日付のない紙片

年月日入力なし

 出力開始。このデバイスを使うのは初めてだ。今、ぼくの前には有機コンピュータと生体センサーを紙の繊維に練りこんだ藁半紙の手帳が見える。これがいかに便利なデバイスかはリアルタイムで実感できている。驚くべきことに、この手帳はいまぼくの思考をそのまま出力し、それをテキストデータ化し、クラウドサーバー上にリアルタイムで同期している。出力開始と考え出力中断か出力終了と考えるまでは、ぼくの思考はそのままクラウド上に垂れ流しになっている。面白半分で買ってみたが我ながら恐ろしいデバイスだと思う。この種のデバイスは遺書作成とか、小説を書くのとか、プライバシーを鑑みない奴はSNSに接続して使うらしいが、ぼくはそういう用途では使わないだろう。いつか、ぼくが何かを残さないといけないという使命感に駆られたり、一生に一度とない体験をしたりするときに使おう。それまでこのデバイスは自宅の金庫にでも封印しておこうと思う。出力終了。

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