迷宮都市ラピュリス編⑦ ~レオナードVS狂戦士〜
魔法陣から現れた4人の人間には見覚えがあった。だか、俺がそれを思い出そうとする前に1人がこちらに向かって駆け出しその手に持つ剣にて斬りかかってきた。
俺は『エターナルエディオ』で何とかその剣を受ける。だが、さっき放った大技の影響で未だに体がだるい。それに静かになっていた“声”がまた俺の思考を侵食し始めた。
──タリナイ。 モットイノチヲ!
ただでさえキツイ状況なのにこれは不味い。
しかもこの男。おかしな強化されてやがる。理性が飛ばされて
「厄介だが仕方ない。『武器庫』解放! 来い! 破魔の聖剣『シャイン』!!」
剣の柄が空間から現れる。俺はそれを掴み引き抜く。
引き抜かれた剣の刀身は白銀に輝き、様々な紋様が刻まれていた。
「刻め『シャイン』」
鍵言を発したことによって『シャイン』の刀身が輝く。
この剣は破魔の名の通り浄化など魔に対する特攻を持つ。だから
「ガアアァァ!!」
俺と斬りあっていた男は何事も無かったかのように再度狂戦士化した状態で剣を振るう。
「ぐっ……」
俺はなんとか踏ん張るが力負けし後方に押される。
……どうゆうことだ? 『シャイン』の攻撃は精神異常を癒す効果もある。なのにコイツの狂戦士化が解けない? 何が起きている?
「もう一度だ。刻め『シャイン』!」
『シャイン』の刀身が輝く。
「ガアアァァ!!」
だが効果は無くまたも弾き飛ばされる。
『シャイン』の効果が発揮しないってことはコイツ完全に壊されたか……もしくはこの狂戦士化が呪いとかではなく『祝福』や他者からの『加護』がかけられている可能性か……
それなら『シャイン』の効果が発揮しないのに納得だ。
「こうなったら……なっ!?」
俺が次の手を打とうとした時、相対してる男の後方から火の玉が飛んできた。
「チッ魔術か!」
『エターナルエディオ』を盾がわりにしてなんとか魔術をやり過ごす。だが、今度は相対してた男ともう一人が剣で斬りつけてくる。
「
何とか『エターナルエディオ』と『シャイン』を斬られる前に間に滑り込ませる。
「くっ……純粋な力だとやっぱり振り切れてる奴らには勝て……ねえ!!」
数秒鍔迫り合いをした後、力負けしまた吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた先は未だ意識を失っているリカードのすぐ側だ。
……まずいな。コイツらは魔獣とは違う。迷宮の魔獣はリカードの『
俺は両手の剣を手放す。剣は光の粒子となり消える。
「『武器庫』解放。来な! 堅護の聖剣『ガディアン』」
──ヨコセ。命ヲ、ヨコセ。殺サセロ。我慢デキナイ。欲シイ。欲シイ。欲シイ!!
『祝福』を使い過ぎた影響か声の言葉がハッキリとし始める。
「飲まれずにいられるにはあと1回って所か……」
俺は呼び出した『ガディアン』をリカードの近くに突き刺す。
「護れ『ガディアン』」
地面に突き刺した『ガディアン』から光のベールが出現しリカードを覆う。
さてと最後の1回だが……これで選択間違えると一環の終わりってところだな。
相手は前衛2枚、後衛1枚、あと一人は斥候って所か……4人パーティのバランスが良いベーシックなスタイルだな。なら……まあ、やることは決まってるな。
人を殺すのに大掛かりな仕掛けはいらない。それに相手は考える力を失っている
「来い! 英雄の剣『バルレーベン』」
他の取り出した剣同様その剣も空間から柄が現れる。俺はそれを引き抜く。
その剣は柄と刀身の間に紅い宝珠が埋め込まれバルレーベン帝国のエンブレムが刻まれていた。刀身は蒼く輝いており宝珠との色合いもあり幻想的な片刃の大剣である。
「やっぱり今の俺には応えちゃくれねえか」
わかってはいたが少し残念に思う気持ちを零し、大剣『バルレーベン』を構える。
「さて、悪いがコイツを持ったからには負けるわけにはいかないんでな」
そう宣言してまずは一振り。
「ガッ!?」
さっきまで力で押せていたはずの俺に攻撃を弾かれ前衛の一人はとぼけたような声をあげた。
「遅い」
もう一閃。
その一閃で後から追加で攻撃を加えてきた前衛の肘から先を斬り飛ばした。
魔術による氷塊とナイフが俺を目掛けて飛んでくる。それらはうまく剣で弾くことで避け切った。
そしてすぐに後衛の奴らに牽制するため『威圧』を放つ。
普通、
「ハッ!」
腕を斬り飛ばした前衛に接近し即座に剣を振るう。その前衛はなすすべもなくその首が斬り飛ばされた。
「まずは1人。あと3人!」
俺は再度『祝福』の『威圧』を放つ。しかし『威圧』の効きが悪く。一瞬だけ動きが鈍くなったがそれ以外は特に何事もなかった。
「チッ、もう使いものにならないか……」
───マダ足リナイ。モットダ。モット寄越セ。コノ場ノアト4ツノ命ヲ狩ラセロ。
正直この声に耐えるのも結構キツイ………俺は歯を食いしばり何とか声に耐える。
その隙をついてまだ残っている前衛の男が俺に斬りかかる。
「があっ!」
俺は雄叫びを上げ体を無理に動かし剣で受け止める。
やはり重い一撃に押し込まれつつも耐える。
そんな鍔迫り合いをする俺たちの頭上に火球が現れる。
この威力はマズい。仲間諸共燃やす……それだけじゃない。『ガディアン』に護られているリカードにも少なくない影響が出る威力だ。
「チッ」
舌打ちをする。絶体絶命なこの状況。切り抜けるには……仕方ないか。
「悪いなステラ。あとは任せる」
俺は呟くと、少しだけ『祝福』出力を上げる。それによって目の前の男より瞬間的に力で勝り強引に剣を弾き、その首を瞬時に落とす。
そして飛び上がり真っ向から火球を斬る。
火球と『バルレーベン』が接触した瞬間爆発が起きた。
俺はその爆発に真っ向から飲み込まれた。
──
俺の意識が閉じる直前にそんな事務的な声が頭の中に流れた。
────────────────────
迷宮内の通路を駆け抜けていると振動が鳴り響いた。
「何!? 今のは……」
私は辺りの確認をするためにケイロンを止める。
なにか嫌な予感がして胸の中がざわつく。
「ステラ……大丈夫。レオの反応は消えてない」
ラピスが私の不安を察知してから声をかける。
大丈夫。レオはそう簡単に死なない。私が一番それを知っている。だから下手に不安になるな!
私は自分にそう言い聞かせケイロンを再度走らせる。
「ステラ。次を右。それで着く」
ラピスの指示通り角を右に曲がる。そしたら広い部屋が見えた。そこはむせ返るような血の匂いと2つの死体。剣を基点とした結界に囲まれている少年とその結界に攻撃を加えている人影が2つ。
………そして焼け焦げた姿の倒れたレオがいた。
「あああああああ!!!」
私は思わず叫び声を上げ右手に持つサジタリウスを投擲していた。
投擲されたサジタリウスはまず結界にナイフで攻撃を加えていた男の上半身を吹き飛ばし私の手元に戻ってくる。
ラピスも手に待つ銃で即座に魔術を放っていた男の頭を撃ち抜く。
「レオ!!」
ケイロンから降りレオに駆け寄る。レオの身体はボロボロですぐにでも治療をしないとその身体が崩れ去るのではないかというぐらいに目も当てられない状態だった。
「………ス、テラ、か?」
レオは喉も火傷をしているらしくその声はしゃがれていた。
「少し待ってて今治療するから!!」
レオの治療のために星剣を換えようと手をかざすがその手をレオに掴まれ止められた。
「ま、だ……換えるな。俺は……大、丈夫……だから」
「何言ってるのよ! そんな状態で大丈夫なわけないでしょ!!」
私はこんな時と強情なレオに怒鳴りつける。だがレオは頑なに自身への治療を拒む。
「ステラ!!」
そんな時ラピスの呼びかけでレオにだけに傾けていた意識が他に向く。そしてレオが何故頑なにも自身への治療を拒んだのかを察した。
「こんな時に!!」
この広い部屋には何本か道がつながっている。そしてこの惨状を見るにレオがここで激しい戦闘を行っていたというのはわかる。
そんな戦闘を行っていれば自ずと近辺の魔獣が部屋に入ってくるのはわかりきっていることだ。なのに何故今までこの部屋に入ってこなかったのか……
その理由としてはレオの存在だ。レオが戦闘を行う。それはすなわちあの殺気が周りに振りまかれるということだ。だから近辺の魔獣は近寄りはしても部屋に入ることはなかった。
だけど今はそのレオがこんな状態だ。これを幸いにと魔獣たちはこの部屋に侵入したのだろう。
私はサジタリウスを握り直しケイロンに跨る。
「ラピス! 援護をお願い!! 私が殲滅する」
ケイロンを走らせ部屋に入ってくる魔獣に突撃する。
────────────────────
──現在の
そんな声とともに俺は意識を戻した。
意識を戻して最初に目にしたのはステラの顔だった。
こちらを覗き込み今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「………ス、テラ、か?」
どうやら喉もやられているらしく俺の声はしゃがれていた。
「少し待ってて今治療するから!!」
そんな俺の様子にステラは慌てて治療を始めようと星剣を換えようとする。
だが俺はそんなステラを止める。
「ま、だ……換えるな。俺は……大、丈夫……だから」
こんな状態でも俺の察知は働いている。そしてその範囲内にいる魔獣は恐らく強い。この部屋に飛ばされて最初に戦った魔獣たちもそうだが基本的にここの迷宮の魔獣は平均的に
強いのだろう。
だから今ステラに治療用の星剣に換えさせるのは絶対にさせてはいけない。それをしたらここにいる全員の生還率が大幅に下がる。
「何言ってるのよ! そんな状態で大丈夫なわけないでしょ!!」
ステラは冷静さを失って探知が甘くなってるな……。とか見当違いのことを考えつつ俺はこの部屋に入ってこようとする魔獣に微弱でもさっきを殺気を送る。
だが、やっぱり足りず魔獣の進行は止まらない。
ステラもやっと気付いたのか辺りを見回す。
「こんな時に!!」
怒りの混じった声を上げ俺から離れる。そして魔獣に突っ込んでしまった。
「ス、テラ、冷………静になれ」
俺はなんとかしゃがれた声でステラに呼びかけるが戦闘を始めてしまったステラには届かない。
この場所の魔獣はさっき戦ってわかったが相当強い。それこそ一体一体が中級者用の迷宮にいるボスの少し手前ぐらいの強さだ。
ステラがそんなのを複数相手取るのはまだ早い。
くっ!! 動け!
俺は自分の身体を動かそうと力を込めようとするがその力が入らない。
────警告。
事務的な声でそんな警告が頭の中に流れる。
「ち、くしょ…………うが」
俺は必死に体を動かそうとするが肝心な力が入らない。
動け! 動け!!
そんな風に気持ちだけは逸るが体は全く言うことを聞かない。
俺はまた……また失うのか? 目の前で俺のせいで失わないといけないのか?
……そんなの許すわけないだろ! 俺は『英雄』だ!! そんな俺がここで動けなくていい訳ないだろうが!!!
───警告。これ以上の無……
うるせぇ!!
頭の中に流れる声に『祝福』を意思で黙らせ俺はボロボロの身体で立ち上がる。
「俺はこんな所で寝てる訳にはいかないんだよ!!」
俺は雄叫びを上げ未だボロボロの立ってるのすらやっとの身体で戦いに臨んだ。
最強の傭兵と剣に愛された姫の長い二人旅 澤色北斗 @hokuto_sawasiki
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