学園の怪に『存在してはいけないもの』

「なあ、一つ質問があるんだが、いいか?」

 質問と回答。

 システムにぶつけるには丁度いい。

 その言葉に、奴は一瞬、動きを止めた。

「アンタを含めて【怪】は七つ、それらを合わせて【学園の七不思議】。じゃあ、この俺はいったいなんの【怪】なんだ?」

 自らに問いかけ続けたこの疑問が、俺の最後の武器となった。

『なにを言っている。お前も【怪】だというのか。何物でもないお前が【怪】だと』

 何物でもない、か。言ってくれる。

 もちろん、相手はなんの答ももたらさない。

 当然だろう。そんなものは存在してはいけないのだ。

 この【学園の七不思議】の中では、その存在自体がエラーなのだ。

 システムがエラーを吐くバグ。

『存在してはいけないもの』

 だからこそ、俺は【怪】として成立する。

「……何物でもない、か。そうだな、それで決まった。ならあえて言おう。あえて自分を定義してやろう。あえて【怪】を名乗ってやろう。俺は【学校の七不思議】の八番目。その名のズバリ【八番目の七不思議】。その特性は【怪談そのもの】だ」

 俺の宣言を聞いて、【七番目】も含めて、誰も声を出せずにいる。

 そりゃそうだろう。

 俺はその存在でもって、ルールを破ってみせたのだ。

 学園の七不思議の定義が『七つであること』ならば、その外側を作ってしまうことで、もう一つ【怪】が生まれるのだ。

 七不思議の存在なくしては生まれない、七不思議に含まれない【怪】。

 そもそも俺の存在自体がルールの外側なのだ。

 そしてそこには、ありとあらゆる可能性が含まれる。

「ここでもうひとつ質問なんだが、アンタ、赤と青、どちらが好きだ?」

 そして俺は、これまで幾度もなく繰り返してきたように、そいつにも突拍子のない質問をぶつけてやった。

『なんだ、その質問は』

「いいから答えろよ。赤と答えたら切り裂いて血に染めて、青と答えたら締め上げて青ざめさせてやるからさ」

 それは、ここにいるはずもない、まったく別の【怪】の言葉。

 この【七番目】が知るはずのない、学校の外に存在した【怪】の能力。

 有真の記憶を元にそれを真似て口にしてみると、俺の中から自然とその【力】が湧き上がっ

てくるのを感じる。

 知っていた事になったのだ。

 見たこともないものを、見様見真似で再現してみせる。

 赤いマントを纏い、俺はゆっくりと、その態度だけで問い詰めるかのように、かつて赤マントが狙った少女の顔をした【怪】に向かって歩み寄る。

「知ってるか? まあ俺もついさっきまで知らなかったんだが、学校の怪談には【赤い紙、青い紙】という【怪】があるらしいぜ。じゃあこれは七不思議のいくつ目なんだ?」

 その言葉に【七番目】は目を見開いて俺を見ている。

 足元に広がる闇は動きを止め、俺を捉えることもできない。

『【怪】は七つのはずだ。お前は何だ。お前は何物だ』

 声が聞こえる。怯えた声。

 もはや勝負ありだ。

「おいおい、最後の【怪】ともあろう奴がそんな顔するなよ。底が知れるぜ?」

 挑発的に俺がそう煽るが、それでも【七番目】の顔から驚きが消えることはない。

 一歩一歩、その間合いが縮まっていく。

 もう、手を伸ばせばすぐに届く距離だ。

 まったく、あの部長殿の顔を勝手に借りているんだから、もう少しシャンとしていてくれ。

 そして俺は【七番目】に腕を伸ばし、ゆっくりとその頭に手を乗せる。

 もはや【七番目】は抵抗することもなく、俺は再びその顔の上にその手を置いた。

 そして心の中へと潜り込む。

 殻田の能力だ。【怪】には通用しないということだったが、ここまで動揺していればその精神は脆いものだ。

 それに、本体はあくまで有真のものである。

 一回入った道ならいくらでもわかる。

 システムなら、さらに単調だ。

 それにこの心の形は、俺もよく知ったものであった。

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