第11話 暮田伝衛門が真面目に本気を出したら?
ペリペリが無我夢中で階段を駆け上がっていく。たたたっ、たたたっと蹄が鳴るたびに、どんどん地上が遠くなっていく。おいらとタヌ吉は、猛進するペリペリから振り落とされないように、がんばってしがみついていた。
そんなおいらたち三匹の横で、激しい空中戦が繰り広げられていた。
百匹どころか千匹近い犬が、光る翼を打ち鳴らして暮田伝衛門を集中攻撃している。犬たちの口がぱかっと開くと、炎の塊か氷の矢が、嵐のように吐き出された。
しかし暮田伝衛門は、炎と氷の狂乱を、余裕しゃくしゃくで受け止めた。
「安心せよ犬たちよ。我輩はお前たちを傷つけるつもりがない」
「なにを世迷いごとを」
「力量差がありすぎる。弱いものいじめは趣味ではないのだ」
「グレーターデーモンごときが調子にのるな!」
さらに翼の生えた犬たちの攻撃は加速していって、暮田伝衛門も同じぐらい加速して、もはやおいらみたいなサルじゃ目視できなくなっていた。近くで音と光がばしんっと弾けると、一瞬だけ暮田伝衛門の姿が見える感じだ。
それにしても、よっぽど高山の犬たちは、意地になっているんだな。おいらたち三匹が階段を上っていることに気づいていないんだから。
ペリペリは順調に上っていて、地上が遠く見えるほどの高さに達していた。考えたくないけど、もし階段を踏み外して落っこちたら死んじゃうだろうな。
「つ、疲れてきたよ……ゆっくり上るなら得意だけど、走って上ると大変だね……」
ペリペリがぜいぜいと苦しそうに胸を上下させた。
「がんばれペリペリ! もうちょっとだ! もうちょっとで仲間のところへ帰れるぞ!」
おいらはペリペリのもふもふな首をさすりまくった。
「ペリペリさんがんばるでやんす! きっと高山に到着したらおいしい果物が待っているでやんす!」
タヌ吉もペリペリのもふもふな背中をさすりまくった。
「うん、がんばるよ、僕は、群れに帰りたいんだ!」
ぺりぺりぃと力いっぱい叫ぶと、最後の力を振り絞って残りの階段を駆け上がっていく。
ようやく階段も終わりかと思ったら、高山から援軍がやってきて、おいらたちとばったり遭遇してしまう。
「あ! 下界の動物が高山への階段を上っているぞ!」
くそっ、なんて運が悪いんだ! 援軍はおいらたち三匹の正面にいるから、強引に階段を上るわけにもいかなくなって、ペリペリの歩みが止まってしまった。
絶体絶命のピンチ。もし翼の生えた犬に突き飛ばされたら、おいらたち三匹は階段から落っこちて、一巻の終わりだ。
「そこをどいてくれよ、ペリペリは群れに帰りたいだけなんだ」
おいらは拳を振り上げて訴えた。
「下等な動物が高山に入るなど許されるはずがない」
百匹もの翼の生えた犬たちが、ぱかっと口を開いた。炎の塊と氷の矢を撃つ気だ。
もう、ダメなのか? 暮田伝衛門は千匹もの犬を引きつけるので精一杯らしく、百匹の援軍まで手が回らなそうだ。
やがて百匹の犬たちから炎の塊と氷の矢が撃ちだされた。まるで赤と青の流れ星だ。おいらたち三匹に逃げ場はなくて、さすがに死を覚悟した。
くるくるぽんっ。なんと魔女のおばばが箒で炎の塊と氷の矢をお掃除してしまった。
「ひょえひょえひょえ……おばばはねぇ、普段はふざけてるけどねぇ、やるときゃやるんだよ」
援軍の百匹が、びっくり仰天した。
「魔女のおばばって、あんなに強かったのか? 階段を監視するだけの、ふざけたおばあさんだと思ってたのに」
「ふふーん。魔王さまの施した封印を解けるだけの魔力があるんだよ。弱いはずないだろう?」
暮田伝衛門が、千匹の犬をひきつけながら、おばばに聞いた。
「魔王殿はどうしたのだ?」
「あんたのお兄さんがお城に連れ戻してくれたぞい」
「た、助かった……だがいいのかおばば。戦闘にまで加わったら、あとでお前まで怒られるぞ」
「久々に二等書記官さんが真面目に働いてるのを見たら、おばばの血がたぎっちまったのさ」
おばばが援軍の百匹をひきつけてくれたおかげで、道が開かれた。
ここから先は暮田伝衛門も魔女のおばばも手助けできない場所になる。
でも大丈夫さ。だっておいらたち三匹は信頼で結ばれているから。
あとは真っ直ぐ進むだけ。いざ高山へ。
おいらたち三匹は、階段を上りおえた。
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