エピローグ
「
「なっ…!?」
父の友人である越谷紫から、父からの伝言を聞く。
予想外の内容に対し、私は目を見開いて驚いていた。
だとすると、お父さんはどうするつもりなのだろう…?
そう思うと、急に心臓の鼓動が速くなっていた。
困惑している私を見かねた越谷さんが、ため息交じりで口を開く。
「第三者の俺が言う事ではないかもしれねぇが…。一つだけ助言するならば、何があっても、研究所には戻らない方がいいと思うぜ」
『それって、もしかして…』
越谷さんの助言に対し、サティアはその理由を理解したようだ。
「サティア…?」
『…もし、あんたが研究所の連中によって連れ戻されれば、卓に対して。逆の場合は沙智…あんたに対して脅迫か何かをしてくる可能性が高いってことよ』
「そんな……いくらなんでも、彼らがそんな事をするはず……」
サティアが“理由”を明かしてくれたが、私はそれが、どうしても納得できない。
「…あんたは、奴らの元でずっと育ってきたから、連中が実際はどんな事をしでかしてきたのかを知らないんだ。故に、信じられないのも無理はない…。だが、俺が言った事もサティアが言った事も事実であり、可能性としては大いにありえるんだ」
「っ…!!」
越谷さんの真剣そうな表情を見て、私は唐突に理解した。
自分は本当に、
「さて…。道中、気をつけてな」
「越谷さん…ありがとうございました」
こうして一通りの話を終えた私は、越谷さんの自宅から去ることとなる。
再び新宿の地下道を歩きながら、私とサティアは考える。
「研究所に帰らないとなると…どうしようか」
『あんた…会いたい奴がいるんじゃなかったの?』
「あ…!」
腕を組んで考えてくると、サティアがそれに応えてくれた事で、私は大事な事を思い出した。
『話を聞いた時は驚いたけど……そこまで“縁”があるならば、一緒になっても問題ないんじゃないの?』
「サティア…」
意味深な言い方ではあるが、今までの彼女ならば、こういう台詞は口にしなかった。
因みに、サティアが言う“話”とは、私が研究所に捕まっていた際に見た、夢での出来事を指す。
『それに…あの越谷っていうおっさんから聞いた貴女たち緑山家の一族の事も、あの“ガキんちょ”なら受け入れてくれそうだし…』
「…それもそうね!」
サティアの
少し気分が落ち着いた私は、そのまま止めていた足を動かして歩き始めるのであった。
こうして私とサティアは、時空超越探索機を使って、自分達が暮らしていた現代から離れる事を決意する。18年間住んでいた場所を離れるのは名残惜しかったが、これからの事を考えると、そんな悠長な事を言っている場合ではない。
また、父も言っていた“一生を共に過ごしたい”と思える人物も、幸いな事に見つかっていた。そのため、時空超越探索機を使って“彼”がいる時代へ行こうという考えになるのは当然の流れだった。
『座標は、こうで…大丈夫のはず!』
「よろしくね…サティア…!!」
今回は今までとは座標の設定方法が異なるため、サティアは慎重に作業をしてくれた。
そして、現代を去った翌日――――――――
「遅せぇじゃねぇか」
そう私に声をかけてきたのが、蒼色と黒の入り混じった髪を持つ青年――――――エレクだった。
「エレク……やっと会えた…!!」
私は、縋るように彼の胸の中に飛び込んでいく。
彼は吸血鬼なので体は冷たいが、その冷たさは、夢ではない現実だと実感させてくれる。かつて訪れた19世紀頃のイギリスで、ずっと暮らしたいと私は心に決めていた。
「色々とつもる話もあるだろうが、今は…」
「エレク……っ!!」
何かを言いかけた青年に対して不思議に思った私は、口をあげる。
しかし、顎を指で持ち上げられたと思った瞬間、彼の唇が私に触れた。長く厚い口づけではあったが、嫌な気分はしない。むしろ、再会できた事を実感するには十分だった。
「ここは、うちの別荘だしな…。妙な監視もいないし、思う存分可愛がってやるよ」
「うー…」
耳元で囁いてきたため、私の頬が真っ赤に染まる。
私としては、彼がいじめっ子みたいな性格をしているのはよく知っていたので、「やられた」という想いでエレクを見つめていた。
そうして、私とエレクは別荘の方へ向かっていく。
私は、“いろんな時代を旅する”事で研究所が求めている多くの知識を得る事ができた。しかし、その代償に失ったものも大きい。
この先、平穏な生活がずっと約束されている訳ではないが、これまでで失ってしまったものを、これから生きていく中で補っていこうと強く心に誓ったのであった。
<完>
得ると失うの狭間に在りしものは 皆麻 兎 @mima16xasf
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