桜が咲き誇り、観光名所の一つにもなっている。地元の人々から愛されるこの駅は名前だけではなく、駅員さんも一風変わっていた。彼の名前は「猫太」。もちろん人の名前では無く、そこに住み着いている猫の名前である。三毛猫の猫太は私が気づいた頃には既に猫月駅の駅員さんで、駅を利用する人達にとってアイドルで、友達で、なんでも話せる相談相手だ。そんな温かく、猫太を通じて誰とでも仲良くなれる居心地のよい駅には不思議な箱が置いてあった。待合室にいつもポツンと置かれている黄色の箱。そこには

『見えないあなたへ~手紙を書きませんか?~』

という紙と白いレターセット。

今日私は初めてペンをとり、手紙を書いていた。

誰かへ向けて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

顔の見えないあなたへ 月夜 @yotuba0317

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ