謎の奇病クビチョンパ
頭にすごい衝撃を受けて目が覚めた。
痛みに混乱して何がなんだかわからない。
何分経ったのか、痛みもやわらいできて、少しだけ冷静になってみると、痛みだけで混乱していたわけではないことに気づいた。
首がはずれていた。脱臼ではない。
頭だけがベッドの下に落ちていたのだ。
何を言っているかわからないかもしれないが、実際この通りの事態である。
打った頭をおさえようとして手を伸ばしても何も触れないようなおかしな感覚だったが、そりゃあ触れられない。手の届くところになかったのだから。
困った。
顔がベッドと反対側、しかもうつ伏せ、顔の右半面が接地してる状態だった。右頭あたりが痛いので、そこから床に激突して転がったらしい。顔面から落ちなかっただけ幸いかもしれない。首がはずれるという、人生何百回あろうとそうそう経験できるものではないという不幸の中の幸いを考えて仕方ないかもしれない。
拾おうと思うが、頭と体が生き別れなせいで、体をどう動かしていいかわからない。立ち上がることができるようなできないような。下手に動かして怪我してもつらい。
なんとなく上体を起こせたぽい。軽い。頭がないというのがこれほど軽いものなのか。たしか頭はスイカと同じくらいの重さがあるというから、これがないと肩こりも軽減する。いや、まだ頭はずきずき痛んでるんだがね。そうだ。スイカと同じ重さがベッドから落ちたんだからそりゃあ痛い。
とりあえず体をうまく動かして頭を拾わねばならない。頭の重さがない分、これまでと違うコントロールが必要になるんだろう。
頭のほうから動けたらいいのに。なんかのホラー映画であったよな。頭から虫の脚みたいなのがはえてしゃかしゃか歩くやつ。あんなのができたらいいと思う。
こんな状況にでもなってみないとそんなこと思いもせんだろうな。
顔がベッドと逆を向いているので胴体がどう動いているのか見えない。
あ。冷静になってみると、慣れ親しんだ自分の部屋だ。胴体からはずれた首の意識で胴体をコントロールしようとするからうまくいかんのだ。
目を閉じて、体の感覚だけで動けばいい。そうそう。ベッドの
頭との位置関係からすると今立っている位置からしゃがんで、10時の方角に手を伸ばせば当たるのではないか。よし。うまくいった。生き別れの頭と体が再会したよ。痛む右頭を手で撫でる。位置関係があり得ないので、他人の頭を撫でてると同時に他人に頭を撫でられてるような妙な感じだ。
首を元の位置につけてみようとしたが、やっぱりつかない。とりあえず形だけでも本来の位置であることにしっくり来る感覚はあるが、元の通りにくっつくことはなかった。そんな都合良くいかないのだろう。じゃあなんの都合ではずれたんだ。なんではずれたんだ?
別に変なものは食べてない。
だいたい首がはずれる食べ物ってなんだ。
「おいしくって頭が落ちちゃう」とか言うのか。
ちゃんと昨日のおかずの魚は尾頭つきで、頭は取れてなかった。
めざしだけどな。
頭を脇にかかえる。
そういえば昔、こんな悪役キャラのいるアニメがあったなぁ。
まあいいや。
とりあえず、出掛けなれば。首を拾うのに時間をくって、出勤時間に余裕がない。
なんかあって首を落としたらものすごく痛いと思うので注意しないといけない。下手をすると致命傷になりかねない。なにせ受け身が取れない。
こうして脇にかかえていると頭というのはかなり重い。腕がだるい。
スイカくらいの重さの頭を抱えて動くのは慎重にせねば。駅まで自転車で走らないといけないが、どうしよう。
かごに首を置くと、すわりが悪くて痛いし。
脇にかかえたまま運転すると、落とす危険がある。
よし。今日は会社に電話かけて休もう。
スマホを取る。頭の位置と手の位置の関係に少し慣れてきたが、通話するときに顔の横にスマホを構える姿勢に違和感が拭えない。左手で抱える頭に右手でスマホをあてがっているのだ。
「もしもし……」
『なんだ。おまえか。なんだと? 体の具合が悪い? このクソ忙しい時期に……。以前も風邪とかいって休んでたが。そんなことしてるといつまでも首がつながってると思うなよ』
「いや、首、つながってないんですけど」
謎の奇病シリーズ 鐘辺完 @belphe506
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