一瞬の砂糖水
深角 舞弘
第1話
「ねぇー亜希…ちょっとこれ見て…!」
高校3年の夏休み
受験生にとってはいよいよ勉強が本格化し始める頃。
そんな時期に、亜希は中学の頃からの友人である有紀とともにファストフード店で昼食を取っていた。
なにも勉強をサボっている訳では無い。
今日も朝から塾の夏期講習を受けてきたところだ。
有紀とは高校こそ違うものの同じ塾に通っているため割と頻繁に顔を合わせている。
そんな彼女が少し照れくさそうに見せてきたスマートフォン。
そこには最近恋人ができると使うカウントダウンアプリの類が映し出されていた。
「えっ…なにこれ。」
こいつにもついに恋人が…と思い覗き込んだそれには彼女の顔写真、その隣には亜希もよく知る人物の写真があった。
それは2人が通っている塾の講師の顔写真。
2人の顔写真の間には『付き合って43日』などと書かれている。
どういうことか理解できないまま固まる亜希を気にもせず有紀は頬杖を付きながら話し始める。
「1ヶ月ちょっと前くらいに告白されて付き合ったんだ〜。元々塾のない日とかに近くの図書館とかで勉強見てもらったりしてて、その帰り道で『あのさ、俺…有紀の事好きなんだよね』って告白されたの。私も割と好きな方だったからオーケーしてって感じ!」
彼女の惚気にも似た説明のおかげである程度は理解ができた。
しかし亜希はこの手の話が大の苦手だった。
女友達といると避けては通れない話題の一つ
『この前彼氏と…』
『昨日告白されて…』
『好きな人ができた…』
いわゆる恋バナというやつだ。
別に恋をすることを否定するつもりではない。亜希自身恋のひとつやふたつしてきた。
しかし他人の惚れた腫れたにどうも興味を持てないのだ。
自分の周りで色恋沙汰について話されることはいいのだがそれに対して上手く反応が出来ず毎回こう答えてしまうのだ。
「へぇー…よかったじゃん。」
如何にも自分は興味が無いですというような返事。
実際恋バナをする友人達は話すこと自体が楽しいのかあまり気にしてはいないようなので問題はないのだが、この言葉を言う度にどこか申し訳ない気持ちになるのだ。
「そういえばさ、亜希は好きな人とかいないの?」
唐突に自分に向いた矛先。
他人の恋バナを聞くのが苦手なだけでなく自分自身の話をするのも苦手なので好きな人ができても誰かに話すことなんてしてこなかった。
「私は恋愛とかにあんまり興味無いからさ…」
自分に話が振られる度にそう言って誤魔化してきた。
自分は恋だの彼氏だのに興味が無い。そう振舞っていた。
「そっかぁ〜…残念。そういえばこの前ね…」
再び始まった彼女の惚気を聞きながら亜希はある事を思い出していた。
そういえば…元気にしてるかな…
今なにしてるんだろう…
自分が最後にした恋のことを。
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