うたた寝のあとに


ヒューと一陣の風が通り過ぎた。

ぶわりと、隅に置いてあったともしびが揺れる。

その音を聞いてだろうか。

私は、浅い眠りの底からバチンと覚醒する。そしてすぐ、少しだけ後悔した。

(……………しまった。また、うたた寝をしてしまった……………)

顔を少しだけ上げて見れば、手燭の灯りが目に入る。その手燭には、まだ火があかあかと灯っていた。

どうやら、幼い二人の娘を寝かせようとお伽話を聞かせていたら、そのまま寝入ってしまったらしい。

上体を起こして娘たちの方を見ると、思わずくすりと笑ってしまった。

(おやまあ。二人とも、また掛布を蹴っている)

夢の中でも、草原を駆けずり回っているのだろうか。そんな想像をして、また少し笑う。


上の娘はもう八つになるのだが、今でも元気よく遊んでいる。よく『わたしはもう子どもじゃないもん』と言ったりもするが、まだまだわんぱくだ。おてんば娘もいいところ。

対して末の娘は六つにしてはおとなしく、どちらかと言えば思慮深い。それでも、姉の後をついてまわってはいつも仲良く二人で遊んでいる。


この子たちは、どんな大人になるのだろうーーーーーーと思って。私はふと、亡き妻のことを憶った。

(そうか……………。君が逝ってしまってから、もう………六年も経つんだね………)

月日が経つのは早い………とは、このことを言うのかもしれない。それは、多分、本当のことだ。


私は、上の娘と末の娘の髪を、順にそっと撫でる。

それから、ずれ落ちていた掛布を掛け直し、起こさぬようにそっと立ち上がった。

隅に置いてある手燭を手に取る。

その灯りを頼りに、私は卓子たくしのあるところへと歩き出した。


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