第3話
亜希が悠と出会ってから4ヶ月後。
季節は春を迎え亜希も有紀も無事に志望校へ合格していた。
新しい環境が始まってからそろそろ1週間を迎えようとしている頃、高校最初の塾の日がきた。
「亜希!おまたせー!HRが長引いちゃって遅くなった…ごめんね!」
亜希と有紀は中学は同じだったものの高校は離れてしまった。
有紀は地元の家から1番近い学校。
亜希は電車で2駅の少し離れた学校。
それでもそれぞれの高校に同じ塾の友人がいないので、中学の頃と同じように2人で行こうと約束をしていた。
「有紀遅い。先行こうかと思ったよ…」
「ごめんごめん!…そういえば塾の先生変わるよね?次の先生誰だろう…悠ちゃんがいいなぁ…」
冬期講習で担当されてから有紀は悠のことをえらく気に入ったらしく、その後の授業日や春期講習でも悠を見かける度声をかけていた。
塾にいる間ずっと有紀と一緒にいるおかげで亜希もお互い軽口を叩けるほど悠と親しくなっていた。
「いや…どうせ変わらないって。私今までの先生苦手なんだよね…」
「そう?私あの先生結構好きだけどなー。」
駅から塾まではさほど距離はないので先生談義に花を咲かせていると気づけば塾の入っているビルの前だった。
エレベーターを待っているとふと見覚えのある人がエントランスに入ってきた。
「あれー?悠ちゃんじゃん!こんな時間に何してるのー?」
「見れば分かるだろ。お前らと同じでこれから塾だよ。」
「え、悠も生徒だったっけ?」
「講師の方!あと呼び捨てするなって。」
「それにしてもエレベーター乗れないねー」
次のコマの授業を受ける生徒が来るラッシュの時間帯。エレベーターが来てもなかなか乗れる気配は無い。
「このままだと俺遅刻になるんだけど…」
「いいじゃん。一回叱られてみたら?」
「絶対嫌だ。…俺外の階段から行くわ。」
外の階段とは非常階段のことで基本的に生徒は使用出来ない決まりになっている。
しかし悠は講師なので階段でさっさと登った方が早いと思ったのだろう。
「あ、悠ちゃんずるいー!」
「でも塾のある5階までって結構しんどくない?」
「まぁ大丈夫だろ。じゃあ後で。」
そう言うと悠は外の階段を駆け上がっていった。
「たぶんあのペースだと途中でへばるかな。」
「…亜希って、悠ちゃんに対してあたり強くない?」
「っ…!気の所為じゃない?」
「ふーん…あの人見知り激しいことで有名な亜希がここまで塩対応出来るってことはだいぶ仲良くなった証拠かな?亜希って結構ツンデレの気あるし…」
「誰がツンデレだよっ…あー!もう!エレベーターまだ!?」
思えばこの頃には既に好きだったのかもしれないけれど、その気持ちに気づくのはもう少し後になってから。
一瞬の砂糖水 深角 舞弘 @mahiro0309
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