業の深さは時に自然現象をも味方につける

「ミキ、暫く遊べないぞ」

「えー、たっくんとあそびたいよー」

「駄目だ! このままじゃ僕は駄目になるんだ!」


 河原で遊んだ翌日、訪ねてきたミキに僕は強く言い放った。この前までミキにいだいていた嫌悪感はもう無い。今は寧ろ好意を持っている。


 ぐーたぁの事もぼんやりとだが視認出来るようになった。何がスイッチだったのか解らないがとにかく視認出来るようになった。本来ならこの状態を維持した方が良いのかも知れない。関係性が上向うわむいている今、ミキ達から離れるのは愚策なのかも知れない。タイミングやリズムを断ち切ることになるかも知れない。


 それでも一晩寝ずに考えて出した答えがこれだった。自分が本当に何をすべきなのかがやっと解った気がした。もう迷いはない。


 今僕がやらなければならない事、それは――


 ・


 その事件を知ったのは昨日の夜だった。何気なく見たネットニュースでそれを知った時、僕の中で眠っていた餓狼が静かに首をもたげた。




   ――『くぱぁ(以下紳士協定により自主規制)』 販売停止! ――

                       

 PXS-BOX4のゲームソフトが『不適切な部分がある』として販売が停止された事が判明した。20XX.07.21よりそのソフトは購入出来なくなっている。そのソフトは大阪府に本社を置く『㈱メッサエロイデ』が製作したゲームソフト『くぱぁ(以下見るとベイビーラッシュの恐れがあるので自主規制)』。日本国内のみで販売されていたシミュレーションゲームで、所謂エロゲーと言われているジャンルのゲームである。

 このゲームは 20XX.03.01 から国内の取扱店で販売されていたが、ゲーム内で閲覧できる映像において『一部モザイク処理が施されておらず丸見え』という理由でPXS-BOX4側から販売停止の処置が取られた。これを受けて㈱メッサエロイデは販売分の自主回収を始めている。

 日本最大の電子掲示板サイト『さっちゃんねる』では、『エロゲーよりイケメンを取り締まるべきだ』というコメントが書かれているように、日本では人生イージーモードのイケメンよりもエロにしか行き場のないブサメンに厳しい傾向がある。今回の販売停止を受けて吐き出し場所を失ったブサメン達の一斉発起が懸念されている。現在販売が予定されている多くのエロゲーも、発売前に更なる厳正な審査が導入される見通しで今後同ジャンルのゲームにおいて、お宝映像を発掘するのは非常に難しくなる見込みだ。


 20XX.07.21 (英語記事 Kpear suspension of the salerow)




 ・


 奇跡だと思った。僕が『くぱぁ(以下略――)』を購入したのが7月20日で、発売中止になったのが7月21日。1日遅かったら購入する事は叶わなかったのだ。


 このタイミングで田舎から出てきてくれた祖父達には感謝の念しかない。お爺ちゃん、お婆ちゃん、有難う。因みに祖父達は昨日帰って行った。

 そんな奇跡的に購入できたソフトが発売中止になり、その理由が『一部モザイク処理が施されておらず丸見え』なのだ。大事な事だからもう一度言う。


『一部モザイク処理が施されておらず丸見え』なのだ。


 現在僕がエンディングを迎えて閲覧可能になった動画は3タイトル。そのどれもが5分程のエロシーンだけで構成されており、見えてはいけない所にはしっかりとモザイクがかけてあった。

 要するにその中には『丸見え』動画は無かったのだ。ソフト内に収録されている動画数は、お姉さん50人分のエンディングが3通りで150タイトル。実にあと147タイトルもの浪漫が残っていて、その中に『丸見え』動画が存在しているという事だ。


『丸見え』なのだ。

『モザイク処理が施されておらず』なのだ。


 なんて背徳的な響きなのだろう。僕は成し遂げねばならないと決意した。


 1日3タイトルづつエンディングを迎えたとしても147タイトル全てを制覇するのに50日かかる。それでも良いがそんな怠慢な態度で望んで良いものなのか。存在すると解っていて探す努力を怠るのは愚の骨頂に他ならないのではなかろうか。それに7月中は良いとしても、8月になると流石に宿題をしないといけないので残された期間は9日。1日17タイトル制覇すれば月末には間に合う計算だが、普通にやっていては土台無理なペースだ。


 そう、普通にやっていては。


 僕には時間が必要だった。ミキともぐーたぁとも遊びたいのは山々だが、それだと駄目だ。それだと『丸見え』の事が気になって性欲動が暴走してしまう。


 僕は駄目になってしまうんだ!


 ・


 その日、ミキを追い返してからすぐにゲームを始めた。画面に集中しているので確認はしていないが、タンッ、タタンッと不規則なリズムで雨音が聞こえる。もうすぐ本格的に降ってくるのだろう。天気予報によれば台風の接近に伴い今日から1週間程雨が続くらしい。篭り作業にはうってつけだ。


 ・


 現在4人目のお相手であるレイコさんを攻略中。 一人の攻略相手に対してエンディングは3つあるので、一人一人確実に埋めて行くのがセオリーなのだろうが、どうしても新しいお相手に目移りしてしまう。僕は八方美人なのかも知れない。


 このゲームはイベントを進めていく内に選択肢が現れる。選択肢は3つあって、それぞれ好感度+5、+3、+1 の何れかが上がる。トゥルーエンドへと辿り着くには全ての選択肢で『+5』を選ばないといけない。しかし、何を選ぶのが正解なのかが解らない場合が多々あるのだ。例えばこんな感じで。


 レイコ『へぇ~、ここが君の部屋なんだ。結構片付いてるね』


 ・『レイコのムダ毛処理よりは片付いてるよ』

 ・『そう見えるのはレイコの部屋がゴミ屋敷だからさ』

 ・『そういうのは良いから、取り敢えずやろうぜ』


 どれを選んでも好感度が下がる気がするのは僕だけだろうか。だが実際にこれで好感度が上がるのである。意味がわからない。現実問題、自分の部屋をゴミ屋敷呼ばわりされて相手に好感を持つ女性はいないと思う。


 確かにこれは本格的な恋愛シミュレーションゲームではない。エロい動画を売りにしたゲームだ。シナリオに力を入れていないのも解る。しかしだからといって、この選択肢はあまりにも酷い。それとも僕が解らないだけで『違いの解る男には解る』感じの台詞なのだろうか。そんなわだかまりを残したまま一番下の選択肢を選ぶと好感度が+5になった。


 ・


『くぱぁ(以下ワシントン条約に抵触するので自主規制)』は、好感度が一定以上になるとボーナスステージなるものに行ける。ここでは主人公と攻略中のお相手がデフォルメされたアバターとなり、モンスターとのアクションバトルが繰り広げられる。世界観無視も甚だしい。


 モンスターには属性があり、火、水、風、土、雷、闇、光、淫、痴の9属性に分かれている。しかも、モンスターには毎回ランダムで変化するテンション値という感情のパラメータが設定されており、テンション値によって攻撃方法が変化する。


 主人公達にはHPやMPといったお馴染みの数値以外にも、SAN値やテンション値、ラック値や信仰値といったパラメータがあり、それがまた上手い具合にバトルの駆け引きに使える仕様なのだ。


 力を入れる箇所はここじゃない感が無限大だ。


 ・


 色々と理不尽な気持ちになりながらも、僕はゲームを進めていった。1日17タイトル制覇という偉業を着々と積み重ね、7月31日の夜には全てのタイトルを制覇出来た。勿論、『一部モザイク処理が施されておらず丸見え』な動画も見つける事ができた。嬉しい事に『一部』ではなく結構な数のモザイク未処理動画があった。


 発売元の頭は大丈夫なのだろうか。


 しかしそんな頭のおかしい発売元のおかげで、僕は僅か9日間で女性の神秘へと近付いたのだ。


 攻略期間中、外は台風上陸の影響で雨が降り続いており、どのみちミキと外で遊ぶのは無理だった。母親に買い物を頼まれる事も無かった。雨が降っていなかったら、ここまで効率よく制覇する事は出来なかっただろう。


 雨よ、いや天よ。僕に味方してくれて本当に有難う。

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