第8話 蝕む強さ

 ダークチップのおかげでインタフェイサーは安定した。


 それどころか、以前よりも政宗との一体感を得られ、性能と強さも上がっていた。


 アバターとの戦闘でも、その成果を実感している。


「変身!」


『電装! ダークドラゴンソルジャーフォーム! ダァァァク・ダァァァク! ダァァァクネェェェス! ダークドラゴンソルジャァァァ……!!』


 一つ変わったことと言えば、電装態の見た目が暗黒色の強い姿になったことだ。


 新たに追加された漆黒の防護布。裏地は鈍い赤色。

 胴体に巻かれた白い包帯のような装飾と、黒い鎖。これは自身の防御と敵の束縛に使える。

 手甲爪刀ドラゴンクローにも鎖が付属し、黒に変色した。


 赤と黒の粒子。身体に纏わり付いたそれは細胞一つ一つを刺激する。

 脳に強烈な電気が流れるような感覚。心の底から沸き上がる衝動。脳に感じる刺激。

 とてつもなく堪らなく気持ちが良い。

 まるで、本能の赴くままに行動できそうな、そんな感じだ。


 政宗との意識が共有され、より一体感を増した。思考と反射が拡大したかのようだ。


 今はとにかく、目の前の敵を倒したくてたまらない。


「はぁ……さぁ……こっからはパーティータイムだぁ……」


 発した政宗の声は俺の声と重なる。顔面を覆う装甲の下の表情は、笑っている。思わず笑わずにはいられない。身体を巡るこの充足感を見たしたい。


 最初は、手甲爪刀ではなく、一刀で攻撃を仕掛けた。


 早く終わるのはもったいない。


 一秒でも長くこの時を楽しみたい。


 相手がどのような攻撃を繰り出すか見たい。


 黒い刃が敵アバターの鎧に傷を付ける。防御を振り払い、また斬り付ける。一太刀来ればまた振り払い、斬り付ける。刃と刃がぶつかる度に激しい金属音と摩擦による火花。


 ああ、そうだよ。俺は、俺達はこの戦いの時間を楽しんでいる。


 お互いの生死を掛けた、命と命のやり取り。真剣な勝負だ。


 いつ失われるかもしれない刹那の時。生体装甲と強化皮膚に感じる痛みと、傷付き流れる血の赤色。


 ああ……。堪らねえなオイ。


 斬りてぇ。斬りてぇ……もっと斬りてぇぇ!!


 剣を振るう度に、刃と身体から赤黒いエネルギーが噴出する。時より電まで発生する。

 斬撃すらも赤黒く染まっている。いいじゃねえか、刺激的で攻撃的でよぉ……!


「こ、この攻撃は何だっ!? 貴様その強さは一体!?」


「おいおいどうした? もう終わりか? もっと仕掛けて来いよ? ええっ!? こんなんじゃ俺は満足しねえぞぉ!? オイコラァ!?」


「正気の沙汰ではない……完全に戦いに飲まれているか……」


「言ってろよぉ! ヒャッハァァァァァァァ!!」


 騎士風のアバターの言葉は、正直正しい事は理解できている。だが、わかっていても素直に受け止めることは出来なかった。狂っているのかもしれないな。

 相手の武器は槍。相当扱いに長けているのか、軽々と振り回し、こちらに致命傷は与えないはしても確実に生体装甲を削り、強化皮膚までダメージを通してくる。


 だが、長く続いた拮抗も終わりの時が訪れた。


 フェイントをかけた。刀を一瞬手放したのだ。槍の騎士アバターは俺達の行動を好機と一瞬で判断。リーチを活かし、槍の刃を一直線に胴体に突き出す。

 罠に掛かった。直ぐに刀の柄頭に付いた鎖を掴み、手前に引いた。引き寄せられた刀身が、がら空きになった敵の胸部装甲を斬る。ダメージは内部にまで届いた。


「っ……!? フェイントか……!!」

「柄頭に付いた装飾はこういう使い方もできるってこった!」


 柄頭の鎖を振り回し刀を回転させて遊ぶ。明確な挑発行為。槍の騎士アバターは口と胸部から赤い0と1の粒子を巻き散らし、息も絶え絶えとしている。


 きっと、その時の俺達の表情は狂気染みていたに違いない。それでも構わない。


SKILLスキルBURSTバースト!!』

「これでフィニッシュ……」


 残り5本の刀が出現。手に持った一刀と合わせ、6本とも手甲に吸収されて手甲爪刀へと変化する。

 6本の爪に赤黒いエネルギーが集束されて吹き荒れる。両腕に伝わる力の集束感が心地良い。


黒月こくげつ……龍爪斬りゅうそうざん!!」


 放たれたのは、黒い竜の、月を模した爪の斬撃。とても正義とは思えない、禍々しくどす黒く、濁った地のように赤い斬撃。地面すら抉り進み、衝撃波を起こしながら迫る巨大なそれは容赦なく槍の騎士アバターに身体を切り裂く。短い断末魔の後に大爆発を起こし、辺りが黒煙に包まれた。


――――……――――……――――……――――……――――……――――……


「ひ、筆頭……」


 アバター手裏が憑依したSu朱里が、デンリュウの戦う様に思わず身震いしていた。


「い、いくらなんで無茶苦茶だろ……」

「うん、筆頭らしくない戦いぶりだね……」


 アバター笛糸が憑依した英人も表情が引きつる。

 アバター姫和子が憑依した鼓太郎は、デンリュウの荒々しい戦いぶりに違和感を感じり呟く。


 もはや、シティーガーディアンズと伊達軍の混合サポート部隊による手助けは不要だった。

 彼らは直感で感じた。下手に近寄れば傷付き死ぬのは自分達の方だと。それは、他の電装ゲーマー達も同じだった。つい先日まで、素人も同然で青い正義の竜戦士然とした彼等の、その変貌ぶりと強さに気圧されていた。周りの雑魚モンスターを討伐しつつも、半分は黒龍と化したデンリュウを見ていた。


 そして、気付いた。


 インタフェイサーの色が鈍い黒に変色していること。


 変身を解除して露わになったじんの肌が土気色に変色し、一瞬だけ、白目が黒く染まり、黒目は赤く染まっていたことに。政宗にも同様の変化が表れていたが、彼は辛うじて正気さを感じた。


 そして、微かに自分達の強さに違和感を感じているのも政宗だけだった。


 あれは、俺達の意志によるものか?


 心身に感じるこの充足感は、果たして本当にインタフェイサーの性能向上によるものなのか?


 体力の消耗も激しい。まるで侵食されているかのような感覚。


 相棒であるじんの表情を伺うが、彼も政宗と同じ気持ちだった。戦闘中は理性が吹っ飛んでいるかのようだった。あそこまで攻撃的になった自分達の様は、変身解除することでようやく冷静におかしいと判断出来た。


「なあ……じん。大丈夫か?」


 アバターの問いに、じんは消耗した様子で、気怠く答える。


「ああ、やっぱりおかしいかも……な?」

「だろうな……」

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艦隊ドラゴバスターZ・オンライン 大福介山 @newdeno

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