タクミ 囚われ続ける少年

 自分が今、置かれている立場をやっと把握できた。


 グーターが色々と教えてくれたのだ。

 グーター視点なので色々とかたよりはあるが、何も解らないよりは有難かった。


 彼によると僕は追いかけっこをしていた時、精神異常者の中年男性に誘拐されたらしい。


 追いかけっこなどした覚えは無いのだが、それはまあ良いだろう。

 何処かで僕の記憶が飛んでいるのかも知れないし。


 その後、僕の監禁場所かんきんばしょを見つけたミキが、誘拐犯とペッティングをして僕を助けてくれたらしい。


 うん。さっぱり意味が解らない。


 ミキがどうやって大人の男性と渡り合ったのか聞きたかったが『ペッティング』という言葉が、それを躊躇ためらわせた。


 彼女が僕の知らないところで大人になってしまった事実を認めたくなかったのだ。


 その後、喜々として全裸で踊るように飛び出して行ったミキは、警察の人達を引き連れて舞い戻り、そのおかげで僕は病院へと搬送されたようだ。


 あの純粋で天使のような彼女が露出狂の変態ダンサーになるまでに、一体何があったのだろうか。


 別に気にしている訳ではないが不思議に思う。


 大人の男性とのペッティングは、彼女にとって媚薬だったのだろうか。

 大人の男性とのペッティングは、それほどまでに情熱的なものなのだろうか。

 大人の男性とのペッティングは、それほどまでに狂おしいものなのだろうか。

 大人の男性とのペッティングは、既存の殻を脱ぎ捨て新しい自分を発見するトリガーになりうるものなのか。


「タクミ、ペッティングペッティングうるさいぞ。心の声がダダ漏れだ」


 グーターに怒られてしまった。

 ここは僕の深層心理的な場所らしいので、思ったことが彼には伝わるようだ。


 ならば言い訳はすまい。


 気にしてる。凄く気にしてる。

 気になって気になって仕方がない!


 ・


 彼はあれからもちょくちょく僕の中に来てくれる。

 時間の感覚が麻痺した僕にとって、彼の存在はとても有難い。


 僕の症状は後頭部を圧迫され何日も放置されていた為、存外に重いようだ。


 まず外傷により視神経が切断されたせいで、視力を失っているらしい。

 これは現代医学の再生治療ではどうにもならないらしく、グーターの不思議な力を使ったとしても改善の見込みはないそうだ。


 次に同じような理由で聴神経にも音が伝わらない状態になっているらしい。

 ただしこれに関しては内耳手術によって電極を挿入する事で、回復は見込めるみたいだが。


 そして最後に、これが一番厄介なのだけれど意識を浮上させる事が出来ない昏睡状態に陥っているそうなのだ。


 言葉を選ばずにいうと遷延性意識障害。

 要するに植物状態だ。


 ドラマや映画などで悲劇のヒロインやサクセスストーリーを紡ぎ出す前に主人公がよく陥るあの症状だ。

 僕は何時の間にか物語の主人公にされてしまったようだ。


 テレビで見ている分には感動的だが、いざ自分が同じ立場になった今は感動とか感情移入とかしていられない。


 冷静に一人語りをしているように見えるかも知れないが、内心かなり焦っている。

 ここが内心みたいなものなので言い換えれば、内心の内心かなり焦っている。


 手足をバタつかせることも、大声で屋上から叫ぶことも出来ないので慌てていない風に思われるかも知れないが、かなり切実に焦っている。


 僕は一体、どうなってしまうんだ……。


 目が見えないって何だよ!

 耳が聞こえないって何だよ!

 植物状態って何だよ!


 何だよ何だよ全部何だよ!


 一体僕が何をしたって言うんだよ!


 助けてよ! 

 ねえ、誰か、誰でもいいから、助けてよ!


「タクミ……」

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