金星記 第14話 「さすが『蒼き太陽』!」
フォルザーニー家の中核を担う男性陣三人を見送った後の玄関で、見送りに出ていた家の者がおのおのの持ち場に戻るために動き出していた時だった。
「グライさま、ユーファちゃんのおとーさまといっちゃったの?」
レナがそう言いながら服の裾をつかんで振った。アイシャは振り向いて「ええ、お仕事だそうよ」と答えた。レナが口を尖らせて黙った。
アイシャが彼女の目の前にしゃがみ込む。目線が近づく。
「レナちゃん、グライ様のこと、好き?」
レナが「すきぃー」と答えた。「そう」とアイシャは微笑んだ。
「レナちゃんグライさまダイスキ。かえってきてほしいよぉ」
「もし、グライ様がレナちゃんの新しいお父様になるかもしれない、と言ったら、レナちゃんどうする?」
今度は、レナは首を傾げた。ややしてから、「どーしてグライさまがレナちゃんのあたらしいおとーさまになるの」と訊ね返してきた。アイシャは苦笑して説明した。
「レナちゃん、お母様にグライ様と結婚してほしいと言っていたじゃない。もしお母様がグライ様と結婚したら、今度はグライ様がレナちゃんの新しいお父様になるのよ。難しいかしら。お母様がもう一度結婚する、ということは、レナちゃんのお父様も新しくお母様が結婚するその人になる、ということなのよ」
しばらくの間、レナは大きな目でアイシャを見つめて黙っていた。
ややしてから、笑みを浮かべた。
「やったっ! グライさまレナちゃんとのオヤクソクまもってくれたのねっ」
「え?」と今度はアイシャの方が目を丸くする。
「約束? 約束って何」
興奮を抑えきれないのか、小さく跳ねながら答える。
「レナちゃんね、グライさまにオネガイしたのっ! そしたらねぇ、グライさま、オヤクソクってゆったのよっ」
「お願いしたの? 何を」
「おかーさまがね、グライさまのおよめさんは『オヒメサマ』じゃなきゃダメってゆうからね、レナちゃんねぇ、グライさまに、おかーさまをグライさまの『オヒメサマ』にして、ってゆったの。そしたらね、そしたらね、グライさまね、おかーさまもレナちゃんもいっしょにグライさまの『オヒメサマ』にしてくれるってゆったの!」
アイシャはしばらく、呆然とレナを眺めていた。すっかり辺りに誰もいなくなってしまってから、「あら、そうだったの」と呟いて、笑った。
腕を伸ばして、レナを抱き締めた。レナが嬉しそうな甲高い声で「きゃーっ」と叫んだ。
「そうだったの……レナもお母様も一緒にお姫様にしてくれるっておっしゃったの」
「うんっ! レナちゃんちゃんとオヤクソクしたのよっ」
「そこまでおっしゃるなら仕方がないわねぇ」と囁く。
「それなら、お姫様にしていただきましょう。ねぇ、レナちゃん。今度お戻りになられたら、レナちゃんとそうお約束なさったんでしょ、と言ってきちんとお約束を守っていただくことに致しましょう」
「――で、僕が結婚したら、僕の家を陛下が建ててくださるんですよねっ? ねっ? ねっ? 来月結婚するのでよろしくお願いしますねっ。妻と娘が待っているので超急いで建ててくださいます? あ~もちろんそうですよねぇ~、さっすが『蒼き太陽』太っ腹だなぁ~」
「貴様……っ、貴様もさっさと別の女と結婚するとは聞いていないぞ……っ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます