ぐーたぁ 妖精または超常現象

 ここまの回想で、可怪おかしな点があるのに気付かれただろうか。可怪しいと言う程でも無いと思うが、ここまで主要な登場人物は僕とミキしか出てこない。普通は幾人かの友達と遊ぶエピソード等が盛り込まれていても良いのではないかと思われた方もいるはずだ。

 しかし残念ながら今後の回想においても友達は登場しない。話がブレるだとか面倒だからだとか、そんな理由ではない。これはひとえに僕自身の問題で、仲の良い友達がいないからだ。


 僕は事なかれ主義であると同時に若干プライドが高いので、こちらから進んで誰かと交流を深めようとはしないタイプだ。クラスメイトに話しかけられれば愛想よく話すが、下校してからクラスメイトと一緒に遊んだりはしない。その結果、中学2年生にもなって親友や心友と呼べる存在が出来ていないのだ。

 それでもクラスカーストでは可もなく不可もなくな場所に留まっていられるのは、僕と同じタイプのクラスメイトが多いせいだ。但し彼等は学習塾に行ったり習い事をしているのに対し、僕は学習塾にも行っていないし習い事もしていない。なので学習塾に行けば親友がいると言う奴はいるかも知れないが。


 何故こんなにも必死でそんな話をするのかと言えば『夏休みに友達と遊ばずにエロゲーを買いに行くなんて変態かよ』と思われたくないからだ。『買いに行くだけで変態だ』と言われれば返す言葉もないが、14歳の健康な身体から取り留めもなく溢れ出るリビドーは自分の意志ではどうにも出来ないのだ。


 エロゲーを買いに行くには行くだけの理由がある。友達がいないからこそのエロゲーなのだという事を解って欲しいのだ。友達よりエロゲーを選んだのではなく、選べる選択肢がエロゲーだけだったのだ。


 エロゲーは悪くない。

 僕も悪くない。

 全ては現代日本における教育現場の在り方が悪いのだ。


 ……主張していて虚しくなってきた。


 回想を続けよう。


 ・


 掌に掛かる僅かな重さに戸惑った。触覚はそこに何かが在るのだと脳に信号を送ってくるが、視覚はその存在を認められずにいた。おでこの上の眼鏡を探すように僕はその存在を探したが、重量以外にその存在を示すヒントは得られなかった。


「たっくん、うれしい? 『ぐーたぁ』はうれしいってー」

「え、あ、ああ……」


 嬉しいとか楽しいとか。


 そんな言葉では言い表せないが、何か特別な秘密を見つけたような、納得できないけど少しワクワクするような。それでいて何だか不気味で、関わりを避けたほうが良いのではないかと思うような。


 そんな気持ちだった。


「やったー! たっくん、やっとよろこんだー!」


 そう言ってミキは僕に抱きついてきた。その瞬間、掌に感じていた重さがスッと無くなり、その代わり背中に回されたミキの手の感触が僕を刺激した。それは嫌な感じでは無く、寧ろ懐かしくてホッとする感じだった。無邪気な笑顔で僕を見上げ、ちょっと強めに抱きつくミキを見ていると何だか申し訳なく思った。


 僕はずっと彼女を無視していたし、ずっと打算的に嫌っていたのに。特に仲良くもないクラスメイトからの視線を気にして、近付いて欲しくないと思っていたのに。


 それなのにミキはずっとミキだった。昔と変わらず、ずっと僕に笑いかけてくれていた。昔と変わらず子供っぽい口調で僕を誘ってくれていた。


 無視していた事も、何かの遊びだとでも思っていたのかも知れない。産まれた時からそうであったように、彼女は僕の事をずっと信じてくれていた。


 それはまるで、向日葵の花言葉。


 ・


 ミキが妖精だと言い張る存在『ぐーたぁ』は、確かに妖精なのかも知れなかった。最初は掌、それから肩や頭の上にも重さを感じだ。

 ちょん、と軽く放り投げた消しゴムを掌で掴んだ時のような、僅かだが、しかしその存在を無視する理由にはならない重量を確かに感じ取った。不気味ではあったが慣れてしまえば好奇心のほうが勝ってしまい、日が暮れるまで僕達は『ぐーたぁ』との交流を楽しんだ。


「ぐーたぁ、ミキのおうちにくるってー」


 公園からの帰り道もミキと『ぐーたぁ』は色々会話していたが、僕に聞こえるのはミキの声だけだった。

 すれ違った近所のおばさんが怪訝そうに見ていたが、別に可怪しく思われる事じゃない。今までのミキなら、そんな目で見られても仕方のない部分もある。しかし今回に限ってはミキが奇異の目で見られるいわれは何処にも存在しない。だって僕の右肩には、視えないけれど確かな重さが存在していたのだから。


 もしかしたらこれまでも、ミキには僕が見えない物や感じ取れない物と触れ合って来たのかも知れない。川のカニもラッキョミサイルもその他の奇行も、実は意味のある物だったのかも知れない。そんな風にも思ったが、流石にそれは無いだろうと思い直しながら、のんびり歩き続けた。自然と手を繋ぎながら。


 そんな経緯で僕とミキ、それから『ぐーたぁ』とで過ごす中学2年生の夏休みが始まったのだ。







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