有真知実のための世界
その記憶にあったのは、俺がこの学園に現れる、ほんの直前のものだった。
たどり着いたのは、室居との戦いの前。
室居が俺を殺す前。
『スーツを着た化け物のような男と戦い、死んだ』
そんな俺の人生のあらすじのその前だ。
目の前の光景は、一人の男子が【開かずの教室】に入ろうとする場面だった。
だがその様子は、なにもかもがおかしい。
まずそもそも、教室からして別物だ。
なんというか、俺が見た教室に比べて現実感があるのだ。
怪など存在しない、明るく、くっきりとした世界。
そして次に問題なのは、その男子は俺ということだ。
もちろん、俺の記憶にはそんなものは残っていない。
【赤マントの怪人】と同じく、かつて見たものなのだろうか。
だがそれ以上に、なにより俺が気になったのは、その俺と同じ顔をした人物の持っているノートである。
俺はそのノートを知っている。
第三新聞部でも、過去を覗き見た時にも持っていた、有真のネタ帳だ。
なぜ、こいつが、俺と同じ顔をしたこいつがそれを持っている?
もちろん、誰もそれに答えてくれるはずもなく、目の前の光景だけが進んでいく。
俺の顔をしたそいつは、その教室の前で真剣な顔で一枚一枚そのノートをめくっていき、あるページにたどり着く。
【開かずの教室】
そのページにはたしかにそう記されており、そこにびっしりとその怪談がどういったものなのかが書かれている。
そいつがそのページの【開かずの教室】の文字をなぞると、なぞった指先に青白い光がほのかに宿る。
やはり俺と同じ顔をしているだけのただの一般人などということはなく、こいつこそが【学園の七不思議】の秘密を握っているのだろう。
そう思っていると、不意にその顔がこちらを見上げてきた。
自分と同じその顔と目があった。
そしてそいつが語りだす。
「これは未来の七不思議となる俺とお前のための伝言だ。これから始まる【学園の七不思議】は、たった一人の少女のための物語だ。俺の仕事はその七不思議を作ることで、お前の仕事は、その少女を現実世界に連れ戻すこと。いいか? いいな」
一方的に問いかけてくるそいつの言葉に、俺は意識だけでありながら自覚できるほど茫然となってしまった。
こいつが指し示す少女とはただ一人しかいない。
なるほど、有真知実のための世界だということか、ここは。
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