第13話 高山王に会いにいこう
おいらとタヌ吉は、ペリペリを励ましながら歩いた。
「これまでもなんとかなったんだし、今度だってなんとかるするさ」「あっしたちがついてやすよ、ペリペリさん」
気休めではなくて、本当になんとかなると思っていた。おいらとタヌ吉の尻尾から勇気の光は絶えていない。未知の土を踏みしめる力強さも健在だ。水と食料が豊富な大地なんだから、最後まで諦めなければ望みはつながるだろう。
「ありがとう、ウキ助くん、タヌ吉くん。僕も最後まで諦めないよ」
ペリペリの尻尾にも、勇気の光が宿っていた。これなら大丈夫だ。おいらたち三匹はどこにでも冒険できる。よし、次だ。次の冒険へいこう。
目指すのは白亜の王宮だ。場所は、地元民であるペリペリが詳しかった。アルパカの生息する丘から、かなり歩かなきゃいけないみたいだけど、ペリペリに土地勘があるからなんの問題もなかった。
高山王か。どんな顔をしているんだろうか。ペリペリは直接会ったことがないから、名前しか知らないみたいだけど、きっと悪い顔をしているに違いない。
夕暮れになるころ、ようやく白亜の王宮が見えてきた。いくつものひょうたんを横にして、規則正しく並べたような形だった。空気と同じくやたら清潔に整えられているせいで、ちょっと近寄りがたいかな。
入り口には門番が何名か立っていて、人間みたいに二本の足で直立する犬だった。手には尖った棒を持っている。
「なんだお前ら。見かけないやつらだな」
門番の犬が、おいらたちに尖った棒を向けてきた。どうやら高山への階段での争いに関わっていたことは、彼らに伝わっていないらしい。直接顔を見られたのは翼の生えた犬だけだからだろう。
タヌ吉が小声で「わざわざ地球からやってきたことを語る必要はないでやんす」と知恵を授けてくれたので、適当にごまかすことにした。
「あやしいやつじゃないぜ。高山王にあわせてほしいんだ。大事な話があるんだよ」
おいらは身振り手振り尻尾振りでお願いしたんだけど、門番の犬は鋭い牙を剥き出しにした。
「ダメに決まっているだろう。ここは聖なる白亜の王宮。どんな人物であろうと、許可なきものは立ち入ることができない」
「許可ってどうやってとるんだ?」
「お前たちには逆立ちしたって無理だ」
「おいら逆立ちは得意だぜ」
ひょいっと逆立ちした。尻尾を使えば長い時間続けるのも楽勝だ。でも門番の犬が怒った。
「単純なバカには一生無理だ。さっさと立ち去れ」
取り付く島もなく、おいらたちは尖った棒で追い返されてしまった。
たとえ強引に突破しても、高山王に会う前に門番の犬に叩きのめされそうだから、別の方法を考えたほうがいいだろう。白亜の王宮から少し離れた茂みに座って作戦会議になった。
まずは賢いタヌ吉から。
「許可を取ってこいなんて方便だと思うでやんす。翼が生えていたやつも、門番も、ぜんぶ犬でございやしょう? つまり犬以外認めていないんでやんす」
次に地元民であるペリペリ。
「犬さんも高山にはいるけど、怖い思いをしたことはないよ。噛み付かれたり、吠えられたりとか、そういうのないない」
最後においら。
「犬ってさ、やたら律儀っていうか、頑固じゃないか? あいつらだけで固まって、政治ってのをやってるんじゃないか」
あれこれ話したけど、正面突破は無理という結論になった。だったら迂回だ。
「夜になったら忍びこもうぜ。そんで高山王ってやつの寝床で直接聞くんだ」
おいらの提案を、ペリペリとタヌ吉が怖がった。
「見つかったら怒られちゃうよ」「あっしたちには戦闘能力がないので、命は大事にしやせんと」
怖がる理由はわかる。翼の生えた犬も口から炎と氷を吐いたけど、門番の犬もきっと強いんだろう。おいらたちみたいな普通の動物は、まともに太刀打ちできない。
「なら、それぞれの得意分野を活かして、こっそり忍びこむか。高山王に直接会うのはおいらだ。ペリペリとタヌ吉は、おいらを手伝ってくれ」
おいらはペリペリとタヌ吉に手順を説明した。
ペリペリはアルパカだから持久力があって、おいらとタヌ吉を背負ったまま走れることは体験済みだ。退路を確保してもらって、もし犬に見つかったらすぐに逃げられるように待機だ。
タヌ吉はタヌキで夜行性だから、夜でも遠くが見える。白亜の王宮へ忍びこむときに、巡回しているやつが近づいてこないかわかるだろう。
おいらはサルで木登りとジャンプ力が自慢だから、白亜の王宮の屋根に飛び乗って、上から侵入できそうなところを探す。
「それなら、なんとかなりそうだね」「ウキ助さんにしては名案でやんす」
ペリペリとタヌ吉も賛同してくれた。あとは休憩しながら夜がふけるのを待つだけだ。
作戦会議が終わった時点で、すでに日は落ちはじめていたから、それほど時間はかからずに夜はやってきた。
おいらたち三匹は事前に決めた作戦どおりに動いていく。
ペリペリは退路を確保して、タヌ吉は夜行性の目で見張りをやった。
犬の兵士がくんくんと鼻を動かしながら白亜の迷宮の周りを巡回していた。律儀な連中で、巡回の隙間がほとんどない。無理に壁をよじのぼろうとしたら見つかるだろう。一瞬でいいから隙がほしいのだが。
へくしゅんっと遠くからくしゃみの声が聞こえた。どうやら一匹だけ風邪を引いているらしく、ずるずると鼻水をたらしていた。あれじゃあ犬の自慢である嗅覚も半減しているだろう。
タヌ吉が鼻水をたらした兵士を監視した。嗅覚の半減したあいつの背中が見えなくなったところが、巡回の切れ目になる。
「…………今でやんす」
タヌ吉に背中を軽く叩かれた。
おいらは、隠れていた茂みから飛び出すと、音を出さないように王宮の壁をよじ登っていく。見つかったら大変なことになる――なんて後ろ向きな考えは頭の片隅へ追いやった。サル山の仲間と木登り競争する感覚で、ひたすら屋根を目指して手足を動かす。
だが、からっと足を踏み外して落下しかけた。なんとか手だけで体重を支えられたけど、軒先にたまっていた土埃が地面へ落ちていく。犬の兵士に気づかれませんように。
素早く体勢を立て直すと、地面を振り返らずに、一気に登った。
ついに屋根へ到着。さきほどの土埃で犬たちに見つからなかったか聞き耳を立てた。異変は起きていない。くしゅんっとくしゃみの声が聞こえるだけで。
ふぅ、誰にも見つからなかったみたいだな。あとは屋根から王宮の内部へ侵入するための入り口を発見するだけだ。
くんくんと鼻を動かしながら、ゆっくり屋根を移動していく。複数の匂いが交差する地点を探していた。人間の家から食べ物を盗むときに使う手で、複数の匂いが交差していると窓が開けっ放しになっていか、大きな隙間が開いているのだ。
鼻が疲れてきて、短い休憩を挟もうとしたときだった。
――獣臭さと夜の草木の匂いが交差していた。
当たりを引いたかもしれない。匂いをたどって屋根を進むと、なんと天窓が開けっ放しになっていた。
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