昭和六年 (西暦1931年) 目標、共産主義!

「———で、あり、つまるところここ満州は我が大日本帝国が鬼畜どもとの最終殲滅決戦を行う為の最前線にして超超超重大かつ重要な生命線であるのだ!!分かったか間抜けども!!」


「「「サー、イエッサーッ!!」」」


「つまり我々はどうすればいいかッ?!」


「「「クソアカどもを殺せッ!殺せッ!殺せッ!!」」」


「アカを見たら!!」


「「「殺せッ!殺せッ!殺せッ!!」」」


「目標ッッッッッッッッ!!!」




「「「共産主義ッッッッッッッッ!!」」」



アイヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!







「いや〜、毎日毎日あんなこつやって、日本の兵隊さたちは飽きねのがねぇ」


「そいでもオラ達の畑仕事さ手伝ってくれんのはありがたいことだべさ」


「んだんだ、肥料の作り方もわーがりやすく教えてけれたもんなぁ」


中国北東部、満州


日露戦争で日本が利権を獲得した『南満州鉄道』の沿線にあたる地域である。が、多少の開発をしたのち日本は鉄道の運営権以外の全てをに譲り渡し、今ではその見返りとして数個大隊ほどの陸軍部隊が奉天付近に駐屯するのみとなっている。


もちろん経済進出は盛んに行なっているが、それはアメリカやイギリスも同じことである。……もっともイギリスは先の欧州大戦の折に「中国なんぞに手を出している暇はない」とばかりにすっかり引き揚げてしまったが。


駐屯する将兵も、訓練の一環として地元の農民たちの畑仕事を手伝ったり、作物の効率の良い作り方などを教えたりしており、住民ともかなり良好な関係を築いている。


………もっとも一兵卒から高級将校に至るまでみーーーーーーーーーーーんな共産主義アカ嫌いだが。


そもそも大日本帝国陸軍は、設立当初ドイツやフランス様式に作られたものの『精神力こそが真の軍事力!!』という風潮がはびこっていた。が、日清及び日露戦争において機械力の前に惨敗。あと少し、つまり海軍がバルチック艦隊を粉砕するのが僅かでも遅ければおそらく大陸に派兵した軍は全滅していたであろうほどに完敗した。


その為急遽思想の百八十度転換が行われ、海軍のように西洋化、そして合理化が進められたのだ。


その手本となったのが、建国以来凄まじい勢いで近代化及び軍事大国化を果たしたアメリカ合衆国であった。


士官学校はもちろん、徴兵された兵卒にも優れた英語教育を施し、毎年幾人かを『技術研修生』として訪米させるなど、その方針は徹底されていた。


さらにそれだけでなく、ロシアが誇っていた機械力、特に機関銃や速射砲等の近代兵器の拡充も進め、年号が大正に変わる頃には軍隊のほとんどを機甲師団と機械化歩兵師団が占めるほどになっていた。


こうした経緯から、陸軍は根っからのアメリカびいきになったのである。


ではなぜ共産主義アカ嫌いなのか?その理由はソ連の行なっている凄まじい大粛清にある。


日露戦争で日本を散々苦しめた多くの高級将官が、ロシア革命ののち『反革命罪』等の罪をでっち上げられ次々処刑され、その部下たちもほとんどがシベリア送りにされた。


————我々をあれほど叩き潰した将軍達かれらを皆殺しにするなど共産主義者どもは何を考えているのだ?


改革を推し進めてきた陸軍の中枢はこう言って非常に憤慨した。そもそもここまでの改革を行ったのは自分たちが手も足も出なかったロシアの優れた指揮官達に、「へっ、どうだこんなにも強くなったぞ!」と示すためであった。


ところが当の『ロシアの優れた指揮官達』が皆粛清されてしまい、雪辱を果たすことができなくなった。


そのことが、かれら陸軍の怒りを生み、やがてその怒りは粛清を行なったソ連の指導者達、ひいては向かったのである。


ソ連側から見ればとんだとばっちりであり、さらに革命直後の混乱期に乗じたシベリア出兵を日本が強行したこともあい重なり、ソ連の方からも日本の陸軍は嫌われているという。


まぁ嫌われていたところで陸軍彼らは何も気にしないどころかむしろ闘気がふるえたつのであろうが。


と、言うか、この数個大隊の駐屯がそもそも対ソ連防衛のためのものなのだ。さらに普段は農作業等を手伝っているとはいえ、もともと彼らは本国で“最強”と言われた猛者たちの集まり。武器だって最新・高性能のものが優先的に供給される。


それもこれも全て、アカ共を血祭りに上げるため………ッ!



————そしてついに、彼らの元にある緊急電報が届く


「………『極東ソ連軍ニ動キ有リ』?」


奉天にある満州駐屯軍司令部。“緊急”の報を聞き慌てて駆けつけた参謀たちが、一枚の紙を囲むようにして顔を突き合わせている。


東京から送られてきた電報だ。もちろん原文は最高機密レベルに暗号化されており、彼らが持つのは解読後のものである。


「……で、どうしろと?」


カフェオレに練乳と砂糖を飽和寸前までぶち込んだ謎の液体(通称MC)を飲んでいた作戦主任参謀・石原莞爾中佐がそう言って首をすくめる。確かに彼のいう通り、送られてきた文章はあまりに簡潔で、その意図ははっきりしない。


「ま、警戒レベルを最高度にしておきゃ大丈夫だろ。と言うかそれしか出来ないがな…」


ケッ、と言わんばかりの石原を、司令官席に座る駐屯軍司令官・本庄繁大将がたしなめるように言う。


……なんで数個大隊しかいないのにトップは大将なのかと言うと、それはもちろん、有事の際には本国からが送り込まれるからだ。無論その時司令官の交代は無く、仮に今ソ連との戦端が開かれれば本庄がその指揮をとることになる。


「とにかく支那軍の国境警備隊に連絡だ。満州にソ連軍が侵入すれば一気に日露の再現になるぞ!」


だからたとえこのようなあやふやな意味の電報が来ても(しかも発信者は参謀本部!)、取り敢えずはその額面通りに取れる意味で解釈する。つまり、ソ連が攻めてくるかもしれない、と——


と、なれば彼等のすべきことは決まっている。


ここは(忘れがちだが)中国の領土なので、その国境警備隊にこの情報を伝達。それと同時に駐屯軍配下の全部隊に出撃準備を命令。電撃的にソ連軍が進行して来たときに備えいつでも応戦可能としておく。


いつもの訓練の成果か、ここまでは驚異的なスピードで完了した。南京からは、「貴殿からの情報感謝する」との電報が届き、軍事行動も認可された。


もちろん本国へのお伺いも忘れない。まぁ発端の電報を送って来たのはあちらなので禁止されるわけもないが。


こうして電報受信からわずか半日のうちに、対ソ戦で計画されてきた事前準備・配置が完了。いつでもきやがれ、クソアカ共!


「おそらく来るとしたら、ここでしょうな」


指揮棒で満州の拡大地図のある一点を指し示す、参謀長・三宅光治少将。その一点とは——


「ノモンハン、か」


「その通りです、大将閣下」


日露戦争後、陸軍の秀才たちが全知を結晶させて作った対ソ戦計画。


当然今回もそれに沿っており、その計画内で『敵軍侵攻想定地帯』とされた満州北西部の一地方に反抗軍を集結させておくことが決まった。もちろん参謀たちの誰からも異論は出ない。




と、その時



「クックック………。感じる、感じるぞ……

漆黒より深き闇の混沌より、我が秘められし聖なる聴覚が感じ取ったぞ……ッ」



ある男が、怪しげに笑いながら立ち上がった。包帯の巻かれた右手を顔にやり、軽くうつむきながら参謀たちの前に来る。


「…………出たよこいつ」


MCの入った缶を思わず握りつぶし、本気で嫌そうに石原が言う。他の参謀たちも、声こそ出さないが総じて同じような表情だ。


が、その男はまるで気にせず続ける。


「北の荒野より這い出し紅の堕天使共が何を企んでいるか、暗き深淵より当世に産み出されし闇の大悪魔が使徒である我、辻・ダークリユニオン・政信が、解き明かしてご覧に入れようぞ…………ッ!」




デデドンッ!(次回に続く……)





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超架空近・現代史 〜日本編〜 空母白龍 @HyoukaiSinano

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