第3話
そもそも、将軍の後継が問題になるその期に、吉宗が紀州藩主であったことも不思議なほどの幸運であったと言ってよい。吉宗は紀州藩主光貞が四男。部屋住みで一生を終える定めのようなものであった。身内の死を幸運とするには憚りもあるが、これが父の死、兄の死が相次ぎ、立身の上ではやはり僥倖であった。
吉宗は、将軍へと上り詰めるまでに、どこか神懸かり的とも言える追い風に恵まれていた。
そういった自らの来し方を取り留めもなく回想しながら、体の向きを変えて、意行の背を凝視した。
青い陰影の濃淡で描かれる部屋の景色が一瞬、陽炎のようにゆらめく感覚があった。すると意行の襟がひく、ひくと、恰も天上から垂れる目に見えぬ糸で引く者があるかのような動きを見せた。空気の揺らぎの収まりゆく気配の中、意行は長い嘆息をついて、押し殺したような、それでいて相手を非難するような強い響きを含ませて、言った。
「上様……!」
これは吉宗の仕業であった。
吉宗には神通力があった。
こんな逸話がある。
サイキック・ジェネラル吉宗 さらまんだ川崎 @salamanda-kawa
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