第2話
高校受験を目前に控えた中学3年の冬。
亜希は授業の無い日にも塾に通いつめ受験勉強に励んでいた。
得意な国語や社会、塾でとっている数学、英語はなんとかなりそうだが理科の点数がどうにも伸び悩んでいた。
元々そこまで苦手という訳では無いが決して点数がいいとも言えない。
この日も塾で自習をしていた亜希は大きな壁にぶち当たった。
「他はなんとなく分かったのに…ここだけはどうしても意味がわからない…」
亜希がいくら悩んでも解けないのは2年の頃に習った電流の分野だった。
習ったはずなのだがどうしても解けない。そもそも問題の意味が理解できない。公式もわからない。
「''
亜希が机に突っ伏しぶつぶつ文句を垂れていると授業を終えたのか有紀が声をかけてきた。
「おー、行き詰まってるね…大丈夫?」
「大丈夫なわけがない…誰かに聞こうにも先生はみんな授業してていないし…国語が恋しい…私は国語と共に生きていく…」
「………そうだ!!」
何か思い出したかのように有紀は勢いよく亜希に詰め寄った。
「亜希まだ自習してくよね?!ちょっとまってて!最強の助っ人呼んでくるから!!」
そう言うと有紀は近くにいた講師に声をかけた。
「悠ちゃん理科とかめっちゃ得意だったよね?ちょっと来て!」
初めて聞く名前だから最近入った人なのかな…人見知りするから知らない人はやめて欲しいんだけど…でも"ちゃん"ということは女の人かな…それならまだ平気かも…と使いすぎで機能しない頭でふわふわと考えていた。
「え…俺コーヒー飲みたかったんだけど…」
有紀に引っ張られて亜希のいるブースに来たのは予想とは違った長身の男性だった。
「亜希!最強の助っ人!今期の冬期講習で私の担当してる悠ちゃん!理科と数学と英語がめっちゃ得意なの!」
「理科がわからないんだっけ?どこ?」
その長身を屈めて問題集を覗き込む。ブース内が狭いので少し窮屈そうにも感じる。
「電流全般が…あの…意味わからなくて…公式とか…
さっそく人見知りを発揮しうまく喋れなくなる。しかしそんなことを気にもとめずノートに公式を書き込んでいく。
「この問題は電流の大きさを求めたいから、I=V+R…つまり『電流=電圧+抵抗』の式を使う。で、この文の中からそれを探すと…」
あれだけ悩んで解けなかった問題が亜希の目の前でスラスラと解かれていく。何故分からなかったのか不思議なくらいに。
「…だから答えは3
「あ…はい…多分。」
「じゃあそろそろ次の授業始まるから俺戻るわ。暫くは同じやり方で解けると思うけど他にもわからないのあったら次の休み時間に聞きに来て。」
「あ…ありがとうございます。」
さっきと同じやり方で解けるならもうこっちのものだ。さっそく残りの問題に取り掛かろうとした時有紀が少し嬉しそうに話し始めた。
「悠ちゃんてすごいでしょ!頭いいし背も高いし顔も結構かっこいいし声もいい!今期の冬期講習悠ちゃんに持たれてよかったー!」
「顔はあんまり見てなかったけど確かに背も高かったしいい声だったね…何より説明がすごくわかりやすかった。あと初めて会ったのにまた聞きに来ていいって……良い人だね。」
今考えみると塾講師なのだから聞きに来ていいと言うのは当たり前のことだったのだろう。
このときの彼に対する印象は「頭のいい凄い人」というものだった。
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