そして僕達の夏休みが終った [C]part is finish

 全ての生物には、それぞれ役割がある。


 程度の違いはあるが、役割のない生物は存在しない。


 それは動物であっても人間であっても同じなのだ。


 俺はミキに肩入れするばかり、それが見えていなかった。


 冷静に考えれば解る事だったというのに。


 俺の役割がミキの育成と再生であるように『ミキの役割』はタクミを支え続ける事。


『タクミの役割』はそんなミキを受け入れ続ける事。


 役割の大きさは違っても、役割の重さは変わらない。


 だから俺はこの決断に後悔はしない。


 これが考えられうる中で最も合理的な事なのだから。



 ・




 












           ミキを……










 ・



「アッ、ハァッ、ちょっと駄目よ。ここじゃ駄目」

「良いじゃないか。子供のそばでするのも何だかそそられるじゃないか」


「駄目よ、アンッ、タクミが起きたらどうするのよ」

「タクミは今、見ざる聞かざる言わざる状態じゃないか。大丈夫、大丈夫」


「ホント人でなし。でもそこが、アッ、そこが、そこがああおほおぉぉ」


 植物状態から意識を浮上させる事ができた。

 そして最初に聞こえたのは、両親達のおぞまくもケダモノじみた情事中の会話だった。


 時と場所を選んで欲しいと思ったが、余りにも母親の声が動物的なので思わず最後まで聞き続けてしまった。僕の中で母親の呼び名が雌豚に変わった。


 どうやら僕の手術は成功して聴力を取り戻せているようだ。

 但し、瞼を開けている感覚はあるのに映る物といえば闇だけで、視力の方はやはり絶望的みたいだけれど。


 しかし両親の行為を見なくて済んだので、その事に関しては有難いと思う。


 僕が覚醒の意思表示をすると、両親は寸前の行為など無かったかのように感激してくれた。両親からすれば快感の直後に訪れたサプライズなので、その思いも一入ひとしおだろう。


 感激ついでにミキの両親に電話を掛け、直ぐ来るようにとかしていた。


 その前に先生を呼んでくれよと思った。


 ・


「たっくん、たっくん!」


 カラカラと扉を開ける軽い音がしたと思ったらタタタッと足音が聞こえ、勢いよく誰かが抱きついてきた。


 この匂い、この声、この感触。

 ミキに間違いない。


 きつく抱き着いてくるものだから、何だか色々なくだ的な物がひっぱられた感じで痛かった。特に尿道が痛かった。


 僕は抱き着いて来たミキの背中や脇や顔を触り続け、ミキの存在を脳内で確固たるものにしていった。


 Aボタン周辺しか無かった3Dエッジループ的な曲線が、頭の中でどんどん組み上がっていった。


 ミキはノースリーブのワンピースを着ているらしく、そのおかげでほぼ正確に形を読み取れた。


 夏よ有難う。


 ミキの髪型、顔のパーツ、首筋、Aボタン、背中、肋骨、Bボタン。


 まるでソフト制作会社が誇る達人の技よろしく、その3Dモジュールは組み合わさり、さらに詳細な形になっていく。


 2.5次元ミキが完成する直前、尿道が激しく痛んだ。

 2.5次元ミキの完成を待たずして僕の3次元が完成したせいだ。


 ・


「ミキ、それはそうと今日は何月何日?」

「んーとぉ、8がつ31にち?」


 何てことだ、夏休みが終わってしまった。


 僕はまだ全く宿題もやっていないし『くぱぁ(シャイニング自主規制)』の2周目もやっていない。


 ああ、でもゲームはもう出来そうにないから良いか……。


「ホント、心配したんだから。タクミがこのまま目を覚まさなかったら、どうしようかと……」

「そうだぞ。でも本当に目を覚ましてくれて良かった。おかえりタクミ。」


「うん。何て言うか、ただいま」


 両親は彼等なりに心配してくれていたようだ。

 彼等の優しい心に触れ、嬉しさが込み上げて来た。


 植物状態にある息子の隣で情事を敢行かんこうした両親を少しだけ許そうと思った。


「まあでも良かった良かった。1目覚めなかったから、このままなのかと心配したよ」


 え? 今なんて? 1年とか聞こえたけど。


 もしかして、そういう事なのか?


 僕にとっては時間の止まった世界でも、現実ではしっかり時間が流れていたという事か。


 これじゃ本当に竜宮城の浦島太郎だよ。

 まいったな。


「あははは……」


 笑うしかないので、とりあえず笑ってみた。

 久しく喋っていなかったせいなのか、普通に会話をする時よりも喉が痛んだ。


「ぐーたぁが、ずーっと、たっくんのそばについててくれたんだよー」

「そうなんだ。で、グーターは?」


「またねーって、おうちにかえっちゃった」





 あれは幻聴げんちょうじゃなかった。


 僕にはグーターの声が聞こえていた。

 時間の止まった世界で最後に聞いた彼の言葉。


『ミキを頼む』


 彼は星に還ったのだ。

 力を使い果たしたのだ。


 彼とは昏睡状態の時に何度か話した。

 ミキの事が大好きだから、ミキの中にある歪みを治したい。

 そんな想いがひしひしと伝わってきた。


 しかし本来ならミキに注ぐはずの力を、何故か僕に注いでくれたのだ。

 ゆっくりと、1年もの間ずっと。


 ・


「ねえねえ、たっくん」

「ん、何?」


「はやく、ミキとあそぼうよー」


 それは何時もと変わらぬ口調だった。


 僕の目が見えなくなっても、変わらず誘ってくれるミキに目頭が熱くなった。

 涙が頬を伝う感覚があった。


 その軌跡きせきは見えないけれど、その雫が手の甲に当たる重さは感じた。

 見る事とたがわぬ感覚だった。


 僕は今まで見る事を優先してきた。

 感じる事に無頓着すぎた。


 エロゲーだってそうだし、ミキの事だってそうだ。

 ちょっと変わってるという理由だけで、彼女を暫く避け続けてしまった。


 彼女を見るだけで、彼女を感じる事をしてこなかった。


 本当は感じることも見ることも、同じ重さだけ大切だった。


 その重さに優劣なんてなかった。


 それが解った今、こんなにも自然に言葉を紡げる。


「ミキ、ずーっとたっくんといっしょがいい!」

「僕もミキと一緒が良いに決まってる!」


 今からずっと、これからもずっと。


 それはまるで、向日葵の花言葉。


 いつまでもいつまでも、変わる事無く続く想い。


 ・


 両親達は帰ったが、ミキは病室に残って僕の手を握り続けていてくれた。


 僕達は足りていなかった空白の時間を埋めるように、飾らぬ言葉でお喋りを続けた。


 時計のアラームが深夜0時を告げた時、僕達の長い長い夏休みが終わったのだと思った。


 そして新しい 周期の始まりを感じた。







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