第3話 三匹になった!

「なんだいタヌキ。おいらたちの話聞いてたのかよ」

「サルとアルパカなんて珍しい組み合わせなんで、思わず」

「へー、お前、アルパカわかるんだ。おいらの群れじゃ長老しか知らなかったのに」

「あっしは人間の町を渡り歩いてきやしたから、アルパカみたいな珍しい動物だって詳しいでやんす」


 タヌキはぺちぺちと頭を叩いた。どうやら賢いのが自慢らしい。


「そんで、賢いお前の盗むよりいい考えてってなんだ?」

「媚びるんでやんす。可愛い声だして地面をごろごろ転がってると、勝手に餌もってきてくれやすよ」

「本当かよ。信じられないぜ」

「まぁとにかくやってみましょうや。アルパカさんがいるなら楽勝でさぁ」


 胡散臭かったけど、安全にごはんが手に入るっていうなら、タヌキの作戦に乗ってみることにした。


 おいらとペリペリと賢いタヌキは人里へ降りた。


 田んぼと畑ばっかりだ。お家は木組みのものが多くて、クルマが進む道は砂利だった。人間の数はそんなに多くないんだけど、市場の近くだけはたくさんいた。


 市場を間近でみたら、角ばった印象を持った。大小さまざまな四角い塊を組み合わせたような建物が多いからかな。角に触ったら怪我しそうだけど、住みにくくないのかな。


 まぁ人間が使うモノなんてどうでもいいか。そんなことよりタヌキの作戦ってのを試してみないと。


 おいらたち三匹は甲高い声で鳴いてごろごろ地面を転がってみた。


「まぁかわいいおサルさん」「こっちはアルパカよ」「タヌキもいいわねえ」


 本当に市場の人間たちが、果物を持ってきてくれた!


「すげーなタヌキ! 作戦大当たりだ!」


 おいらは、ぶどうとりんごを両手に持って無我夢中で頬張った。舌と頬が溶けそうなぐらい甘い。人間のくせにうまいもん作ったんだなぁ。


「どうですおサルさんとアルパカさん。あっしはいつもこうやって腹いっぱいにしてから、次の町へいくんでさぁ」


 タヌキもリンゴを抱えるようにして食べていた。


「すごいねタヌキくん。とっても賢いんだ」


 ペリペリも飲みこむようにぶどうを食べていた。


「へへっ、そんなに褒められると、照れてしまいやすよ」


 タヌキがぽんぽんっと額と腹を叩いたところで、おいらはペリペリに聞いた。


「果物は食べてみてどうだった? なんか手がかりはわかったか?」

「うーん、おいしいんだけど、ちょっと味が薄いねぇ。辛みが消えてるっていうか」

「辛い? ぶどうとりんごが?」


 おいらが首をかしげていたら、怖い顔の人間が近づいてきた。肩のあたりに見たことない筒を引っ掛けていた。鉄で作った新手の釣竿かな?


「こいつらだな、道路でクルマを襲った害獣は!」


 あ、畑からサツマイモを盗んだのがバレたときと同じ反応だ。逃げなきゃいけないやつじゃないか?


「もしかしてサルとアルパカのお二方、近くで人間を襲って食べ物奪いやした?」

「お前と会う前だな。クルマから奪ってやった」

「そういうことは早くいいましょうや! あいつ鉄砲で撃ってきます! さっさと逃げやすよ!」


 てっぽーってなんだろうと思ったんだけど、タヌキの尋常じゃないほど焦った様子からして、今すぐ逃げたほうがいい。


 おいらたちは近くの山を目指して逃げ出した。人間たちは荒れた斜面と見通しの悪い森に弱いから、山に入っちまえばこっちのもんさ。


 余裕をかましていたら、ばーんっと大きな音がして、近くの岩がゴリっと削れた。


 え、なんだいまの。なんで岩が削れたんだ。あんな堅いもの叩いたら、クマだって爪が割れるんだぞ。


 しかも雷みたいにでっかい音がするなんて、めちゃくちゃ怖いじゃないか。


「お二方! ジグザグに走れば、鉄砲の弾はあっしたちに当たりませんから! ちなみに当たったら、一発でお陀仏でさぁ!」


 タヌキが酔っ払ったスズメみたいな動きで斜面を駆け上がっていく。


「うっきっきー! やっぱ人間はおっかないぜ!」「ぺりぺりぃー! 人間は怖いねぇ!」


 おいらとペリペリも、タヌキを真似して、めちゃくちゃな動きで斜面を上っていく。


 ばーんばーんっと二回も鉄砲の音がすると、ぱしっぱしっと隣の木が削れて、焦げ臭い木屑が舞った。生きた心地がしなかった。せっかく食べたぶどうとりんごの味なんて記憶からすっぱり消えていた。


 ふぅふぅと呼吸が乱れて、へとへとになって、それでも走り続けた。もう無理だ倒れると思うほど走ったところで、ようやく人間の気配が消えた。


「ふー、死ぬかと思ったぜ……」


 おいらは、ばたんっと仰向けに倒れた。しばらく動きたくない。


「だからいったじゃないか。盗むのはよくないって……」


 ペリペリが横倒しになって、薄っすらと目を閉じた。


「まったく人間から盗むときは、行き倒れになりそうなとき限定にしてくださいよ」


 タヌキは木にもたれて、丸い尻尾をぐでーんっと投げ出した。


「悪かったなタヌキ。それとありがとう。お前本当に物知りだな」


 おいらがお礼をいったら、タヌキは腹をぽぽんっと叩いた。


「ま、人間社会を上手に利用するのが得意ということでさぁ。さて、あっしはここらでお別れということで」

「なんだよ。一緒にペリペリの群れを探しにいこうぜ。お前みたいな賢いやつがいると心強いからさ。なぁいいだろ?」


 タヌキを冒険の仲間に誘ったら、ペリペリもはしゃいだ。


「タヌキさんがいると冒険が楽になるよ。僕たち行き当たりばったりだったから」


 タヌキは、目を閉じてしばらく考えこむと、ぽんっと腹を叩いた。


「ま、いいでしょう。あっしも暇っちゃ暇ですからね」

「うっきっきー! やったぜ! そんでタヌキなお前の名前はなんていうんだ?」

「タヌ吉っていうんでさぁ。山を持たない流れ者をやってるんです。以後お見知りおきを」


 こうしておいらたちの冒険に、タヌキのタヌ吉もくわわった。

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