第4話 ペリペリはどうして魚を食べるんだろう?
色々なところを旅してきたタヌ吉がいうからには、市場で食べたようなぶどうとリンゴはこのあたりの山や森には生えていないらしい。もしあるとしたら人間たちが作った果樹園だけだそうな。
でもペリペリの群れは自然界に生えていたものを食べていたんだから、少なくともアルパカが移動できる範囲の中に生えてないと辻褄があわない。
だからおいらたちは、タヌ吉の知識を参考にしながら、ひたすらぶどうとリンゴの木を探し回っていた。
でもまったく見つからない。ペリペリが嘘をついているわけでもないし、タヌ吉の知識が間違っているわけでもない。本当にぶどうとリンゴの木が近くにないんだ。
すっかり困り果てたところで日が暮れてきたので、近くの牧場へこっそり忍び込んだ。話のわかる動物を見つけて、小屋で一晩休ませてもらいたいもんだな。
外敵を避けるには夜移動するのが一番だけど、おいらたちの目的はぶどうとリンゴの木を探すことだから、太陽が出ていないと遠くが見えないんだよ。
牧場を経営する人間に見つからないように、こそこそ移動していると、とんでもない動物を発見した。
牧場で飼われたアルパカたちだった。野生のアルパカじゃないからペリペリのいた群れとは違うんだけど、なにか重要な手がかりを教えてもらえるかもしれない。
なお野生のアルパカであるペリペリだが、目をひん剥くほどにびっくりしていた。
「ぺりぺりぃ……同じアルパカなのに、僕のいた群れと臭いが違うんだね……近づくまでわからなかったよ」
柵の向こう側で、牧場のアルパカも驚いていた。
「そっちのアルパカくん、わたしたちの群れとちょっと違うみたいね」
「うん。でも、なにが違うんだろう?」
「あれ、この臭い……まさかあなたお魚食べたの?」
「うん、僕は魚が好きなんだ!」
「うそでしょう? アルパカは草食動物だから、魚は食べられないはずよ。あなた、本当にアルパカなの?」
アルパカは魚を食べられない? でもペリペリはおいらの前で焼き魚をうまそうに食べたんだぞ。
おいらは、物知りのタヌ吉に質問した。
「おいタヌ吉。どういうことだ?」
「本来アルパカは肉を食べられないんでやんす。あっしとウキ助さんみたいな雑食じゃないんで」
「でもペリペリは普通に魚食べるしなぁ……昔、長老がいってたんだけど、外国ってのがあるんだろ。そこのアルパカだからじゃないのか?」
「国が違っても種族が一緒なら同じ食べ物でやんす。つまりペリペリさんは…………変わり者の群れにいたってことでしょうかねぇ??」
牧場のアルパカから重要な手がかりを教えてもらえると思ったのに、むしろ謎が深まってしまった。
まぁなんにせよ、彼らは好意的だから今晩はアルパカの小屋で泊めてもらおうか。
と思ったのだが、ずしり、ずしり。威嚇するような足音が近づいてきた。
体の大きなアルパカだった。彫りの深い顔をしていて、毛並みもわさわさと濃い。ただ歩くだけで妙な迫力があった。
間違いなく群れのボスだ。
「おまえ、見たことないアルパカだな」
ボスのアルパカが、ペリペリを威圧した。
「ぺりぺりぃー。ぼくはペリペリだよ。君と同じアルパカだよ」
「でも魚の臭いがするぞ。ぺっぺっ!」
めちゃくちゃ臭いツバをはいてきた! こりゃたまらん! おいらとタヌ吉は柵から離れたんだけど、ペリペリが一歩も退こうとしなかった。
「やめてよ! なんで攻撃してくるの! 同じアルパカなのに!」
「魚を食べるアルパカなんて怪しすぎる。いますぐ群れから出ていけ! ぺっぺっ!」
びちゃっと臭いツバが顔にあたると、泣き虫のペリペリは、ぼろぼろと涙を流してしまった。
泣いちゃう気持ちはよくわかった。自分の群れじゃないにせよ、ようやく同じ種族の仲間を見つけたと思ったのに、拒絶されてしまったのだ。
傷ついたろうなぁ。悲しいだろうなぁ。
っていうか、なんだよボスのアルパカのやつ。もう少し温かく接してくれてもいいじゃないか。
「やいやいやい、なんでそんなに冷たいんだよ! 同じ種族だろ!」
「だまれサル! お前らだって挙動不審のサルがいたら群れから追い出すだろう!」
「それは…………」
「ほらみたことか。さっさと牧場から出ていけ!」
取りつく島もなかった。しかもおいらたちが騒いでいたせいで、牧場の人間たちがアルパカの小屋に集まってきた。
「あ、サルとタヌキだ。この害獣どもめ、うちの餌を盗み食いにきたな! それにアルパカが一匹逃げ出してるじゃないか! 捕まえろ!」
人間たちが棒きれを振り回して、追いかけてきた!
「うっきっきー! タヌ吉! 食べ物盗んでなくても人間はヤバイぜ!」
「たまーにこういうこともあるでやんす! 早く山まで逃げやしょう! ペリペリさんが牧場に捕まっちゃいやすよ!」
「僕、野生のアルパカだよ!」
おいらたちは、一目散に逃げ出した。
牧場の外まで飛び出して、道路を横切って、雑木林に入った。だんだんとあたりが暗くなってきて、青臭さが濃くなっていく。でも人間たちの怒声が遠ざかることはなかった。むしろどんどん近づいてくる。
もしかしたら、この前みたいに鉄砲ってやつで撃ってくるかもしれない。安全が欲しいなら、もっと遠くまで逃げなきゃダメだ。今日の人間は、ペリペリを捕まえようとしているんだから。
雑木林を抜けて山へ入ろうとしたら、タヌ吉がぎゃんっと悲鳴をあげて横倒しになった。
鉄の歯がタヌ吉の足首に食いこんで、血がどくどく出ていた。おいらは、鉄の歯の名前を知っていた。トラバサミだ。長老が気をつけろっていってたんだ。こいつに噛まれると痛くて痛くて動けなくなるって。
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