中二病でも異能少女まじかる☆ミキは色々したい 後編

 こめかみの辺りがズキズキして目が覚めた。


 左目も何だかジンジンしている。


 あの後、意識を保てずに寝てしまったらしい。


 窓から差し込む優しい光が、まだ朝も早い時間なのだと教えてくれる。

 壁時計に目をやると午前5時40分。


 行動開始だ。


「行くのか?」

「ええ」


 昨日から着たままだった服を脱ぎ、壁にかけてあった中学校の制服に着替える。

 着るものにこだわっている時間はない。


「勝算はあるのか?」

「解らない。でも元の私に戻れば勝算はゼロ。今のうちに動かなければ」


 着替えている時に、無理な運動をした後のような筋肉の張りを感じた。

 特に両腿はガ◯ダムみたくパンパンに張っている。


 でも動けない程じゃない。

 奇跡みたいな能力行使の代償が、頭痛や筋肉痛で済んだのだから寧ろ有り難い。


 デュラれもんなら命と等価交換になる案件だ。


「警察に話したほうが良くないか?」

「考えたのだけど説得するまでに時間が掛かりすぎる。それに最悪、説得が失敗したら気が狂ったのだと思われてママやパパに軟禁されかねないよ」


 グーターを肩に乗せて部屋を出る。


 洗面所に行って鏡を見ると顔中血だらけだった。

 目尻や鼻からの出血が乾燥してパキパキになっており、まるでホラー映画のエキストラだ。


 さすがにこれは拙い。

 この状態で外を出歩いたら絶対補導されてしまう。


 事情聴取という名目で、お巡りさんにメアドとか聞かれかねない。

 そんな事になれば、それこそ時間を大きくロスしてしまう。


 しっかり顔を洗った後、少し腫れている左目を隠すために救急箱から眼帯を取り出して装着する。


 ついでに筋肉痛の両腿りょうももに湿布を貼り、それを隠すように包帯でぐるぐる巻きにしてみた。


 ビジュアル的にどんどん微妙な感じになって行くが、元々見た目なんて気にした事がないので良しとしよう。


 ・


 両親の部屋を覗けば二人共ぐっすり眠っていたので、起こさないよう気をつけて静かに家を出た。

 昨日トレースした道を間違えないように辿って行く。


 犬の散歩に出ていた近所の人が、私を見て怪訝な顔をしていたが気にしては負けだ。


 ラジオ体操帰りの小学生達がしきりに『ねえ、何と戦ってんの?』『ねえねえ、お姉ちゃんには何が視えてるの?』『それってポーズだよね?』『コスプレ? それって中途半端なコスプレ?』『もうそんなの流行らないよ?』『慟哭どうこくとか終焉しゅうえんって言葉、好き?』『いい加減、現実を見なよ』『何時か恥ずかしさで悶え死ぬよ?』『どこ中? ねえどこ中?』『右腕が疼くとなんでカッコいいの?』『子守唄って書いてララバイって読む系?』『お姉ちゃんの設定は何?』と、まとわり付いて来たが気にしては負けだ。


 頭から血を流して転がされていた、たっくんの映像が何度も脳裏に浮かぶ。


 早く助けなければ。


 絶対に助けなければ。


 私がどうなろうと、どんな目で見られようと彼だけは絶対に……。


 ・


 真心正直通りから私達が初めてキスをした神社へと行く間に、打ちてられた廃院はいいんがある。


 大学病院の様に大きな施設ではないが4階建てのそこそこ広い個人病院で、幼い頃に来た記憶がある。何故廃院になったのかは知らないが、私が小学校3年生の頃からずっと閉鎖されたままだ。


 この廃院の一室に、たっくんがとらわれている。

 見た感じ建物内には誰もいなさそうだが、私の眼は誤魔化されない。

 天からの俯瞰ふかんと透視を欺くことは神でもないかぎり不可能だ。


 廃院の正面入口は鎖で閉鎖されていたが、裏口には鎖もなく鍵も掛かっていなかった。


 犯人がこじ開けたのか元々開いていたのかは解らないが、これでガラスを割ったりせずに侵入出来る。


 ドアを開けた先は薄暗く、雨も降っていないのに湿った洗濯物の臭いがした。

 辺りに気を配りながら、ゆっくりと廃院内部へ足を進める。


 階段を上り、目的の階を目指して歩き続けた。


 それにしても、頭痛が酷くてこめかみがズキズキする。

 色々と頭の中で演算が追いついていないのが解る。


 考える分には問題ないが、言葉を発するとまた可笑しな口調になってしまいそうだ。


 ・


 廃院の3階。

 壊れて開け放たれた扉が並ぶ中、一つだけ閉まっている扉があった。


 間違いない、たっくんはあの中だ。


 逸る気持ちに警戒心が薄れ、勢い良くドアを開け放った。


「ぽ、ぽまいは誰氏!?」


 部屋の中央、ボロボロになった椅子に座っていた男がでそう叫んだ。

 ヨレヨレの背広を着て無精髭なのか、お洒落なのか解からない髭を蓄えた男だった。


 やっぱりコイツか。


 その足元には、頭から血を流した意識不明のたっくんがいる。


 よくも、たっくんを……!


 幸い出血は止まっているようだが、早く病院に連れて行かなければ拙い感じだ。

 皮肉な事にここも病院だが、こんな廃院では薬はおろか包帯すら無いだろう。


 私には武器がない。

 身体能力も自虐じゃないがかなり低い。

 だからこの男と交渉しなければ、たっくんを助けられない。

 こんな奴と交渉するしか無いなんて悔しいが、そんな事を考えている場合じゃない。


 残された時間はあと17時間弱。

 余裕は有りそうだがロスタイム無く会話を進めたい。


 となれば男のオタク語を解読している時間が惜しい。


『グーター、アイツの言語翻訳をお願い』

『うむ』


 念話でグーターにそうお願いした。


「無視とかジェットストリームないないだろ産廃! ぽまいは誰氏!」

『無視してんじゃねえぞ、クソ野郎! お前は誰だ!』


「お前を殺す。仮初の姿ではあるが知覚出来ないとは。……愚かなことだ」

『久しぶりね。私が誰だか、本当にわからないの?』


 私の言語も翻訳してくれるようだ。グーターは世界に優しい。


「ぽまい的なブヒれるキッズは知らぬ存ぜぬ!」

『お前みたいな少女は知らんな!』


「我が称号は見透す者ミキ。記憶の深層を走査し覚書を紐解け、!」

『私の名前はミキ。数年前、貴方にラッキョミサイルを放った小学生よ!』


 ・


 そう。たっくんを誘拐した犯人は、私が小学生の頃にラッキョミサイルで攻撃したあの男だ。


 あの時この男が、たっくんを酷い目に遭わせる映像が『未来視』で脳裏に浮かんだのだ。


 当時は自分の意志で能力を使う事が出来なかったので、それは本当に偶然だった。しかし偶然とはいえ視えてしまった。


 居ても立ってもいられなくなった私は、手持ちの武器ラッキョでこの男を攻撃したのだ。


 警察で理由を聞かれても説明出来なかった。

 説明しようとしたが、そう思えば思うほど頭がこんがらがった。


 親に責め立てられた時も何一つ反論出来なかった。

 まず何から順序立てて話せば良いのか解らなかった。


 たっくんに酷い事をするのはあの男なのに、どうして私が怒られるのか解らなかった。大好きなたっくんに危害を加える人が許せなかっただけなのに。


 私の『何が』『どういう風に』いけないのかが解らなかった。

 何もかも全然解らなかった。


 悪い事はしていないのに、どうしてんな解ってくれないのか。

 どうして私はんなに説明出来ないのか。


 悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて……!


 一晩中大声で泣き喚いた。


 あの時の私は――あと17時間もすれば元に戻るが――圧倒的に賢さが足りていなかった……。


 ・


「ぽまいは過去のラッキョ氏か! もえみがやばいんだが。優勝! MASTER-PIECE!」

『お前はあの時の少女か! ほう可愛く育ったじゃないか。いいぜ! 最高だ!』


「闇の波動を感じる。だが終焉への道は開かれた。神器を奪還し聖戦に終止符を打つ!」

『気持ち悪いわね。もう逃げられないわよ。たっくんを返しなさい!』


「アゲメロのトコすまぬが、このキッズ人権ないまであるぞ。おまチンパンかよ。通夜モード入ってろ。……外装パージはよ」

『威勢だけは良いな。だがこいつの命を握っているのは俺だ。考えりゃ解るだろ。大人しく言う事を聞け。……取り敢えず裸になってもらおうか』


 ラッキョ男は不敵な笑みを向けてきた。

 キモい。鳥肌が立つ。


 気弱そうな外見なので、強気に出ればもしかして……と思ったが甘かったようだ。


 たっくんとの距離は明らかにラッキョ男の方が近い。

 傷口を蹴りつけられでもしたら、彼がどうなるか解らない。


 一般的に、女性が嫌いな相手に対して裸体を晒すのは恥辱だ。

 それは星の記憶で知っている。


 でも私は、見られて恥ずかしいと感じた事は今まで一度もない。

 誰でもんな服を脱げば同じなのだ。


 何故恥ずかしいのか根本的な所が理解出来ない。

 服を脱ぐだけで、たっくんの安全が保証されるなら安いものだ。

 躊躇ためらう理由が見当たらない。


 私はゆっくりと制服を脱ぎ、次いで下着を下ろした。


 でも靴だけは脱がない。


 身体能力が低いのは自覚している。

 だからこそ裸足で地面を歩かないで済むアドバンテージだけは捨てたくはない。


 これから何があるにしても、最低限の備えは必要だと冷静に判断できた。

 普段の私なら何も考えられなかっただろう。


「パンツの圧が鬼。全俺ヴォイ泣き。その幸福委員会委員長への供物くもつはよ」

『パンツがかなり刺激的だな。嬉しすぎるぜ。そのパンツを投げてよこせ』


 ラッキョ男は精神的に追い詰められているだけではなく変態でもあるようだ。

 こんな子供用下着で喜ぶのだから非常識にも程がある。


 投げた下着をどうするつもりなのか……だいたい想像は出来る。

 

 酷かった頭痛も徐々に治まってきている。

 筋肉痛にも大分慣れてきた。


 時間稼ぎにはなるかも知れない。


 そのうち奴は高い確率で私の身体を触りに来るだろう。

 そうなれば私の能力で、弱みを知る事が可能なはず。


 勝てる要素を増やすのだ。


 脱いだ下着をラッキョ男に投げつけ、私は不敵に笑い返してやった。


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