第7話 ダークチップ
【フクオカシティ某所】
「よっしゃ、こっからは俺達のレッツパーティータイムだ!!」
『ポゼポゼポゼーション! ポゼポゼポゼーション!』
「変身!」
サイドに設置された青色のスイッチを押し込み、ポージングを行った後に力強く叫ぶ。
『電装! ドラゴンソルジャーフォーム! ド・ド・ドラララ、ドラゴンクロー! 爪竜! 電流! ドラゴンソルジャー!!』
肉体はブレイニウム粒子により強化変異。蒼き生体装甲の電装ゲーマーデンリュウ、ドラゴンソルジャーフォームに変身が完了。
腰のサイドにマウントされたマルチガッシャ―を手に取る。モーフィング機能によりマルチガッシャーは政宗の武器、手甲爪刀「ドラゴンクロー」へと形を変える。
「バトルスタートォ!」
威勢の良い掛け声と共に、デンリュウは敵アバターに向かって駆ける。既にシティガーディアンズと伊達軍によって包囲網が敷かれている。雑魚モンスターを爪で切り裂き、味方のサポートを受けながらデンリュウは敵アバターへ攻撃を仕掛けた。相手は二刀流剣士で、魔法とアイテムを巧みに使う。動きも中々に速い。ガードされつつも、両腕を交互に振りかざし、重い斬撃を叩きつける。
「筆頭! 避けて!」
手裏が巨大手裏剣を投げて相手を牽制。その隙に姫和子が三味線型武器による音波攻撃を浴びせ、笛糸がボウガンによる射撃で翻弄させた。
「サンキューおめえら! これでフィニッシュだ!」
『
インタフェイサーに武器を翳し、スキルバーストが発動。ブレイニウム粒子が集束されエネルギーが充填。蒼い稲妻を纏うドラゴンクロー。デンリュウは一気に駆け抜けた。
「サンダードラゴンクロー!!」
蒼い雷の竜爪が、相手の双剣を砕きながら直撃。身体に激しい傷跡を発生させ、断末魔を上げながら大爆発。それと同時に、デンリュウの変身が強制的に解除された。
「ん……またか……」
――どうにも持続時間が安定しないな……――
――――……――――……――――……――――……――――……――――……
【フクオカシティ・ハカタパーク】
「はい、美味しいパンだよ~」
「おう、ありがとう」
休日の午後。普段はパン屋でバイトをしている彼女と、久しぶりにデートに出掛けた。
まあ、デートといっても一緒に散歩するだけの質素なもんだ。今は公園で休憩中。
それでもこの子は充分嬉しいらしく、バイト先の廃棄されたパンをこうしてお昼に持ってきてくれている。
それにしても多い。定番の餡パンにクリームパン。カレーパンやメロンパンにトースト。
いやどれもお美味しいからいいんだけどさ。
「毎回思うんだけどよ、こんなに廃棄出てて大丈夫なのかよ?」
「予定の範囲内で出ただけだから大丈夫だよ? むしろ少ないからね」
食品製造のことはよくわからんが、これぐらいの量は問題無いらしい。
ああ、チョココロネとイチゴジャムパンがうめえ。
「う~ん、やっぱり美味しいね~」
「ああ、うめぇ……」
パンを頬張る彼女の笑顔が大変眩しい。聞いた話だと、店のパンを美味しそうに食べてくれることからバイトに受かったそうで、実際こうして彼女が食べている様子を見かけたご近所の人々が釣られて買いに行くそうだ。
「こうして一緒に歩くのもちょっと久しぶりかな?」
「そうだな。最近街も騒がしいからな……」
栗色のストレートロングヘア。円らな瞳とヒマワリのような明るい顔立ち。
そして凹凸の激しい体……ゲフンゲフン。
学校でも評判の美人。といっても本人は何処かズレた性格とセンスをしており、天然も入っている。
「最近コスプレした集団がフクオカシティを騒がせてるんだよね? そんなに目立ちたいのかな?」
ほれこの通り。普通は強盗や殺人などを連想するだろうが、彼女の場合はこういう思考に至るのだ。
いや、コスプレ部分は
「一番凄いのはさ、沢山のお馬さんで走る暴走族だよね。今どきアナログ方式だなんて、私はある意味感心しちゃうよ」
それ、俺らだ!! その馬で暴走集団は絶対俺らの事だ!!
何か妙な形で伝わってやがるし! 自警団活動が悲しいなおい……!
「ねえ、
「んあ? なんだよ?」
一見何ともない表情でこちらを覗き込む。しかし、これは彼女が他者を心配し、真意を探る合図だ。
「最近何かあったの?」
「何かあったというか……意外な人達に会ってびっくりした事があった……かな?」
まさか、今フクオカシティを騒がせている輩の正体がファンギャラから出て来たアバターで、世界を脅かす奴らに対抗する組織に入ったなんて言えねえよな……。
言っても信じてもらえ……いやコイツの場合は信じそうだけども、民間人には詳しい事は口外しちゃいけないって言われたからな……。
「そうなんだ。まあよくはわからないけど、それが思い詰めてる原因?」
「あ、やっぱわかるか?」
「わかるもん」
「そう、か……」
見透かされていたらしい。やれやれ敵わねえな。
実を言うと、あれから何度も変身してアバター討伐に乗り出した。
憑依状態で倒した時と違い、電装ゲーマーのスキルバーストでアバターを倒すと、アバターの身体は大爆発を起こして量子化し、元の所へ返還される。何故爆発するのかは全くわからんが。
政宗が俺に憑依する事で変身した、電装ゲーマーデンリュウ ドラゴンソルジャーフォーム。
しかし、 やはり元々選ばれる予定の無かった俺達とはいまいち相性が揃わないようだ。
高い性能を発揮したと思えば、途端に低くなり性能が低下。戦闘終了間際に変身解除など、なかなかどうしてか性能が安定しなかった。
「ちょっとある仕事メンバーに選ばれたんだ」
「え、そうなの? 凄いじゃん」
「でも、なんだか俺だけ成績の変動が激しくて安定しないんだなコレが。それで悩んでるっつうか……」
「ああ、仕事での悩みだったんだ」
「まあちゃんと出来てはいるんだけどな?」
当たり障りのない様、オブラートに包み話している。内心は心苦しいんだけどな。
「わ、悪いな。心配かけたみてぇで」
「ううん。何か深刻過ぎる悩み事じゃなくて安心だよ。より深刻になると
「よくご存じで……」
「だって彼女だし」
得意満面な笑みを浮かべる。子供っぽく可愛らしい笑みだ。少し気持ちが和らぐ。無茶だけはしないようにと釘を刺された。敵わんねなこの子には。
その後、本部に立ち寄り、政宗ともう一度変身シークエンスのテストを行うことにした。
やはり少し不安定で2人して悩み唸っていたところに、局員男性が話しかけて来た。
「今日もやっているようだね、
「相変わらず安定しないんですよ、なあ政宗?」
「まあな……」
政宗は多少相手を警戒しているような素振りを見せ、目を細めている。知り合いでもない人間だからか?
「ああ、失礼。私は此処の研究局員。
髭を綺麗に切り揃えている。紳士然とした立ち振る舞い。ただの中年でもなければ若者と言うわけでもない。なんだか妙な貫禄と得体のしれない雰囲気を持つ。ゆるりとした口調の中に含みがある様にも感じ取れる。まるで白衣のような上着をワイシャツの上から羽織っている。髪は一部白っぽい銀に変色しているが、地なのか染めているのかはわからない。
「案ずることはない。今はまだ、インタフェイサーも君達とシンクロが取れていないだけなのだろう。元は想定していない事態故に、仕方のない事だ」
静かな笑みを湛え、肩を叩いて俺達に励ましの言葉を送ってくれた。
「御守(みかみ)氏も、きっと君達のような同志の出現に喜んでくれる筈だ。君達は我々の仲間だよ」
「あ、ありがとうございます……」
「そう硬くならなくていい。グミ食べるか?」
ポケットから、物凄くさり気なく差し出されたグレープグミ。思わず手に取って食べてしまった。彼は明るく頷いて笑みを浮かべる。政宗も、フルーツの香りに誘われて警戒を解き、手に取り食べた。
「ああ、うめえなコレ、グレ……プ、グミってのか?」
「あっちの世界じゃないだろう? シュガーまで振ってるんだこれが。さて、私は普段、アバターと人間との関係性を調べていてね。掴(つかむ)くん達や、シティガーディアンズの身体になるべく負担が掛からない支援機器を開発している」
「そうなんですか?」
「ぜひ君達の力になれればと思ってね……これを使ってほしい」
そう言って白治さんが取り出したのは、紫のラインが入ったブラックグレーカラーのチップ。メモリーカード、もしくは小型ゲーム端末に差し込むような大きさと形だ。
「なんだこりゃ?」
「ダークチップ」
「「ダークチップ?」」
「ちょっと格好付けたネーミングにしたのだがね……」
手を振り、少しお道化た様子を見せる白治さん。そして、俺の手を握ると、そのままダークチップを手に持たせた。
「こいつは、アバターとの憑依率をより高めて、力を倍増する様に調整した特殊なチップだ。こいつをインタフェイサーに組み込めば、きっとバランスが取れて性能が安定するはずだ。入れてみるといい」
その真剣な眼差しと、俺の拳を握る強さから、この人の本気さが伝わった。政宗に視線を向けると、静かに頷いてくれた。
俺は、インタフェイサーを取り出し、白治さんに促されるままダークチップを内部に挿入した。他のインタフェイサーにも外部からのチップを入れ込む機能はあるのかは聞いていなかったが、これを見る限りあったようだな。
ダークチップを挿入した瞬間、静かな動作音が鳴り、紫色の小さな電気が流れる。
『ダークアップ……オ˝ワ˝ア˝ァ˝ァ˝ァ˝……』
妙にエコーがかった低音電子ボイスが流れた瞬間、黒い泡状の粒子が溢れ、インタフェイサーの色が黒味がかり、黄色いラインが紫色に変色。
これで、俺達の変身は安定するのか……?
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