「きっと勝てる」

 馬鹿騒ぎから一夜明け、ダイナソアは、ついにサクリファイス討伐作戦を決行した。


「こちらディノニクス、配置についた」


 ドイ・インタノン遺跡から西方約5キロメートル地点の山中。ボディをかがめて樹林に身を隠すディノニクスのコクピットから、玲はフィールハイトに通信を送った。


『ミステイク了解。現在エーテル充填率64%。充填完了予定時間まで残り30秒』

「了解」


 通信を切断し、玲は膝の上の玉姫に声をかける。


「悪いな玉姫、駆り出しちまって」


 玉姫は尻尾をわさわさと動かした。


「全然オッケーだ! 玉姫もご飯の代金分くらいは役に立ちたいからな!」


 玉姫、やる気満々といった声。彼女を連れてきたのはぶっちゃけ念のためで、作戦内容には全く絡まないのだが。


「それに、玉姫もサクリファイスは放っておけないと思ってた。あいつは、禁断領域に入ってきた人間を何人も殺してきた、とても危険な存在だ」

『こちらミステイク。スナイパーバンカーのエネルギー充填率、100%に達しました。いつでも撃てます』


 フィールハイトが簡潔に状況を報告する。今充填が完了した武装は、作戦の要だ。


【SiZ-11 SSW スナイパーバンカー】圧倒的な破壊力と射程を併せ持つ、ミステイクのスーパーサブウェポン。長大なETタングステンカーバイド杭弾を高速で射出する対城塞兵器だ。エーテルを限界まで注ぎ込まなければならないためエネルギー充填中は移動すらままならなくなるが、その貫通力はクルセイドが運用しうる兵器の中で最高位に属する。非凡な威力の狙撃銃はその外観も非凡。全長30メートルはあろうかという銃身を持ち、人間用の火器ならスコープがあるべき部分より、翼の骨格を思わせるマガジンが空に向かって生えている。


「ディノニクス了解。【ドッグフード】を遺跡へ向かわせてくれ」

『了解』

「れーくん、ドッグフードって?」


 フィールハイトの通信が切れたところで、玉姫は玲に尋ねた。


「サクリファイスを誘き出すための人型囮ロボットだよ。さすがに、俺が囮になるわけにはいかねぇからな」


 玲は息を吐くように嘘を吐く。本当はアルゴメイサの捕虜だ。


 今回の作戦を簡単に説明すると、まずは遺跡の入り口付近にアルゴメイサの捕虜を投入。外から狙える位置にサクリファイスを釣り出したところで、スナイパーバンカーによる狙撃を見舞う。それでくたばれば御の字。くたばらなければ玲が強襲しフィールハイトと連携して殺す手筈になっている。転移される前に最大火力を最高速度で叩き込んで可及的速やかに抹殺。極めてシンプルな作戦だ。


 玲はディスプレイに表示した簡易地図とマーカーでドッグフードを運ぶ自動運転トラックの動きを確認する。このペースなら到着は十分後だろう。


「さて、いよいよか」


 戦闘開始の時間が迫り、玲はエーテルを片喰に注ぎ、キャパシティの50%程度まで溜めておく。本当は100%にしたいところだが、大量のエーテルを溜めたままで放置すると刀身が劣化するため、抑えておく。


「ねぇ、玉姫は何をすればいいんだ?」


 たまきは手持ち無沙汰なようでそわそわしていた。


「知恵袋だな。何か分からんことあったら聞くから教えてくれ」


 玉姫の強大な力については身に染みて知っているが、いつかフィールハイトに言ったように、情報源以上の利用をするつもりはないのだ。


「わかった!」


 玉姫は特に文句も言わず、元気な声で返事をした。


 きっかり十分後、輸送トラックの遺跡到着を確認したので、玲は遺跡に侵入させた捕虜たちが装着しているカメラの映像をディスプレイ下部に表示した。彼らは人型ロボットのように見えるが、パワードスーツを装備させたアルゴメイサの捕虜だ。


 玉姫に何か言われることを防ぐため、音声は志向性スピーカーで聞く。


『ダイナソアのクズ共……次は何をさせる気だ』

『どうせろくなことじゃねぇよ。収容所から連れ出された奴らは、誰も帰ってこなかったしな』

『ご丁寧に首輪爆弾まで待きやがって……親族を人質に取られてる時点で、逆らえるわけもないってのに』

『……呪われろ……』


 憎悪と絶望と諦観がこもった声の数々。玲は特に何も思わない。所詮、今から死ぬゴミの遺言だ。






「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


「……なかなか喰いついてこねぇな」


 玲はぽつりと呟いた。


 捕虜共を遺跡へ侵入させてからすでに一時間が経過。しかし、サクリファイスの接触はない。

 遺跡に侵入後、一時間生存以上できる可能性は0.3%未満。有りえないとまでは言えないが……少々、不安になる。


「玉姫、お前の方で何か気づいたことはあるか?」


 雑談しながら待機するアルゴメイサの捕虜を観察しながら、玲は玉姫に問うた。


「うーん……今のところ、映像に疑問を感じる点はないな……」


 まぁ、何かあったら言っているだろう。


「フィールハイトは?」

『……』

「フィー?」


 フィールハイトが押し黙っているので、玲は怪訝な顔をした。


『……嫌な予感がします』


 ややあって絞り出されたフィールハイトの一言に、玲は思い切り顔をしかめた。


 一流のクルセイドプレイヤーになり得る人材にとって予感とは、ただの勘ではなく、現在の情報を材料に無意識領域下で未来を予測演算した結果のシグナルであることが多い。特に、超遠距離から魔法のように狙撃を成功させるフィールハイトの予感はプレイヤーの中でも指折りの信頼性を持つ。引き金を引いてから弾着までに大きなタイムラグがある長距離狙撃には、未来予測が不可欠だからだ。


「わかった。作戦中止。速やかに撤収しろ」


 玲の判断は速い。一月をかけた作戦であっても、躊躇いなく中止の命令を下す。


 ……だが、それでも遅かった。


 ディノニクスの眼前に、サクリファイスが出現していた。


「――っ!」


 敵の姿を確認して、玲の体感時間が極限まで引き延ばされる。サクリファイスは、その身の丈を超える巨大な骨塊を振り上げていた。その巨大な凶器は瞬きよりも速く振り降ろされ、ディノニクスをスクラップへと変えるだろう。


 必殺と呼ぶに相応しい、反応困難な奇襲。しかし一度不意打ちを受けている玲は、ほとんどノータイムで反応した。サイドブースタに全てのエーテルを注ぎ込み、凶器の退避を試みる。


 叩き潰されるか、躱せるか。確率は五分と五分。運命の天秤が不安定に揺れるその瀬戸際で。


 ――炸裂する破壊的な凶弾。


 槍のような杭が、サクリファイスの胴体を貫通した。


 スナイパーバンカーによって放たれたのだろう杭弾は、着弾の余波でサクリファイスを骨塊ごと百メートルほど吹き飛ばし、煙を巻き上げて地中深くへと突き刺さって見えなくなる。……サクリファイス出現とほぼ同時の着弾。予知能力じみた狙撃技術だ。


『損傷はありませんか?』

「お前のおかげでな。助かった!」


 言いながら、玲は追撃に入る。計画は狂ったが、スナイパーバンカーによる先制攻撃は成功した。このまま一気呵成に滅殺する。


 倒れているサクリファイスに、玲はサウザントの連続発砲。サクリファイスは跳ね起きて、左右に躱す。躱す。躱す。全く当たらない。玲は舌打ちをして、剣を閃かせ突撃する。サクリファイスは迎え撃った。


 片腕で振るう片喰と両腕で振り回される骨塊。撃ち合いは不利。玲はそう判断し、まずは一撃回避することにする。ハエを潰そうとするように思い切り振り降ろされる骨塊。右に躱したディノニクスの代わりに大地が真っ二つに裂けてクレバスを形成する。


 隙になると判断したのか、サクリファイスは骨塊を捨て、その不気味な手足をディノニクスへ矢継ぎ早に繰り出す。玲はその全てを回避しながら、一際大きく振りかぶられた拳をすり抜け、すれ違いざまに胴体へ一撃。同時に片喰のエーテルを解放。光の斬撃と鋼の斬撃を重ねて叩き込んだ。


 閃光。サクリファイスはくの字に体を曲げながら吹き飛びバウンドしながら地面を猛烈な勢いで転がる。手ごたえはあった。だが、胴体の切断には至っていない。……戦略級兵器並みの耐久力だ。どうかしている。


「ア……」


 1500mを転がったサクリファイスは、立ち上がったかと思うとエビぞりになる。片喰による傷口がビリビリと引き裂けて、妙になまめかしい口が出現する。


「ダアダダダアアダダアアアダアアアダアア」


 生理的な嫌悪感を抱かせる、おぞましくも恐ろしい声を発しながら、サクリファイスは腕の一つで大地を掴み、全身を持ち上げる。さながらそれは、大地に根を張る邪悪な樹木。ひじが曲がり、筋肉が隆起して、砲撃のようにサクリファイスは飛び出した。


 ディノニクスの最高速度にも迫る速さ。しかし同程度の速度なら、見えていれば避けれる。玲は冷静にサクリファイスの進路を外れ、横っ腹に散弾を叩き込もうとして――サクリファイスの腫瘍のひとつが大爆発を起こした。


 進路変更と瞬間的な超加速を果たしたサクリファイスはディノニクスに体当たりをかます。運動エネルギーをそのまま打撃力に変換したタックルの威力は、大型徹甲弾のそれをも超える。空中だったことが功を奏し衝撃自体は大幅に殺せたが、それでも装甲に無視できないダメージが入った。


 サクリファイスの攻撃は終わらない。いびつな手足がディノニクスに絡みつき締め付ける。攻撃は終わらない。サクリファイスはヘッドバットのように眼球の塊をディノニクスの頭部へ叩きつけた。ディスプレイの映像が激しく乱れ、慣性制御が効いているはずのコクピットにまで揺れが伝わってくる。


「舐、めんなァッ!」


 玲はサクリファイスにサウザントの銃口を密着させて、撃って撃って撃ちまくる。青黒い皮がベロリと剥げ、肉がやすり掛けされたように削げ落ち、体液が飛び散る。しかし拘束は緩まない。


「ブァル=ボアル=ゼ=グァル」


 ヒキガエルの鳴き声にも似た詠唱。


 それが、空間転移魔法の呪文だと玲が気付いたとき、既に一機と一匹はドイ・インタノンにはいなかった。


 飛ばされた先は、ドーム状の洞窟だった。


 ほのかに発光する色鮮やかな結晶の層が浮き出た天井。その下にあるのは、太古の神殿を思わせる巨大な石造建造物。規模だけなら名だたる宗教の聖地にも引けを取らないが、至る所に飾られた醜いオブジェの数々からいって、信仰していたのはまともな神ではないのだろう。


 ディノニクスに組み付いていたはずのサクリファイスは宙を舞っていた。眼球の塊には風穴があき、無数の眼が体液を流して潰れている。……どうやら、ワープする直前にフィールハイトがスナイパーバンカーの二発目を当てたらしい。


 その時。サクリファイスの姿が掻き消えた。そして取られたのはディノニクスの背後。サクリファイスが吹き飛ばされながら呪文を唱えていたのだと気付いたときには、機体頭部をつかまれて石床に押し付けられていた。


 サクリファイス腹部の口に機体胴部を齧りつかれる。メギャメギャメギャメギャ、黄ばんだ臼歯に食いつかれた装甲が激しい音を立ててへし曲げられる。すさまじい機体へのダメージにエラーメッセージの悲鳴が上げる。


「死んどけよクソが!」


 玲はブースターを全開にしてサクリファイスごと飛びあがると、岩壁にサクリファイスを押し付けて、ガリガリと擦り付ける。耕されるように抉れる岩肌。空間を半周ほどしたところで、サクリファイスはディノニクスから離れた。


「ブァル=ボアル=ゼ=グァル」


 サクリファイスは落下しながら呪文を詠唱し、ディノニクスへ向けて腫瘍を投げつける。爆発を予期した玲はすぐさま後方に回避して――――ガツン。背部が腫瘍と接触する。


「ッ、のッ!」


 物体だけの転移。出来る可能性は当然考えていた。だからといって対策できるようなものではなかった。


 腫瘍は一瞬にして病的に膨れ、爆裂する。玲は咄嗟に爆風と同方向へ飛ぶことで機体ダメージを抑えるが、そもそもの威力が絶大過ぎる。背部集音マイク機能停止およびメインブースター一部破損。推力26%ダウン、装甲強度平均52%ダウン。背部に限れば装甲強度89%ダウン。シャレにならない。


 ブースターを吹かせて空中で体勢を立て直す。サクリファイスは追撃のそぶりさえ見せず、岩盤に指先を喰いこませて、意味もなく壁を這いまわっていた。一体何なのだこいつは。


 銃撃で牽制しながら玲は思考を回す。強制排輝とスナイパーバンカーを合わせて三度、クリーンヒットさせたにもかかわらず、敵は健在も健在。死ぬ気配すら見せない。


「……れーくん」


 しかしそれでも短期決戦を狙うしかない。長引けば、テレポートによる回避困難な攻撃で先に削り切られる。急所狙いで一気に片を付けたいが、いったいどこが急所なのか。そもそも急所など存在するのか。玉姫からの情報にはなかった。戦えば見えてくるかとも思っていたが、見えてきたのは相手の底知れない力だけ


「れーくん!」


 と。そこで玲は、戦いに集中するあまり玉姫を思考の外に置いていたことに気が付いた。


「玉姫も、力を貸すぞ。二人の力を合わせれば、きっと勝てる」


 玉姫は力強く言い切った。戦いの熱で知らず煮えていた頭が冷静さを取り戻す。


 使える物は全て使うのが玲の流儀。にもかかわらず、玉姫の持つ力を活かすという考えが浮かばなかった。……どうやら、サクリファイスに調子を狂わされていたらしい。先手を取られると崩される性質は、何年経っても治らない。


「悪い、頼っていいか」

「もちろんだ!」


 快い返事。いったいこいつはどれだけ俺の好感度をあげれば気が済むのだ、と、玲は思った。

 ともあれ、ここからが反撃だ。


「なぁ、どれくらいフォローすれば、あの雷をアレに当てられる?」


 玉姫は顔を曇らせる。


「…………動く的に当てる自信はない。一秒でいいから完全に動きを止めてほしい。どうにかして、当ててみせる」


 別に外しても恨みはしねぇよ。と、玲は笑った。


「それじゃ、始めてくれ」


 玉姫は静かに頷いた


「……ラ=ジム=ガファ=ゲム=フェルド……」


 玉姫の詠唱が始まったことを確認して、玲はディノニクスに命令を下す。

 サクリファイスに向かって、愚直とさえいえる直線の突撃。速いが、ただそれだけ。サクリファイスは嘲笑するように腹部の口を歪ませて、早口で呪文を詠唱しながら、片腕で体を持ち上げた。


 彼我の距離が百メートルを切ったところで、サクリファイスの全身の腫瘍が大爆発を起こす。一つでさえ大威力な爆弾の一斉起爆はもはや核兵器並みの威力だった。玲は速度をそのままに百八十度進路を変えて爆風をいなし、その威力が無視できるレベルに低下してから再突撃。


 爆風の向こう側にサクリファイスはいなかった。


 その事実を玲が認識するとほぼ同時、サクリファイスがディノニクスの隣に現れた。


 回避の間すら与えず、サクリファイスの口内に並ぶ臼歯の列が左腕部を挟み、サウザントごと食いちぎる。


 ――――かかった。


 玲は凶暴な笑みを浮かべ、ディノニクスの鉤爪でサクリファイスを捕らえ、鷹のように舞い上がる。

 テレポートを利用した攻撃に対し、完全な回避は諦め、いくらかの損傷と引き換えに攻撃へ転じる。……その作戦は一種の賭けだった。しかし、はたして玲は賭けに勝った。サクリファイスは詠唱が終わるまで空間操作を使えない。幸運なことに厄介な腫瘍も今は失われている。ここで、勝負を決める。


 鉤爪でサクリファイスをギチリと拘束し、ディノニクスはコンマ一秒以下で祭壇の最上部へと移動する。

 玲は一回転してサクリファイスを祭壇の上に勢いよく叩きつけ、岩に喰いこませた鉤爪をパージ。まさしく名の通り生贄のようにサクリファイスを縫い止める。


「シア=イル=ゼ=ソル」


 時を同じくして、玉姫の詠唱が終わった。


「今だ玉姫! やれ!」


 弾かれたようにディノニクスがその場を離脱。玉姫は、カッと目を見開た。


「応じよ――ジゴレイズ!」


 目を灼く閃光が祭壇に直撃した。


 それはおよそ落雷という事象の極限。あまりの強光によってディスプレイは真っ白に染まり、一拍遅れて訪れた雷鳴がディノニクスを揺らす。

 期待を大きく上回る強打。クルセイド一個中隊を蒸発させるような一撃だった。


「…………ァ」


 それでも敵は死ななかった。

 ボロボロと表面が崩れる腕で己を拘束する鉤爪を引き抜いて、乱暴に投げ捨てる。


「…………エエエェアエエエエエェェエエ!」


 黒焦げの巨人は炭化した二つの脚で立ち上がると、ひび割れた腹の口で身の毛もよだつ金切り声をあげた。


「………………あれで死なねぇのかよ。信じがてぇな…………」


 ディスプレイに映るサクリファイスを見て、玲は顔を引きつらせる。あの雷撃は、ダイナソアが誇る衛星砲に比肩するほどの威力だったはずだ。それを受けて倒れないとなるとその耐久力はもはや戦略拠点以上。機動城塞並みだ。


 不味い。玲の表情が硬くなる。大ダメージこそ負わせたものの、状況はあまり好転していない。今までのサクリファイスにはどこか油断があったが、今の一撃でその余裕は水分と共に蒸発した。

 手負いの獣ほど厄介なものはない。格上だというのならばなおさらだ。


 片喰のエーテル許容限界突破通知がディノニクス内に若干のむなしさを伴って響く。あの落雷から生き延びた怪物を、この一撃で仕留められると思うほど玲は楽観的ではな……。


 何かが引っかかる。


 ……己は、何か、戦況を根底から覆す単純な切り札を、見落とし続けているのではないか……。

 玲は慎重に、だが可能な限りの高速で、かすかな手掛かりを手繰り寄せるように思考を回す。魔法。雷。斬撃。エーテル=魔力。……エーテル吸収鋼。


 ――勝機が、見える。


「玉姫、剣に雷を落とせ!」


 玲は叫ぶ。


「え、ディノニクスが持ってる剣にか? でも、小さな的にピンポイントで当てるなんてできな」

「ずれたらこっちで調整する! だから早く!」

「わ、わかった!」


 玉姫は焦ったように頷いて、二度目の詠唱に入る。……どうなるかは全くの未知数。しかし賭けるしかない。

 サクリファイスに攻撃の前兆。牽制の意味で強制排輝の斬撃を飛ばす。当然容易く躱される。……有効な手札を一つ使い棄てた。実質的にもはや後はない。


 ここで決める。


「――応じよ、ジゴレイズ! ……れーくん!」


 稲妻がディノニクスの真上から降り注ぎ、玲はそれを斬り裂いた。


 雷切。


 稲妻でありながら魔力=エーテルの性質も持つジゴレイズ、玉姫の雷は、片喰に宿った。


 ディスプレイにエラーメッセージ。右腕武装エーテル吸収限界600000パーセントオーバー。迸るエネルギーによって片喰が強烈に白熱し、到底収まりきらない白雷が蛇のようにブレードを這いまわる。

 凄まじい雷撃を纏った片喰を脅威に感じたのか、サクリファイスが高速で呪文を詠唱し始める。


 逃がさない。


「消、し、飛べェェェエエエエエエエエエエエエエッッッ!!!」


 魔性の雷撃が、排輝機構の補助を受けて斬撃と成る。


 玲の目は、その軌跡を追えなかった。


 コマ落ちしたかのように結果だけが残る。


 生贄たる巨人は、己を象徴するような祭壇ごと、真二つに別たれていた。


 サクリファイスの切断された断面から無数に亀裂が走る。ついに、終わった。その確信があった。


「繧医¥繧・▲縺溘ゅ♀蜑阪◆縺。縺ェ繧峨√%縺ョ蜈医↓蠕・■蜿励¢繧狗悄縺ョ閼・ィ√b縲√″縺」縺ィ荵励j雜翫∴縺ヲ縺・¢繧・」


 硝子のように粒子のように崩れていくサクリファイスは、残り少ないだろう力を使って、奇跡的に破壊から逃れていた神殿の隅を指差した。


「窶ヲ窶ヲ繧・l繧九%縺ィ縺ッ蜈ィ縺ヲ繧・▲縺溘ゅ□縺代←繧・・繧頑悴邱エ縺ッ谿九k縺ュ縲ゅ≠縺ゅΑ繝翫Ξ繝・ヨ縲∝菅繧偵√%縺ョ謇九〒谿コ縺励◆縺九▲縺溘h」


 そして最後に、驚くほど人間らしい切なげな声で、何かを言い残してから。

 異形の巨人は、砕けるように崩れて、消え去った。

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狂乱する領域の機装尖兵(ディノレクス) 那波為 辰彦 @NBTMTTHK

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