彼等から受け継いだのはミトコンドリアの記憶だけではない
ゲームに夢中で忘れていたが、予定表を見てみると8月1日は学級登校日だ。午前中だけの予定だったのだが、僕は夕方まで居残りをさせられた。
僕の通う中学校では学級登校日に、それまでやった宿題を持って行くのが習わしで、その時までに終えている宿題を提出するシステムを取り入れていた。
ミキやエロゲーにムラムラしっぱなしだった僕は1ミリも宿題をやっておらず、提出できる物といえば『やっていないと胸を張る勇気』しかなかった。当然、担任の男性教師からは厳しく指導され『常日頃から勉強を怠らずに切磋琢磨せよ』的な言葉で怒られた。
余談だが、その男性教師は翌年の10月頃に女性職員用トイレに隠しカメラを設置していた事がバレて学校をクビになった。その画像をインターネットに上げていて、たまたまそれを見たPTA会長が学校に連絡した事で彼の所業が明るみに出たのだ。男性教師もPTA会長も常日頃から切磋琢磨していたのだろう。
僕の他にも数名、1ミリも宿題をやっていなかった生徒がおり、その日は彼等と一緒に夕方まで居残りで宿題をやらされた。
そうそう、以前学級登校日に僕のクラスカーストが1段階上がっていたのを雰囲気で感じたと語ったが、僕の居残り勉強が終わるまでミキが廊下で待っていた事で更に0.5段階程上がったのを実感した。廊下にいる彼女を何気なく見ると頭の上にモザイクが揺れていた。ぐーたぁも学校に着いてきたらしい。
学級登校日の居残りは基本的に自習なので、先生が教室に居る必要は無い。黒板に大きく『自習』と書いて彼は去って行ったままだ。監視者がいなくなった僕達は、当然グダグダ喋りながらの勉強となる。そして予想していた流れだが、僕とミキの関係が話題に上った。
『なあタクミはもうミキとやったのか?』
『まだそこまでは行ってないよな?』
『俺はお前が同士だって信じてるぜ!』
性欲動が抑えられないのは僕だけじゃないみたいで安心した。みんな知りたくて知りたくて仕方ないのだ。
彼等とは別段仲良くは無いが、中学生のこの時期はお互いライバルだと思っていて誰かが抜け駆けしないように監視し合っているのだ。
『僕とミキは産まれた時から一緒にいて、小学校も中学校も同じなんだぜ? アイツの事で知らない事なんてあるわけないだろ。お互い求め合うのは当然じゃないか』
と、ドヤ顔で言ってやったら下校するまで話しかけて来なくなった。冗談のつもりだったのだが、彼等のプライドを傷付けてしまったようだ。自分達より一足先に大人の仲間入りをしたと思ったのだろう。
そうは思ってもそれを訂正する事なく自習を終えて、ミキと一緒に学校を出た。見せつけるように手を繋いで。手を繋いだ周辺の景色にモザイクがかかっていたので、ぐーたぁもしっかり着いてきたようだ。
・
下校途中、買う物があったので100均ショップに寄った。最近の100均ショップは、缶詰や果物まで売っていて小型のスーパーみたいだ。そのうち犬とか猫も100円で扱うのではなかろうか。
僕はルーズリーフを買うために寄ったのだが、目を離した隙にミキが会計前のバナナを食べてしまい、それも合わせて払うハメになった。ミキは基本的にお金を持ち歩かないのだ。
バナナは3房100円。ミキは2房食べてしまっていたので皮と残りの1本をレジカウンターに置いてお金を払った。皮はすぐゴミ箱に捨てたが、お金を払ったそばから商品を捨てる事に違和感を感じずにはいられなかった。
予定外の出費だがAボタンの脳内3Dモデリングを100円で買ったと思えば安い買い物だ。寧ろバナナだけと言わずにキュウリでもナスでも、何ならトウモロコシを食べてくれたとしてもお釣りがくる。ミキが残りのバナナを食べている時に『出し入れして』と注文を付けるのも忘れなかった。
ミキの口の辺りがモザイクになっていた。脳内メモリーが飛びそうになった。見えない方がエロいと思ったのは事実だが、若干ぐーたぁが邪魔だと思った。
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「ママ達はミキちゃんの御両親と明日から旅行に行くから、留守番よろしくね」
帰宅した僕に、母は開口一番そう言った。行き先を聞くと母親は熱海、父親は浜松にそれぞれ1泊2日で行くらしく、帰りは8月3日の夜になるらしい。僕は慣れていたので「気をつけて」とだけ言って部屋へ向かった。
少し僕の両親とミキの両親について語ろうと思う。
僕達の両親は生まれも育ちも同じ地域で、小学生からの知合いだ。中学校も高校も大学も同じで、通っていた塾も同じだったらしい。
父親同士の会社も同じで部署まで同じだ。別にボーイズラブ的な関係ではないが、マイホームもわざわざ隣同士で購入した仲良しさんだ。
母親同士も同じ料理教室へ通っており、別に百合百合しい関係ではないが毎日一緒に買物へと出かける仲良しさんだ。
そう聞けば幼馴染が仲良く成長したのだなと微笑ましい話なのだが、彼等には一つだけ世間の常識と照らし合わせて不可思議な点があった。
学生時代、僕の母親とミキの父親は恋人同士だった。同じように僕の父親とミキの母親も恋人同士だった。それが何故か、そのまま結婚せずに相手を交換してしまったのだ。その理由を聞くと両親の暗黒面に触れる予感がしたので聞けなかったが、とにかくそんな感じで今まで上手く回っているのだ。
そしてここからが本題の不可思議に思う点なのだが、彼等は旅行の際、必ず恋人同士だった昔のペアに分かれて行動する。分かり易く言えば、僕の母親と旅行に行くのはミキの父親であり、ミキの母親と旅行に行くのは僕の父親なのだ。
要するにパートナーチェンジだ。お互いのパートナーをチェンジして、それぞれ熱海と浜松に行くのだ。
そんな旅行に去年は5回も行っていた。今年に入ってからは今回が初めてだが、多分記録は伸びると思う。
小学四年生までは僕も一緒に行っていたが中学校に上がってからは置いて行かれるようになった。ミキは去年まで着いて行っていたらしいが、僕は置いて行かれっぱなしだった。両親的に何か思う所があったのかも知れない。この身を取り巻く現実の何と
僕の父親は僕の母親とミキの母親の体を知っているのだ。ミキの父親もミキの母親と僕の母親の体を知っているのだ。一度で二度美味しい酢豚
両親が旅行中にエロ動画の様な事をしている光景を想像すると、気持ち悪くてゲロを吐きたくなるし実際何度か吐いた事もあるが、登校日の
しかし慣れはしたが、彼等が旅行に出かける度に思う。
『もしかして、僕とミキって血縁なんじゃね?』と。
もし今後ミキに妹か弟が出来る事があれば、自分の妹弟のように可愛がろうと思う。
その日は深夜まで『モザイク処理が施されておらず丸見え』な動画を3タイトル鑑賞してから眠りについた。朧げだが、夢の中で僕はミキと結ばれて、何度も何度も愛を確かめ合っていた。但し肝心な部分にはモザイクが入っていたけれど。
丸見え動画で詳細を確認したのに、これはどういう事だ?
・
翌朝、人の気配で目が覚めるとミキが部屋にいた。ミキの頭の上でモザイクが揺れていた。ぐーたぁも一緒にいるようだ。
両親は朝一で出かけると言っていたので、行く前にミキを家に上げたのだろう。ミキは今年の旅行には着いて行かなかったらしい。
僕は両親に信用されているのか?
あんなワードをミキに教えた僕を信用するとか、親としてどうなのかと思うが、まあ元々貞操観念その他諸々が欠如しまくっている方達なので彼等的にはセーフの領域なのかも知れない。
僕はまだ少し眠たかったので『ミキも一緒に寝る?』と聞いたら『ねるー』とご機嫌で布団に入ってきた。本当に眠たかったので、添い寝とかされると実は邪魔なんだけどな……。
心の中で渾身の言い訳を終えて、寝ぼけているフリをしながらミノムシの速度でミキにすり寄って行った。
眠気はどうしたのかって? 醒めたに決まってる!
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