心配性な幼なじみ

潮田 海

幼なじみは僕を理解しない。


事故で両親を亡くし、自分自身も大怪我で身体の大部分は人工的なものに変わっている。心臓は事故の前から変わってないが頭は違う。

  それはもうひどい有り様だったようだ。記憶もほとんど無くし補助装置がなければ生活もできない。かろうじて補助装置に一般的な知識が入っているために日常生活は問題ないが自分の記憶がないというのは、心が空っぽになった、という感覚なのだろうか。



  身体のほとんどが機械になってるから人ではなくアンドロイドではないかと思うのだが、両親の代わりだった祖母はちゃんと人間として育ててくれた。高校に上がってすぐ亡くなってしまった時は「悲しい」という感情が流れた。



  高校はなるべくこの身体のことを知っている友達が多いところを選びたかったが、みんなバラバラに進学するようだったので祖母の家から通える高校を選んだ。まだこの時は祖母は元気だった。



  正直自分のことを知らない人がたくさんいる高校は「怖い」と思ったがいじめられるということはなかった。ただ少し戸惑っているようだった。



  何人か友達も同じ高校に進学したし同じクラスには幼なじみもいたからいくらか気分というものは楽だった。



  しばらくして皆とも打ち解けてきた。人工的な部分が多いせいで動きがぎこちなかったり感情が乏しくても「機械だもんね」と理解してくれていた。幼なじみはそれを聞いて怒っていた。



  幼なじみは祖母と同じように人間のように接してくれていたしできるだけ人間に近づけようと色々と教えてくれた。その多くはすぐにはわからなかったが根気強く教えてくれた。



  自分の大半が機械でできていることが自分の特徴だと思っているし友達も、高校のクラスメートもそう思っているが幼なじみは「そういうことじゃない」と言ってくる。僕にはよくわからない。



  ある時子供が車に轢かれそうになってたところを助けたが足が壊れた。お金がかかるが直せばいいやと思ったが幼なじみは自分をもっと大切にしてと言ってきた。心配してくれているのは「嬉しい」と思うが子供を見捨てることは「悪いこと」だからできない。



  幼なじみは本当に僕のことを人間として見てくれているし人間と同じ基準で心配してくれもするが、自分の構成しているものの多くは機械だということは考えてくれない。自分のことを人間と同じと思ってくれていることは「嬉しい」が機械であることを考えてくれないのは「悲しい」。



  今日は幼なじみが買い物に付き合ってというので街まで出てきている。服を選ぶときは「どっちが似合ってる?」と聞いてくるが幼なじみはセンスがいいのかどちらを選んでも似合っていると思う。どっちも似合ってるよと言うと「そうじゃない」と怒って「女の子がこういうことを聞くのはどちらかを選んでほしい時」と教えてくれた。



  一通り買い物は終わったようで街の中を歩いているとにわかに騒がしくなった。どうやら通り魔が出たらしい。すぐにその現場に駆けつけるために全速力で走った。現場につくとめちゃくちゃにナイフのようなものを振り回している男がいたので取り押さえようとした。至るところに切り傷ができ、腹の部分も刺されたが上から被さるように押さえつけた。



  警察が来たので引き渡して一応救急車で病院に行った。機械を直すために手術になったが命に関わるものではない。



  手術が終わって出てみると幼なじみがいた。泣き腫らした目をしていた。



  心配してくれていたのがとても「嬉しい」と思った。



  幼なじみは心配した、不安だった、と言っていた。僕はほとんど機械だから大丈夫だよ、と説明したが幼なじみは怒ってしまった。



  僕はなぜ幼なじみが怒ったのかわからない。

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