関ヶ原の戦いは小早川秀秋が裏切らずとも勝敗に変化はなかった

 エロい事をしたかった。深夜まで閲覧していた動画のせいなのか。それとも間近に感じるミキが小学校の頃よりも少し成長しているせいなのか。


 理由は解らないが無性にエロい事がしたかった。寧ろ理由は無いのかも知れない。動画の中でお姉さんが出していた喘ぎ声が、脳内で木霊こだまする。動画の中でお姉さんがしてた反復運動が、走馬灯の様に駆け巡る。もう限界だ。僕の理性はここまでだ!


 勢いに任せてミキとの距離を一気に詰めた瞬間、目の前にモザイクが現れた。

 ぐーたぁ……。この部屋は二人だけの空間では無い。その事を思い出し赤面してしまった。ぐーたぁがいるのに性衝動に駆られて行動を起こそうとしていたとは。見られて興奮する程、僕は上級者ではないのだ。


 おかげで頭が冷えて冷静になれた。自分の愚かしさを呪った。いきなりエロい事をしようとした自分を叱咤する。

 いきなりは駄目だ。こういう事には段階が必要なのだ。石田三成も準備を怠ったから関ヶ原の戦いで裏切者を出してしまったのだ。


 僕は自分の行動を恥じつつ台所へと向かった。


 ・


「たっくん、どこいってたのー?」


 台所から部屋へ戻るとミキが近付いてきた。ぐーたぁはと探すと、机の上辺りがモザイクになっていた。そこには『くぱぁ(以下血涙を流す思いで自主規制)』のジャケットが置いてあり、興味を引かれたのかモザイクはそこで静止していた。


「ミキ、台所に行っておやつを食べよう」

「たべるー!」


 台所には僕が準備したおやつを広げておいた。ミキはすぐに部屋から出て台所へ向かって行った。彼女もまた自分の欲求には非常に忠実なのだ。


 僕はバルサンを床に置き、プシュっとボタンを押し込んでから部屋を出た。


 ・


 先ずはぐーたぁという不穏分子を排除する必要がある。ミキとエロい事をするにはぐーたぁが邪魔なのだ。

 見られて恥ずかしいと思うのはおかしな事ではない。ごくごく普通の感情だ。そこに欲望という名のスパイスが加味されているとしても、普通の感情である事には変わりはない。


 ハッキリ言おう。見られていると思うと恥ずかしくて、しっかりふくらまないのだ。排除という段階を踏まなければ満足出来る成果は得られないのだ。

 妖精がバルサンで消えるかどうかは解らないが、僕の想像している感じなら虫みたいなものだし多分いける。


 バルサンならどんな小さな虫も逃さず退治してくれる。

 バルサンなら僕の夢を叶えてくれる。

 バルサンは害虫駆除の製品では無い。

 夢だ。夢を現実にする軽量軍事兵器なのだ。


 僕のバルサンに対する信頼は絶大だった。


 ・


 部屋に軽量軍事兵器を設置した後、ミキと二人でおやつを食べたりテレビを見たりして時間を過ごした。今回の作戦に使用したバルサンは、ノンスモークタイプだ。ノンスモークタイプのバルサンは使用してから1時間待つ事でその真価を十二分じゅうにぶんに発揮する。


 刻々と刻む時計の秒針に意識をやり、1時間経過したところで部屋へと向かった。ミキは台所でテレビを見ながら何か喋ってるようで、その声がここまで届いている。彼女に凄惨な現場を見せたくはないので好都合だ。

 賽はすでに投げられ、その目はもう確定している。『シュレディンガーの猫』の様に、あとは扉を開けるだけで確定した結果が待ち受けているはずだ。そう思いながらドアノブに手を伸ばす。

 扉を開けると部屋はいつも通り綺麗なままだった。僕は事なかれ主義でプライドが少し高いのに加えて、意外と綺麗好きなのだ。ノンスモークタイプのバルサンを選んだのも、霧状の透明な気体が出るだけで部屋を汚すことなく害虫駆除が出来るからだ。

 一通り部屋を見渡したがモザイクは見当たらず、僕は本懐を遂げた喜びに打ち震えた。しかしここで気を抜いてはいけない。かの関ヶ原の戦いにおいて石田三成が徳川家康に負けたのは、何も裏切り者のせいだけではない。油断、そして詰めの甘さが戦を決したのだ。


 僕はバルサンを片付けると掃除機をかけた。勿論、ぐーたぁを吸い取るためだ。目には見えないが、もしかしたらまだ息があって復活の時を虎視眈々と狙っているかもしれない。時間経過で生き返る類のモノノケかも知れない。正体が解らないのだから念には念を入れなければ敗戦してしまう。


 そうやって10分程、念入りに掃除機をかけた後に窓を開け放った。部屋からバルサンの残り香的なものが抜けて行き、代わりに清浄な空気が押し寄せてきた。僕はやり遂げた思いで叫びだしそうになるのを我慢した。大きく深呼吸をして軽くラジオ体操第一の前半部分を模して興奮を鎮めた。

 そうするうちにテレビを見終わったミキが部屋に戻ってきたのだが、彼女の頭上には動き回るモザイクがあった。


 僕は自分が石田三成になった事を悟った。


 小早川秀秋の裏切りは食い止めたが、どこかに潜んでいた脇坂安治を見落としていたようだ。


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