高山編

第12話 いざ、ペリペリの群れへ

 階段が終わると、そこは草原だった。


 微風が草っぱらを撫でていく。やたら空気が綺麗なんだけど、綺麗すぎると思った。肥料の香りもしないし、焼けた炭の香りもない。清潔すぎると逆に居心地が悪くなるみたいだ。おいらが地球の動物だからかな。


「追っ手がこないうちに、目立たない場所へ隠れようぜ」


 おいらたち三匹は、急いで丘陵の麓にある林に隠れた。


 時々翼の生えた犬たちが、高山への階段に飛びこんでいくばかりで、おいらたちを追ってくるやつはいない。おそらく暮田伝衛門とおばばを倒すために数を集めているんだろう。今のうちにペリペリの群れを発見したほうがよさそうだ。


「ぺりぺりぃ。ウキ助くん。タヌ吉くん。あの丘から僕の群れの臭いがするよ」


 ペリペリが、くたくたの身体で小躍りした。どうやら丘の頂上でアルパカたちが生活しているようだ。


「ようやく迷子も終わりだな。長い冒険だったぜ」


 おいらは、林に生えてた果物をもぎとった。ぶどうとりんごだ。がりっとかじれば、やっぱり辛みがあった。かつてペリペリは群れの近くではぶどうとりんごが生えているといっていたが、こいつのことだな。


「地球を探しても見つかるはずないでやんすねー。魔界の高山が正解だったなんて」


 タヌ吉が、林の近くを流れていた小川に顔を突っこんで、ごくごく水を飲んだ。


「さぁて、少し休んでペリペリの足も回復したから、さっそくアルパカの群れに会いにいこうぜ」


 これまでの旅が嘘だったように、ゆっくりと丘を登っていく。外敵らしい外敵が存在しなくて、そこらへんにぶどうとりんごが生えていた。


 高山への階段の喧騒もひと段落したらしくて、翼の生えた犬たちが戻ってきては、どこか遠くへ飛んでいった。


 暮田伝衛門とおばばは大丈夫だろうか? 二人とも強いみたいだから心配しなくてもいいんだろうけど、でも万が一ってこともあるからな。


 ペリペリを群れに送り届けたら、様子をみにいってやるか。


 もうしばらく歩くと、白や茶のもこもこした毛玉たちが、ゆったり生活しているのが見えてきた。アルパカの群れだ。彼らのうち何匹かが、もりもり魚を食べていた。間違いなく、ペリペリと同じ雑食性のアルパカだった。


 いよいよ、おいらたちの旅が終わる。ペリペリは仲間のところへ帰れる。本当によかったなぁ。


 おいらとタヌ吉は、ペリペリのお尻を押した。


「仲間や家族に会ってこいよ」「あっしたちはここで待ってるでやんす」


 ペリペリは感極まってじーんっと涙をためると、しっかり一度だけうなずいてから、自分の群れへ戻っていく。


 でも、雑食性のアルパカたちは、ペリペリを見かけるなり、ぺっとツバをはいた。


「なんで! 僕だよ、ペリペリだよ! 忘れちゃったの?」


 ペリペリは悲痛な声で叫んだ。


「下界へ落ちたやつはもう仲間じゃない。群れに近づくな」


 まさかの拒絶だった。牧場のアルパカと同じく群れへ近づけないつもりだ。


「そんな掟、知らないよ。みんなだって魔界のことも高山の成り立ちも知らなかったでしょ?」


 ペリペリが必死に訴えたら、雑食性のアルパカのボスが出てきた。あんまり強そうじゃないけど、賢そうな顔をしていた。おそらく腕力より知恵が重視される群れなんだろう。


「そうだ。我々だって高山の成り立ちを知らなかった。だが先日、高山王からいわれた。もしペリペリが戻ってきても、決して群れに歓迎してはいけないと」


 高山王。どうやら高山にも王様がいて、そいつがペリペリに意地悪をしているようだ。なんて悪いやつだ。せっかく戻ってこられたのに、最後の最後で壁を作るなんて。


 話を聞いていたおいらとタヌ吉も納得いかなかったし、ペリペリだって当然のように納得いかなかったらしく、群れの奥へ向かって走り出した。


「お父さん! お母さん! 友達のみんな! いるんでしょ! 返事してよ!」


 木陰で、さっと目を伏せる二匹のアルパカがいた。夫婦だろう。どうやらペリペリの両親らしい。


 なんで両親が、ようやく帰ってきた息子から目をそらすんだ? そんなのヘンだろ。


 おいらはアルパカたちの隙間をくぐりぬけると、ペリペリの両親に話しかけた。


「なんで歓迎しないんだよ! ペリペリが、どれだけ苦労してきたと思ってるんだ!」

「しかし我々は……」「歓迎したいんだけど……」


 夫婦はぎゅっと目をつぶって、がっくりうなだれた。


「もしかして歓迎したら、今度はあんたらが群れから追い出されるってことか?」


 夫婦は無言でうなずいた。どうやらペリペリの友達たちも事情は同じらしく、おいらたちに近づこうとすらしなかった。


 なんてこった。高山が閉鎖的とは暮田伝衛門から聞いていたけど、ここまでひどいとは思わなかった。うちのサル山なら、外の世界を冒険して戻ってきたら、勇敢なサルとして歓迎されるのに。


 タヌ吉が、おいらの尻尾を軽く引っ張った。


「落ち着きやしょう、ウキ助さん。高山王ってやつを問い詰めたほうが早いでやんすよ。そもそも、なんでペリペリさんが地球へ落ちたのか、はっきりしていないんですから」

「そうだな。やっぱタヌ吉、頭いいな。よし、ペリペリ、希望を捨てちゃだめだぜ。高山王ってやつのところへいこう」

「うん、ありがとう、ウキ助くん、タヌ吉くん」


 おいらたち三匹はアルパカの群れから離れると、丘を下っていく。高山王が住んでいる白亜の王宮へ向かうために。

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