現在と過去3
「葵、明日皆で遊びに行こうか」
「え?」
母が作った甘めのカレーを、僕は口元に運ぶ手を静止させ一旦それを皿に戻した。
「明日?皆で?」
「そうだ。父さんは明日仕事を休ませて貰えたし、母さんもパートがないんだ。久しぶりに皆で出掛けよう。葵どこに行きたい?」
「そ、そんな……急には決められない」
だってなんでこんなに急に、父さんも母さんも家族である自分たちを信じていなかったじゃないか。疑心暗鬼の感情に囚われて自分たちを、唯一の家族を信じなかった。なのにどうして。
「せっかくお父さんもお母さんもお仕事をお休みするんだから、お出掛けしましょうよ」
頭上から母の声が聞こえて、僕は食べかけのカレーをひとくち頬張ってから口を小さく開いた。
「遊園地……に行きたい」
「おっいいな。遊園地かあ、何年ぶりかな」
「本当、いつぶりかしら」
父さんも母さんも翌日の予定に胸を躍らせている。しかし、疑心を拭い切れなかった。どうしてこんなにも信頼感があるように接しているのか分からない。何の問題もない、幸せそうな家族の会話。だがそれは偽りのようにしか思えない。そう思ってしまう僕もまた、疑心に囚われていた。
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