第3話 ニコル・ディス・アーテュラス、敵(女たらし含む)の襲撃を受ける

■第3話 男装メガネっ子元帥、敵(女ったらし含む)の襲撃を受ける

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第3話

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 闇にひそむ深紅の集団。

 ざわめく森をすりぬけ、切り立った断崖に跳ね、音もなく散る木の葉に隠れ、気配を完璧に殺して。

 無言の集団がぞくぞくと集まってくる。その数、十は下らない。

 全員が口元を黒のスカーフで覆い、同じく黒のベルトを締め、山懐に抱かれるティセニアの前線城砦を寒々とした眼差しで見上げる。

(動きあり)

(準備完了)

(……)

 かすかなためらい。

 風のひくい唸りが疑心の気配を波紋のように広げてゆく。

(殺せ)

 深紅の刺客を率いた女は、右の手で闇を切り払う。

 空に赤く、細く、死神の鎌がかかっている。女のかざす掌から妖艶な光がこぼれ、射し込めて。

 無言の圧声が響き渡る。

(死の娘たちよ)

(殺せ)

 女は光を握りつぶす。深紅の視線が放たれた。

(チェシー・エルドレイ・サリスヴァール。奴を、殺せ)



 ニコル・ディス・アーテュラスはごそごそと純白の軍衣を羽織ると、ポケットからくしゃくしゃになった青いスカーフを引っぱり出した。

 元はきっと艶やかな手触りの青シルクだったのだろうが……いったいいつからアイロンが当たっていないのだろう。

 そう思って、縮こまった皺のすごさを、やや恐怖の面もちでながめる。


 ……あまり触りたくない。


 結局、肩にかけることはせず、もう一度ポケットに突っ込みなおす。

 そうしてから白い手袋をはめ、左の腕に仄かに青い《封殺のナウシズ》、右の腕には血の色に光る《先制のエフワズ》を、それぞれ留めつけた。

 《エフワズ》の内側に揺れる火が、ゆったりと明滅を繰り返しながら、不思議な光の影をルーンの表面に映し出している。

「異常なし」

 何気なくつぶやく。


 ……と。

「師団長ーーーっ!」

 廊下をだだだだ、と走ってくる足音が聞こえた。

「……うう」

 ニコルはがくりと机に手を突いて脱力する。どうやら、この砦から平穏無事に脱出させてくれようという人間は皆無らしい。

「忘れ物ですーーっ!!」

 メイド姿のアンシュベルが飛び込んできた。なぜか手にピンク色のしましまパンツを力いっぱい握りしめている。

 ちなみに、アンシュベルは自主的にメイドの格好をしているのであって、間違ってもニコルがメイド属性だとか、ちっちゃくてふにゅふにゅした女の子を見るとたまらなくハァハァしたくなるとか、そういった不純な理由では決してないことを申し添えておこう。

「荷物にこれ入れとくの忘れちゃってたですっ!」

「うっ」


 ニコルは顔を引きつらせて後ずさった。そのしましまトランクスにはかなり嫌な記憶が(第2話参照)。

「アンシュベル、それはいらない……」

「ぱんつの予備は多い方がよいです!」

 言いながら勝手にリュックを開けてパンツを中にぎゅうぎゅう押し込んでいる。

 いったい何が入っているのか。首都までほんの数日の出張だというのに、とんでもない荷物だ。

「万が一、ということもありますからしてっ!」

「あのね。まさか僕がおねしょするとでも思って」


 ふいに。

 ひやりとする別の気配が背後に忍んだ。《エフワズ》が激しい光の渦を散らし出す。

 あわてて振り向く。と、そこにはいつの間に忍び寄ったものか、ザフエルが無言で突っ立っていた。

「ザ、ザフエルさん」

 びくびくして様子を伺う。

「何か御用でも……」

 ザフエルの目が不気味に光った。

「お迎えに上がりました」

「一応言っておきますが」

 ニコルは電光石火の弁解に走った。

「おねしょなんてしてないし、しないし、今後する予定もないです」

 先手を打って否定されたのも何処吹く風か、ザフエルはリュックからはみ出すピンクのトランクスをじいっと見つめた。

 ぼそりとつぶやく。

「趣味の悪いパンツですな」

「ほっといてください」

「何でしたら私のをお譲りしますが」

「ことごとくお断りします」

「せくしーですぞ」

「……想像させないでください」

 ニコルはやんわりきっぱり断った。

 ここでキワモノぱんつを持たされたとあっては、変態扱いを受けること必至だ。

 半ば強引に話を変えるべく、きりっとまじめな顔をする。

「そんなことより査問会です。さっさと出発させてください」

「そうでした。こちらへ」

 ザフエルは何ごともなかったかのように、すたすたと先に立って歩き出した。


 キープゲートを二階まで降り、外階段に出る。

 ひんやりと漆黒に揺れるノーラスの森が、視界左手前方に広がっていた。

 向かって右手には、丘を避けて蛇行するリーラ川のとろりとした川面。ほのかな蛍光を反射している。

 見慣れた風景だ。なのになぜか、ニコルはぞくりとした。思わず《先制のエフワズ》を見下ろす。


「何か」

 ザフエルが問いかけてくる。《エフワズ》の反応を聞いているのだ。ニコルはかぶりを振った。

「何でもありません」

 西の中天に、まるで猫の爪のようなするどい月がかかっている。


 回廊を渡り、よく整備された庭を通り抜け、石で出来た暗い内城壁のアーチを抜けて、外郭の馬舎へとやってくる。

「遅い。遅すぎる」

 珍しくかっちりと軍装を整えたチェシーが、のんびり草を食む青鹿毛の牡馬を隣に置き、いらいらと腕組みしつつ待っていた。

 ニコルは目を丸くした。

「その軍衣、ボタンあったんですか」

「顔見て開口一番がそれか。何だと思ってるんだ、人のコートを」

 ……常日頃からきちんと前を合わせて着ていれば、誰もそんなことを訊いたりはしない。

 などと心の中でひそかに思いつつ、ニコルはまじまじとチェシーを見上げる。

 チェシーは苦笑いした。

「それより夜駆けは慣れてないんだろう。なるべく早めに森を抜けた方がいい」

「ですね」

 ニコルはザフエルを振り返った。

「では、留守居をよろしくお願いします、ザフエルさん」

「お任せください閣下」

 ザフエルはちらりとチェシーに視線を走らせた。無表情の奥に隠された意図に気付いたか、チェシーは皮肉に肩をすくめる。

「師団長どのは私が責任を持って送り届けよう」

「……不安だ」

「何がだ」

 チェシーがむっとしたように言う。ニコルは勘違いされたと気付いてあわてて手を振った。

「じゃなくて留守番がザフエルさんで大丈夫かな、と」

「何を仰有います」

 ザフエルが心外そうに遮る。

「閣下がいらっしゃらない方がむしろのびのびと」


 ……。


「いえ何でもございません。道中のご無事を、心よりお祈り申し上げます」

 ザフエルは慇懃無礼に敬礼した。

 返す言葉もない。

「いってらっしゃいませ」

 ニコルはザフエルの振るハンカチに見送られ、しょんぼりと出発した。



 難攻不落の双塔に挟まれたアーチをくぐり、向かい側の丘にまで続く城壁橋を降りてゆく。

 ところどころ丸く飛び出して築かれた壁塔にはあかあかとかがり火が焚かれ、剥きだしの岩場を照らし出していた。


 ニコルとチェシーをみとめた守衛が、胸壁の向こう側から身を乗り出した。

「アーテュラス師団長閣下!」

 装具を鳴らして敬礼する。

「お気をつけてどうぞ!」

「ありがとバガンさん。行ってきます」

 ニコルは中空を見上げて手を振った。ぐるぐるメガネがぴかりと炎を反射する。

 歩哨は目を丸くした。

「は、はい!」


 隣で馬を打たせていたチェシーが、ふとニコルを振り返った。

「これは純粋に興味があって訊くんだが」

「はい?」

 城外壁のさらに外、互い違いの段差で放射状に伸びてゆく稜堡を横目に、二人はゆっくりと下ってゆく。丘全体をわざと大きく迂回し取り巻くように作られた道だ。

「第五師団の編成は総数四万五千と聞いている」

「うーん、今のところ歩兵旅団四個、騎、砲、工、猟兵の大隊がそれぞれ一個だから、実質はもう少し少ないかもですね」

 ニコルは否定しない。城砦の内部を見られてなお、規模を隠す必要はなかった。

「それだけの規模にあって君の場合、ほとんどの兵の顔と名が一致しているように見受けられるんだが」

「ほとんどではないです」

 チェシーは皮肉な目を走らせてよこした。

「そのくせわざと私を知らない振りをしたな」

 ニコルは一瞬笑みを浮かべて目をそらした。

「根に持ってますね」

「まあな」

 チェシーは頭を掻いた。

「さすがにあのときは、少々プライドを傷つけられたものでね」

 森のどこか奥深くからオオカミの遠吠えが聞こえてくる。

 ニコルは少し寒さを感じて襟をかきよせた。

「僕の見聞きしてるゾディアック第四師団のサリスヴァールと貴方とでは、印象がずいぶん違ってましたから。でも今は認識を改めてます」

 坂道を下りきると、チェシーは合図して馬の速度を上げた。

「どう改まったんだ。差し支えなければ聞かせてくれ」

「そうですねえ、最初は”ゾディアックの悪魔”」

「最初は、か。微妙な言い回しだな。で、今はどうなんだ」

 ニコルは上目遣いでちらっとチェシーを見つめ、猫のようにちいさく笑った。

「……今は”ペテン師”、かな」


「いきなり何言い出すんだこの野郎」

 チェシーはこらえきれず噴き出す。

「ならば言わせてもらうが、君らの第五師団も、相当悪名高かったぞ」

「何やら聞かずとも分かるような気が」

 くつわを並べ、軽やかに疾走する馬の背で、ニコルは一人苦笑いする。

「ザフエルさんさえいなければ、でしょ」

「ほう、よく分かったな」

 浮かべた愛想笑いが一転してひくひく引きつった。

「……少しは否定してくださいよ……」

「真実を歪曲して伝えるのは私の美学に反する」

 チェシーは顔だけにこやかなまま、違うところをばっさりと否定した。

 言い返しようもなく、ニコルは絶句する。それにほだされてか、チェシーはまた明るく笑った。

「あきらめろ。ホーラダインはゾディアックでも別格扱いだ」


 一直線に伸びる道がノーラスの森へと吸い込まれてゆく。

 周囲は、月明かりさえない真っ暗闇だ。

 ざわめく森を、二頭の馬は抜きつ抜かれつ駆け抜けてゆく。このまま何ごとも起こらなければ、おそらく明日の昼までにはティセニアの首都イル・ハイラームに着けるだろう。

 ニコルは心の中で何度も、順調に進んだ場合の行動を思い描く。

 大丈夫。《先制のエフワズ》に、敵襲の予兆は出ていない。出発前に感じた胸騒ぎも気のせいだろう。そうに違いない……たぶん、きっと。

 ふと、流れる視界の隅にちりっと光る気配が飛び込んだ。金属性の反射だ。

 ニコルは違和感に目をしばたたかせる。

「何……」

 不穏に思い、目で追いながら小首をかしげた――そのとき。

 森が、がらりと様相を変えた。

「周辺に敵影!」

 チェシーが緊迫した声で怒鳴った。

「散れっ」

 闇をつらぬき、一直線に銀の矢が飛来してくる。

 眼を灼いて飛び込むまばゆさに耐えきれず、ニコルは思わず目をつぶり馬の背に突っ伏した。避けなくてはだめだ、そう思っても身体がついてこない。

 ねじれ舞いつつ襲い来る銀の光刃が、左のふくらはぎをかすめた。

「っつ……!」

 焼け付く痛みにニコルは悲鳴を上げ、手を伸ばした。転げ落ちそうになるのを、あわてて馬の首にしがみつく。

 はずれた銀矢が地面に着弾した。鈍い爆発が一つ、二つ。さらにもう一つ。地面をえぐる。青白い炎につつまれた土がはじけ飛ぶ。

 二頭の馬は、立ちこめる塵煙を振り切って猛然と駆け抜けた。

 チェシーが振り返った。

「大丈夫か、ニコル」

 返事もできない。ニコルは片手で手綱をつかみ、苦痛に青ざめた目でチェシーを追いかけた。

「ちっ」

 チェシーは馬首をぐいとひねった。みるみる離されてゆく。蒼銀の炎が、逃げるチェシーを追って二度三度と爆発した。

「チェシーさん!」

 すがるように叫ぶ。

 一瞬、闇と白煙の彼方を走るチェシーの後ろ姿が浮き上がって見えた。

「奴らの標的は私だ」

 せっぱ詰まったチェシーの叫びが返ってくる。

「君を狙ったわけじゃない」

 ニコルは腕のルーンを睨み付けた。頭がまだ混乱している。

 奇襲前に《先制のエフワズ》が反応しなかったことなど今まで一度もなかったのに、いったいなぜ、今回に限って。

「でも……!」

「いいから離れろ」

 チェシーが手を振り払う。

「私に近づくな」

 また爆発が起こった。チェシーの馬が大きくよろめく。

「だめです」

 ニコルはぐっと唇を噛みしめるなり、鞭を入れて一気にチェシーへと追いすがった。

 チェシーは防御のルーンも《カード》も持っていない。森を抜ける道はこの一本だけだ。ただ闇雲に逃げるだけでは、いつか絶対にやられてしまう。

 たとえ今を無事に切り抜けたとしても、この先、伏兵を仕掛けられていたら――

「貴方を一人にはできない」

 銀炎の照り返しを受け、青白くまだらに染まったチェシーの表情が、動揺にひきゆがむ。

「つまらない意地を張るな。君を巻き込むわけには……」


「……サリスヴァール」

 ふいに、森を凍り付かせる女の声が染み渡った。姿は闇に紛れ、見えない。四方八方から同じような声がいくつも同時に発せられていた。異様にふるえる残響のせいで、どこから声が聞こえているのかも分からない。

「どこに逃げても無駄。ゾディアックは裏切りを許さない」

 狂気の桜にも似た陶酔感を振り乱し、女は甲高い嘲笑を投げかける。

「だからせめて私の手で――美しく死なせてあげる」

 声と同時に、青白く炸裂する火花が一気にふくれあがった。漏れ出す噴気の発する摩擦音が夜をあわただしく破る。

「危ない!」

 ニコルはとっさにチェシーの前方へ馬を割り込ませた。

 驚いたチェシーの馬が悲痛にいなないて棹立ちしかかる。


 視界が真っ白に焼き付いた。

 瞬間、浮き彫りにされた影だけがどこにも行かず、足下にくろぐろとわだかまって貼りついている、のが見えた。

 ……避けきれない!


 爆風が意識ごと体を吹き飛ばした。

 悲鳴すら間に合わない。

 ニコルは道ばたの茂みに叩きつけられた。体が跳ね返る。木の枝に引っかけたか、びりびりと甲高い音を立てて軍袴が裂けた。

「ニコル」

 チェシーの駆け戻って来る気配だけが感じられた。

「無事か。怪我は。動けるか」

「……死ぬかと思った……」

 ぐらぐらする頭をおさえ、意識を引き戻そうとしかけて。

 木の燃えはぜる音、焦げる臭い、枝を踏み抜いて駆け寄ってくる音。

 周囲は火に包まれている。視界を確保する光量としては十分足りているはずだった。

 なのに、ゆがむ視界のまま、何ひとつ定かに見えない。

「どうなって……」

 そこまで言って、はっと飛び起きる。


 メガネがない。


「しまったぁメガネメガネ……!」

 あわてて、顔や頭、その辺の地面までをじたばたと手でまさぐって探す。

「ない、ない、なーいっ!」

「馬鹿、何やってる」

 何も見えないまま、誰かに担ぎ上げられた。身体が宙にひきずられる。悲鳴が止まらない。

「きゃあああっ!」

 巨大化した炎が、先ほどまでニコルのいた辺りに突っ込んだ。

 闇が真っ白に染め上がる。すさまじい爆風が吹き荒れた。

 飛び散った土や木ぎれが容赦なく降りかかってくる。

「誰だ放せ馬鹿この野郎ッ何をする変態卑怯者ーーーーっ!」

「冗談やってる場合か。相手はブランだぞ」

 ぼや~んとした変な顔がいきなり近づいてきて怒鳴った。


「うひゃあバケモノ!」

 ニコルは仰け反った。

「……は?」

 顔だけではなく身体までがうにょ~んと踊って見える。

「頭でも打ったのか」

 にょろにょろ揺れるバケモノが、タコ足をくねらせながらニコルにまとわりつく。

「うわあっにょろにょろ嫌っ! うわっうわっ気持ち悪ーーーーーっ!!」

「……誰がにょろにょろだ、誰が」

 怒りに満ちた低い声とともに、本気の拳がごいんと降ってきた。ニコルはべちゃ、と地面につぶれる。

「んがっ」

「命賭けてまでやるようなことか、それが」

「そ、そんなこと言われても」

 どう目を凝らしてみても、チェシーの声で喋るニョロニョロお化けが、ぐにょぐにょと踊っているようにしか見えない。

 見事なたんこぶを頭にのせたまま、ニコルは涙目で必死に訴えた。

「ザフエルさんじゃあるまいしそんな器用な真似できるわけないじゃないですか。まともに見えないんですよ、ホントに!」

「そんなに見えないのか」

「見えたらメガネなんてかけてませんっ」

「じゃあ、これ何に見える」

 たぶん指、らしきニョロニョロが目の前の何かを指さしている。

「……チョキ」

「毛虫だ」


 ぽとり、と鼻の上に落ちた。

 むずむず動いている。

 ……動い……て……。


「ふんがあああああ……!」

「よかったな。毒は持ってないらしい」

「……ああああああ!」

「あんまり喚くな。ブランに気付かれるだろうが」

 再び強烈なげんこつ。眼から火花がとっ散らかる。

「……うぐぐぐぐ……!」

 ニコルは二段重ねになったたんこぶをかかえて呻き泣いた。

「鬼! 悪魔! 疫病神! やっぱりチェシーさん”ゾディアックの悪魔”だ……!」

「過賞なる評価、感謝する」

 にょろにょろチェシーは鼻にも引っかけない。

「これもまた私の人徳のなせる技かな」

「悪徳の間違いでしょ」


 ……キジも鳴かずば打たれまい、というが……。


 三段目のたんこぶはともかく、なぜか一時、攻撃が止んでいる。

 ニコルは目の幅涙でよよよと頬を濡らしながら周囲を見渡した。乗り手を失った馬に気をとられ、逆にニコルたちを見失ったのかもしれない。

 チェシーは肩をすくめた。

「嵐の前の静けさ、というやつだ。せいぜい今のうちに怪我の手当でもさせてもらうとするか」

 言いながら軍衣の袖をまくり上げる。

「看てやる。さっき足をやられただろう。傷、見せろ」

「……えっ……」


 言われてはじめてニコルは自分の足に視線を落とし――

 そのまま目の玉をすっ飛ばして固まってしまった。

「な、な……」

 あろうことか、軍袴の膝あたりから上の端あたりまでがとんでもない形に大きく破かれている。

 その上切れ上がった端から下着までがのぞいていて、これはもはや何というべきか、半、半……半脱ぎっ!


(うわ、うわ、あわわわ……!)

 みるみる顔がユデダコのように赤く染まっていく。

 ニコルはパニックになりかけた。

 きゃあっと両手で顔を隠しかけ、そうじゃない、隠すべきは内腿の白さだと気付いてわたわた上着を引き下げ、次いで恥ずかしさのあまり思わず泣き出しそうになる。

「やっ……っ……何でこんな……!」

 声が震え出す。

 サッシュで押さえた上着がかろうじて目線を遮ってくれてはいるが、それもぎりぎりでしかなく、少しでものぞき込んだら……見え……!


「何じたばたしている」

「はうぅっ!」

 チェシーの声に、ニコルはつい、びくぅっと縮こまった。怯えきった眼で見返す。

「あ、あうっ」

「何だ」

「み、み、見ちゃだめっ……」

 たったそれだけを言うのに、喉の奥が腫れ上がったように熱くなっていく。

 チェシーはしらじらと冷たい、鼻白んだ眼をくれた。


「誰がそんなもの見たがるか。馬鹿者。……傷だ、傷!」

 ぐいと膝に手を置かれる。

「い、いいですこんなの全然大したことないですからっ……」

 そのまま、傍若無人に外側へ開かされかけて、ニコルは悲鳴に近い情けない声をあげた。

「って、きゃああ!」

 しりもちを付いたまま上着の裾を押さえ、真っ赤な顔で必死にずざざざ、と後ずさる。

「なななななな何するんです!! さわ、さわ、触んなくていいですっ」

 膝を閉じ立て隠しながら、ものすごい勢いでぶるぶると拒絶する。


「何だよ」

 チェシーは少々傷ついたような顔つきをした。

「お前だって、戦場で部下が傷を負ったら看るだろ」

「あ、あ、そりゃもちろん当然ですけどっ」

 冷や汗がだらだら流れる。

「だったら何でそんなにびくびくしてるんだ」

 チェシーは傷から目をそらすと逆に眉をひそめて、疑わしげにニコルの顔をじぃっと見下ろした。

「それとも何か……」

「そ、そ、そんなことより」

 ニコルは無茶苦茶ひきつった顔で否定した。

「敵の攻撃を何とかするほうがずっとずっと重大ですって」

 チェシーはためいきをつく。

「そりゃそうだが……私のせいで怪我したようなものだし……心配だからさ」


 ニコルはぶんぶん頭を振る。

 いつもは悪口や詭弁ばかり返してくるくせに、どうしてこんな時に限って優しげなことばかり……!


「そ、そう言えばあの女の人、ブランて言われましたよね。もしやレディ・ブランウェンですか」

 ニコルはとにかく話題を変えようと、膨大な記憶の中から思い当たる人名を選び出し、さらに状況に合う名をすくい上げた。ごまかせるなら何でもいいとばかりに、猛烈な勢いでまくしたてる。

 チェシーは驚いた声を上げてから、ニヤリとした。

「そうだ。知ってるのか」

「確か、ゾディアック情報部二三一部隊所属で……諜報・工作・暗殺を専門にすると聞いてます」

「さすがに詳しいな。私のことは知らなかったくせに」

「うっ、まだ言うし」

「私のハートは繊細なんだ」

 チェシーは嫌みったらしく釘を差してから続けた。

「ついでに言っておくと、通称”死の娘たち”統領にして《炎蒼旋》の使い手、麗しの女王アリアンロッド直属の首切り役人だ。……ま、私の始末に来たのは間違いないだろうな」

 ニコルは眼を瞠った。

「お知り合いなんでしょう?」

「そりゃもちろん、多少はな。盟友だったんだから」

 チェシーは何やらげんなりした顔にもどって、苦々しく口の端をつりあげた。

「だがさすがに口説いたことはないぞ」

「どうだかなあ」

 ニコルは面白くもなさそうに笑った。

「それよりもこれ。持っててください」

 手首に留めた《エフワズ》の金具を引き起こして外し、チェシーに差し出す。ニコルの手から離れたとたん、《エフワズ》の光はぷちんと途切れるように細くなり、吸い込まれて消えた。

 チェシーは不敵なかぶりを振って、ルーンを押し戻した。

「必要ない。というか、少しは人を信用しろよ」

「だって信用できないですもん、チェシーさんって」

 ついよけいな一言をぽろっと言ってしまう。

 それに対し、いつにも増して刺々しい毒舌が返ってくるかと思いきや――


 チェシーはふと寂しげな笑みをうかべた。

「そうまで言われるとさすがに本気で傷つくな」

 ぽつりと言ったあとはもう逆らいもせず、押しつけられるがままにルーンを受け取る。

 ニコルはぎくりとして眼を瞬かせ、何だか妙にそわそわと言いようのない気分になって、チェシーを見返した。

「そ、そんなつもりで言ったわけじゃ」

「いいよ」

 まるで少年のようにチェシーは拗ねて見せ、それきり黙り込む。

「あ、あのっ……」

 どうしたらいいのか分からない。ニコルはどぎまぎとして口ごもった。

「……僕、その……」


 そのとき、チェシーの手に治まって息を吹き返した《エフワズ》が敵の気配を察知して、凶悪な炎の哮りをあげ始めた。

 チェシーは気を取り直し、上空へと眼を走らせる。

「気付かれたらしい」

 ざわり、と、森が揺るいだ。

「……見ぃつけた」

 風が甲高い悲鳴を上げる。

「そんなところに隠れていないで、出ていらっしゃい。それとも……怖いの」

 森の天蓋をおぼろに透き抜ける深紅の月。

 ――と思っていたはずのものが、ぎらぎらと形を変え、不穏に光を増大させてゆく。


 光の中心にくっきりと浮かび上がる、女郎蜘蛛にも似た赤と黒。肉感的に彩られた女の肢体がまざまざと目に焼き付く。

 血のしたたる情欲の笑みがニコルを見下ろしていた。


「来たぞ」

 チェシーが低く言う。

「ええ」

 ニコルはきゅっとくちびるを吸い込み、うなずくと、《カード》を引き抜いた。

 《カード》を挟んだ指の先から四方八方へ、呪のこもった黒光がくねり放たれる。

「待てよ、ニコル。お前、その《カード》……まさか」

 異変に気付いたチェシーが不穏な声をあげた。ルーンをはめていない側の手でニコルの腕を取ろうとする。

「……っ!」

 つかんだ掌から、じりっと苦い煙が上がった。反射的に手を離す。

 チェシーは顔を引きつらせ、どろりと溶けた手袋を見下ろした。青ざめた目つきでニコルを見やり、呆然と声を失う。


 ――《カード》には、さまざまな種類がある。

 修得済みの剣技を”強化”するもの、敵の力を”制御”するもの。

 中には”暗黒”の属性を持つものもある。

 使い手の魂に宿る闇を糧とし、自らを贄として購うことでのみ得られる禁断の呪――


 ニコルを中心に、暗黒の竜巻が立ちのぼる。破れた軍服の裾が激しくはためき、髪が吸い上げられる。

「だからルーンをお渡ししたんです。僕は」

 一瞬、ためらうかのように絶句する。

「”暗黒”の《カード》しか使えないから」


 薔薇の瞳に、酷薄な闇が映り込む。

《生きとし生ける者に等しく闇と死の絶望を》

 ニコルの表情が変わった。

 断末魔の叫びにも似た突風が巻き起こる。


《……デス・トルネード!》


 疾刃と化した絶叫が、全方位からレディ・ブランウェンの存在する一点のみを狙いすまし、収斂し、襲いかかった。

 女は避ける素振りも見せず、にぃっと笑って手をかざす。その掌に、毒々しい赤紫の輝きを放つルーンが光った。

 チェシーがふいに息を呑む。

「だめだニコル、あれは――」


 レディの姿が吹き飛んだ――と見えたそのとき。

 いきなり喜悦に満ちた笑いが響き渡った。

「何っ……?」

 息をすすり込むニコルの頭上に、蒼銀の炎弾がざあっと降り注いだ。

 とっさにルーンを楯にかざす。

 青い鮮烈な光を放つルーンを頂点に、光り輝く幾何学模様がみるみる描き出され、張り巡らされていく。一瞬後、光は半球状に実体化、結晶化して防御の結界と化した。

 だがその結界を無視し、突き破ってくる《闇》があった。


 ニコルの目が恐怖にゆがむ。

 これは、敵の攻撃じゃない。

 視界いっぱいに迫り、魂まで奪ってゆこうとする、これは。

 この、邪悪な力は。


 悲鳴が聞こえる。


 それが自分のあげた悲鳴かどうかも、ニコルには分からなかった。

「……ニコル!!」

 とっさにチェシーがニコルを頭ごなしに抱きかかえ、横っ飛びに跳ね転がった。


 森が放射状に押し倒され、根こそぎ剥ぎ取られていく。

 まるで巨大な手に引きちぎられたかのようだった。

 めきめきと音をあげて枝葉がちぎれ、瞬時に灰と化し、粉々に吹き消され――


「《デス・トルネード》が、はね返され……」

 ニコルは呆然と喘ぎ、うめいた。チェシーに庇われたことも気付いていない。おそろしいほど、全身の感覚がなかった。

「しばらく、動くな。……ひどい傷だ」

 チェシーはニコルを抱きしめたまま、総毛立つ声をこわばらせた。

「あれは《逆襲のエイフワズ》だ」


 ニコルは息をすすり込んだ。

 《逆襲のエイフワズ》。

 受けたダメージを術者へ確実に跳ね返す報復のルーン、だ。


「もう《デス・トルネード》は撃てない。奴も相当なダメージを負っただろうが、次にまたカウンターを食らったら、良くて相打ち。ブランの仕掛けが早ければ――犬死だ」

「そんな」

 ニコルは見えない目に悔し涙をため、身をよじった。

「いったい、じゃあ、どうしたら」

「少し休んでろ」

 チェシーはゆっくりとニコルの身体を木の根本にもたせかけた。ニコルはよわよわしくかぶりを振った。

「だめですよ……戦わなきゃ、チェシーさんまでやられちゃう」

「よく言う。つくづく、変わった奴だな、君は」

 不思議に落ち着いたチェシーの声に、ニコルはなぜかぞっとして口をつぐんだ。


「ひとつだけ方法がある」

 笑っている。

 この状況で、チェシーは冷ややかに笑っていたのだった。

「《エフワズ》は返す。そうすればブランの攻撃は全て遮れる。少なくとも君は何のダメージも受けずに済むだろう。その代わり、《デス・トルネード》を貸せ」

「……馬鹿な」

 ニコルは喘ぎ、絶句した。

「この期に及んで、まだ私がそんなに信じられないか」

 チェシーの声が低くなっていく。

 今までに聞いたこともないような声色だった。

「そうじゃなくて」

 ニコルは《カード》をぎゅっと握りしめて、背後に隠した。

「見たでしょ。《デス・トルネード》は暗黒系です。ルーンが中和してくれないと使えない。ただじゃすまないんです。その上、カウンター攻撃までくらったら」

「かまわない」

 チェシーは半ば強引にニコルの手から《カード》をむしり取ろうとした。ニコルはかたくなに手を引っ込める。

「無理です」

「そんなこと言ってる場合か」

「だめですって」

 ニコルは声をふるわせた。チェシーがかがみ込んでくる。

「他に方法がないから言ってるんだが」

「いくらチェシーさんでも無茶です」

 ニコルは必死で《カード》を背中に隠し、渡すまいと拒む。チェシーの目が苛立たしくぎらりと光った。

「……寄越せと言っている」

「イヤです!」

「いいかげんにしろ。騎士たるもの、友ひとり護れないでどうする」

 ついにチェシーはもがくニコルの手首を無理やりねじりあげ、力任せに押さえ込んだ。

「……っ!」

 懸命に握り込んでいたはずの《カード》が、無情に奪われる。

「嫌……ぁっ……!」

 ニコルは涙に濡れ、ふるえる眼でチェシーを睨み上げた。

 完全に組み敷かれ、押さえつけられて。


 ……動けない……!


「さてと。これは君に返す」

 ルーンをはずす、かちりという音がニコルの耳に届いた。

「時間がない。頼む。言うことを聞いてくれ」

 チェシーはニコルを半分押さえ込んだまま、手のひらにルーンを乗せ、包み込むようにぎゅっと握らせた。

 ニコルはくちびるを噛み、顔をそむけて、せめてもの抵抗に手首をそらす。ルーンはむなしく指の間をこぼれ、転々と弧を描いて転がった。

「……見かけに寄らず強情だな」

 その様子に、ふと、険しかったチェシーの表情がゆるむ。

「心配してくれるのは有り難いが、それには及ばない」

 ニコルは胸を突かれ、まじまじとチェシーを見上げた。

 伏せたままの顔は暗く、ぼんやりとしか見えない。それでも、口元が楽しげな形につり上がっているのだけは何となく分かった。

 あの冷たい笑い方じゃなくて、意地悪で皮肉、でも気さくで憎めない、いかにもチェシーらしい笑顔。


 張りつめていた緊張の糸がぷつりと切れるような、そんな表情だった。どっと力が抜け落ちていく。

 と思いきや。

「いや、遠慮している場合ではなかった」

 チェシーはまったく遠慮のえの字も見せず、いきなりニコルの襟首をひっ掴むと、子猫もかくやとばかりにひょいとつまみあげた。

「さっさと前に出ろ」


 ……え゛。

 ニコルは耳を疑う。


「今、何と」

 唐突すぎる言いぐさに口がポカンと開いたまま、閉まらない。

 するとチェシーは、作り物めくあやしい微笑をすっとぼけた口振りでごまかしつつ言い足した。

「聞こえなかったのか。誰がルーン持ちの君を守ってやると言った。君が、私の代わりに、ブランの攻撃すべてを受けるんだ」


「はあっ!?」

 呆然とするニコルに、チェシーは悪辣きわまりないしたり顔で畳みかける。

「何を今さらとぼけてるんだ。ルーンが二つあれば、あいつの攻撃を結界で全部受け止められるだろ。ダメージ一つくらわずにな。その隙に私が《デス・トルネード》を撃つ。もし反動をくらうのが君ならそのまま細切れのミンチ間違いなしだが、私なら何とか。そうだな、死にはしない」

「ちょっ……ちょっとチェシーさん!」

 我に返ったニコルはようやくチェシーの意図した方略に気付き、声をつまらせた。

「分かったな」

 チェシーは聞かぬ振りでニコルの頭をぎゅう、と押さえつけた。

 素っ気なく立ち上がる。

「だめ、やっぱ駄目っ……!」

 ニコルは両手をじたばたと泳がせた。しかし思い切り頭を支えにされては近づくこともできない。

 チェシーはざわつく上空を見上げ、《カード》で風を切った。

 黒い疾陣がうなりをあげ、走り抜ける。とたん、足下の草がじゅっと音をたててひからびた。

 いつもならルーンに中和され、表に現れることのない《カード》の悪意が、今は葬送の煙のように黒く、苦く、うっすらと身の回りにたなびいて、いつまでも消えない。


「私の命を君に預ける。代わりに君の命を私にくれ。いいな」

 チェシーの言葉にニコルはぞくりとして声をなくす。

 無駄な時間を取らせることはできない。こうしている間にも、刻一刻と《デス・トルネード》はチェシーの命を削ぎ落としていく。

 ニコルは《エフワズ》を掴み取った。赤い火がまるでニコルを力づけるかのように、ぐんと光を増してゆく。

 ルーンの拍動が腕に熱く伝わった。

 近い。《カード》とルーン、それぞれの入り交じった波動を感じる。敵も身構えている。時機を計っているのか。

「よし、いい顔だ」

 振り返るチェシーの口元にぎらりと、不敵な笑みがのぼった。

「この一撃で終わらせてやる」

 

 微細な振動が、びりっと突き抜ける電撃にすり替わった。

 ……来る!


 息を吸い込んで、両掌を一気に前へ突き出す。

 《エフワズ》と《ナウシズ》の描き出す結界が、赤と青、さまざまに色の塗り代わる無数の結晶板をかがやかせ、ニコルとその背後に立ちはだかるチェシーを包み込んだ。

 結界の外で銀の尾を引く火矢が次々に炸裂する。そのたびに蒼白の炎が跳ね飛んだ。

「……っ!」

 反動に押しつぶされかける。膝がくだけそうだった。

 降りしきる火が、表面を水銀のように流れ落ちていく。爆風がごうっと吹き込んだ。

 こらえきれずニコルはよろめく。その肩をチェシーが確かに支えた。

「大丈夫か」

「あ、ありがと」

 めくるめく業火の中、チェシーは何も言わず笑っていく。ニコルもまたつられて笑った。

 きっと大丈夫だ。たったそれだけの短いやり取りにも関わらず、ニコルは確信にも似た暖かい思いがこみ上げてくるのを感じていた。チェシーが側にいてくれる限り、その手で支えてくれる限り、きっと――


 と、下手な吟遊詩人もどきのセリフを頭に思い浮かべたとたん、結界に真っ白いひびが走り抜けた。

「え゛っ」

 一瞬、結界の形がゆがむ。夢見るオトメモードから一気に現実へ引き戻されて、ニコルは真っ青になった。

「あっ、わっ、っと……限界!?」

 まるで巨人に踏まれたかのようだった。言ってる端から、荷重に耐えきれなくなった結界が、無惨にもめきめきとひしゃげ折れてゆく。

 どこかで致命的な音がした。

「待て待てちょっと待っ……わああっ!」

 ニコルの切なる願いも空しく、結界全体が甲高い音を放ち、大きく揺すぶられてばらばらの面と線に空中分解した、かと思うと何十枚ものガラスを同時に叩き割るような大音響をあげて、木っ端微塵に砕け散った。

「きゃああっ!」

 吸い上げられるような爆発に巻き込まれ、ニコルは背中からチェシーにぶつかった。光り輝く結界の残骸が、青や赤の星くずのように流れ散り、ざあっとばかりに降りかかってくる。

 気が付けば周囲は再び、西も東も分からない闇の辺に落ちていた。おそろしいほど静まり返っている。

 ニコルは肩で息をはずませた。ごくりとのどを鳴らす。

「何とか、しのいだ……?」

「上出来だ」

 声がして見上げると、チェシーの青ざめた顔が笑っていた。強い力でぐっと引き寄せられる。

「なっ!?」

「いいから動くな。首がすっ飛ぶぞ」

 ニコルは息を呑んだ。

 肩越しに回されてようやく間近に見えたチェシーの手――

 《カード》に触れた手袋が泡だって溶け落ちている。露出した掌は闇に浸食されて青黒く鬱血し、ぶくぶくと瘤状に変形していた。

 真空の刃がうなりをたてて回転しはじめる。

「くらえ、《デス・トルネード》!」

 チェシーの手から凄まじい轟音が放たれる。それは行く手を遮る全てのものを巻き込みながら、跡形もなく、瞬時に挽きつぶしていった。



 かぼそい笛のような、落ち着かない空気のふるえが、まだ続いている。

 チェシーは荒々しい息をついて腕を降ろした。だらりと垂れ下がった手の先から《カード》がこぼれおちる。

 落ちた《カード》が地面の草に触れた。青白い月影の落ちる草生えに、みるみる黒い滲みがひろがっていく。

 ニコルは慄然としてためいきをもらし、空を見上げた。

 そこだけ丸く、森がない。

 ニコルはぎょっとして眼を押し開く。空も見えないほどにぎっしりと覆い被さっていたはずの森が、今はまるで刃物で切り取りでもしたかのように、ぽかりと寒々しく、くり抜かれている。


 その不自然に丸い、星だけがのぞく夜空から。

 はらり、ふわり――何か黒い影が舞い落ちてくる。

「……」

 チェシーは闇に浸食された手を伸ばして、落ちてくるものをつかまえた。

 それは半ばちぎれた黒いスカーフだった。半ば燃え、半ば引き裂かれて、焼けちぢれている。

 持ち主の運命を思ってニコルは喉に息をつまらせた。何をどう言えばいいのか分からないまま、声をなくしてチェシーを見上げる。

 だがチェシーは興味なさそうに肩をすくめ、振り払った。

「それは……さっきの」

「見たか」

 不安にかられて口を開くニコルを、チェシーは傲然と遮る。

「”暗黒系”が何だ。ざまあみろ。持ちこたえてやったぞ」

 言うなりチェシーはがくりと膝を折った。

「チェシーさん」

 ニコルはあわててチェシーを支え、顔をのぞき込んだ。

「大丈夫ですか」

「自分の身を先に案じろ。私なら大事ない」

 チェシーは冷や汗に濡れた額をかすかに光らせながらニコルを見返し、それからようやく、いつもの憎々しい笑みを頬にかすらせた。

「君が身を挺して庇ってくれたおかげだ」

「無理やり突き出されたとも言いますけどね」

 ニコルは安堵のあまり思わず泣きそうになって、あわてて両目を丸めた手の甲でこすった。

 チェシーもどうやら同じ気持ちらしかった。

 かすれた声で力なく笑う。

「何を言う。友を護るのは騎士として当然の行為だ。違うのか」

「人を楯にしておいてよくもまあぬけぬけと」

「男が細かいことを気にするな。さて」


 チェシーはひとつ深い息をつくとおもむろに立ち上がった。

「とりあえず休む場所を探そう。ここに残るのは危険だ。歩けるか」

「ええ、何とか」

 うなずいて歩き出そうとしたとき、ニコルは押さえた額の奥がくらりとめまいを起こすのを感じた。気付かれないよう頭を振ってごまかし、眼を閉じる。少し熱があるのかもしれない。頭の芯がずいぶんとひどく重苦しい。

「どうした」

 チェシーが立ち止まった。いぶかしげな視線を注ぐ。

「ん? あ、いえいえ」

 ニコルは表情を押し隠し、からりと明るく笑って目をそらした。

 そのとき前方に、リュックらしき見慣れた色の物体が見えた。半分逆さまになって木の枝に引っかかっている。

「あ、あれ、たぶん僕のですよね。取ってきます」

「お、おい」

 チェシーが制止する間もなく走り出す。近づいてよくよくのぞき込んでみると、確かにニコルのリュックだった。どうしてこんなところにぽんと置かれてあるのかはともかく、革タグに第五師団の隊章を捺してあるからまず間違いない。

「よかった、替えのメガネもたぶん中に……」

 言いながらひょいとリュックを取りあげる。


 ぷつん、と、何か細い糸のようなものがちぎれる感触が手に伝わった。鋭い痛みが頬をかすめ抜ける。

 驚いて無意識に一歩後ずさった、その頭上へ。

 闇の死角を食い破って現れた禍々しい斧の刃が、枝を砕き折る凄まじい破壊の尾を引きながら、みるみる巨大に降り迫ってきた。


 ……それがもし、首だったら。


 一発であの世の彼岸まで転がり落ちただろう。代わりに、ニコルの手の中にあったはずのリュックが真っ二つに弾け散った。

 中身が明後日の方向へ吹っ飛んでいく。

 ニコルは電撃を受けたかのように固まり――


「出たあああああ!」

 幽霊でも見たような悲鳴をあげて、リュックを放り投げる。

 その直後、巨大な振り子のごとく揺り戻されてきたギロチンまがいの斧が、ふたたびごうっと鼻先をかすめた。

「ぎゃああああまた来たああーー!」

「何やってる」

 チェシーが駆け寄ってきた。硬直するニコルの襟首をむんずとつかんで引き戻す。

 ニコルは我に返り、へなへなと腰を落とした。

「し、死ぬかと思いました……」

 未だにブラブラ揺れている斧を恐怖の眼で振り返る。

「まったく、こんな見え透いた置き土産に引っかかる奴があるか」

「だって……」

「だってじゃない。自分の立場ってやつを少しは考えろ。これがもし爆弾だったらどうする。命がないんだぞ。まったく」

 チェシーは珍しく感情を表にあらわして、一気に言い募った。

 言われてみればまったくその通りだ。がみがみと叱られて、さすがのニコルもしょげかえる。

「……すみません」

「いや、分かればいい。怒鳴って悪かったな」

 チェシーは声を落とした。声を荒げたことにチェシー自身が当惑しているようだった。ニコルはかぶりを振る。

「ごめんなさい」

「謝らなくていい」

 チェシーは苦笑いし、ニコルのリュックを眼で探した。

「それじゃまるで……やれやれ」

 歩き出しながらため息をつく。

「本当に世話が焼けるな。ホーラダインの性格がゆがむのも宜なるかなだ」

 ニコルはきっと顔を上げ、それからほっと表情をゆるませた。

「あれだけは断じて僕のせいじゃありませんから」


 ――遠いノーラス城砦で、「ニコル司令マル秘メモ」を読み返しては不気味に肩をふるわせていたザフエルが、へっくしょ、と大きなくしゃみをする。

「ふむ、先ほどから何やら妙な悪寒が」

 こまごまと書き物中のペンをやすめ、ちーんと鼻をかんできょろきょろ――


「いや、どう考えてもあの性格の九割は君のせいだと……」

 言いながらチェシーは真っ二つに割れたニコルのリュックを拾い上げた。その拍子に、かろうじて引っかかっていた中身がどさどさとあふれ出す。

 ……もう少し具体的に言うと、どさどさどさどさどさどさ……(まだ続く)。

 曰く。

 青いタイツ、白い靴下、ピンクのしましまぱんつ、その他下着、着替え、パジャマ、救急セット、予備の鼻眼鏡、歯ぶらしに石鹸、タオル、愛用のコップ、赤い水玉のナイトキャップ、チョコチップクッキーとキャンディと揚げたパン耳の詰め合わせバスケット、ハンカチできゅっと包んだこんがりハムとサラダ菜のクラブサンド、りんご、水筒、果物ナイフ、泥つきにんじん、さらには靴洗い用のたわし、鍵束、望遠鏡、紐で繋がったにぎやかしの旗。


 ……何なんだ!


 この小さなリュックのどこに、こんな大量の、かつ非効率な荷物がどうやって混入していたのか、さっぱり分からない。

 チェシーは空っぽになったリュックへ目をやり、それから足下に積み上がった山へと冷ややかな視線を移した。明らかに機嫌が悪化している。

「何だ、これは」


 何だこれはと言われても、さすがに答えられない。ニコルはくらくらとめまいを起こしてよろめいた。

「分かんないです……」

「ピクニックでも行くつもりだったのか」

「ち、違いますって」

「まあいい。無駄なものばかりとも言えないしな」

 うろたえるニコルを、チェシーは奇妙に優しい笑みで遮った。身をかがめてりんごを拾い上げ、ぽんと軽く投げて寄越す。なぜかへたの小枝に万国旗がひっかかっていて、投げるに従いしゅるしゅると伸びた。

「うわっとっと」

 糸に巻き付いていた旗がぱらぱらと順にほどけ、じゃーん、見事な飾り付けが完成する。

 小さなくす玉がぽんと割れて、『第五師団祝勝会!本日も大勝利!』という垂れ幕が下がり、ひよひよと風に揺れた。紙吹雪が舞う。


「……」


 チェシーは無視を決め込むことにしたのか、ごほん、と咳払いし、続けた。

「他のも早く拾え。準備が終わったら行くぞ」

「あ、はい。……って、どこへ?」

「一番近い村だ」

 チェシーは何を今さら、と言った様子で首を振る。

「そこで馬を借りるんだよ」

「なるほど、名案です」

 言いながらニコルは予備のメガネをまず、ちょんと鼻に乗せた。それからやおら、他の荷物を拾いにかかる。

 手伝いもせず待っている間、チェシーは気安げに話し続けた。

「しかし何だ、初めての経験だったが、誰かに守られるというのも案外悪くないものだな。君も意外に頼れる奴だと分かったし」

 思いがけず誉めそやされ、ニコルはつい嬉しくなって手を休め、でれでれと頭をかいた。

「え、そうでしょうか。あははは何だか照れるなあ」

 しかし、さりげに言ったその舌の根も乾かぬうちに、チェシーの驕りに満ちた眼がまたにやりと残酷に光った。

「というわけで、これからもせいぜい君を踏み台にのし上がらせてもらうからよろしくな」

「うっ……やっぱりこうだよこの人は」

 ニコルはやさぐれて、道ばたの花に慰めを求めた。白く咲く花を手折り、いじいじと花びらをむしる。

「くそ、チェシーさんの本性を占ってやる……鬼、悪魔、鬼、悪魔、鬼……」

「そんな花占いがあるか。失敬な」

 チェシーはニコルの手からちょうど悪魔のところで丸坊主になった花をむしり取ると、ぴんと横にはじき飛ばした。

「しかし、あながち冗談でもないか」

 ふいと優しげな表情に戻って、何気なく言う。

途中エフワズを貸してもらってなかったら、いくら私でも無事ではすまなかっただろうな。この程度ですんだのは君のおかげだ。礼を言うよ」


 思いのほか真摯な横顔に、ニコルはわけもなく声を詰まらせた。むすんだ手をくちびるにおしあてる。

「さ、行くぞ」

 言葉だけを置き去りにして、チェシーは一人でさっさと先に行ってしまう。

「あ……」

 後を追うように手を伸ばしかけて。


 チェシーの後ろ姿はいつの間にか闇に紛れて遠くなっている。ざわざわと森が揺れ、騒いで。どうしてだろう、よく見えない。

 急にチェシーがいなくなってしまったような気がして、ニコルは立ちすくんだ。

 何度も助けられた。礼を言わなくちゃならないのはむしろ自分のほうだ。

 ……そう言いたかったのに。

 声が出ない。

 ニコルは胸の奥に残った息苦しい気持ちをごまかしきれず、ぎゅっと荷物を抱きしめる。


 確かに助けられはした。でも。

 どうしても分からないことが一つだけある。

 《エフワズ》は敵襲を完全に予知する。予期せぬ先制攻撃や奇襲を受けることは絶対にない。それゆえ、ニコルの第五師団は防衛の要として最も重要な最前線ノーラス城砦に配置されているのだ。

 ニコルが所属してからというもの、ノーラスの第五師団は一度たりともその防衛線を破られていなかった。以前は山越えされ背後を突かれたこともあったが、今はそれも皆無だ。


 その《エフワズ》が、反応しなかった。働かなかった。

 と言うことは、つまり――


 チェシーが立ち止まって、振り向く。

 たったそれだけの他愛ない仕草であるはずが、戦闘中ちらりと垣間見た冷たい微笑のせいか、なぜか妙に空怖ろしく感じられて、ニコルは小さく身をふるわせた。

「信じてないな」

 ゆっくりと歩み戻ってきながら言う。

「えっ」

 ニコルは近づいてくるチェシーにぎくりとして眼をそらした。

「べべべべ別にそういうわけでは」

「そんなに私が感謝したらおかしいか」

 チェシーは口さがなく嘆息する。

「まったくもって心外だよ。私ほど誠意ある人間はいないというのに」

「……」

 ニコルの無言をチェシーは別の意味に解釈したようだった。しれっと陽気に続ける。

「信じてくれなくても別にかまわないがね」

 言うなりチェシーはニコルの手からひょいとりんごを奪った。

「あっ!」

「もらうぞ」

 チェシーは軍服の裾でごしごしとりんごを磨くなり、しゃり、とかぶりついた。

「あああ、後で食べようと思ってたのに」

 恨めしそうな眼でニコルはチェシーの手の中のりんごを睨みつける。とたんにお腹がぐうう、と鳴った。

 そう言えば夕飯も食べずにノーラス城砦を飛び出してきたんだった……。


「いいですサンドイッチ食べるし」

 ぶうっと拗ねて言い捨てると、荷物の中からハンカチ包みを選りだして掌上に開く。中身を見て、ニコルはうっとりとしあわせな気分を取り戻し、笑みをこぼした。何て美味そうなクラブサンドだ……。

「くれ」

 神速の手がサンドイッチをかすめとった。

 まさに忽然。

 一瞬のうちに、ワインたっぷりジャムたっぷりのてりやきソースで甘ったるく焼き焦がしたハムステーキサンドが、あんぐりと開けたチェシーの口に吸い込まれる。

「あ゛ーーーーっ!!?」

 この世の終わりが来たような声でニコルは喚きちらした。

「美味いなこれ。誰が作ったんだ。あのメイドのお嬢ちゃんか」

 ほっぺたをりすのようにふくらませてもぐもぐしながら、チェシーはご機嫌にほくそ笑んでいる。

「僕が、自分で、自分のために作ったんです!」

「ほほう」

 ごくん、と呑み込む。

「なかなか美味かったぞ。君は将来きっといい嫁さんになるだろうな」

「誰が嫁ですか。盗人猛々しい!」

 ニコルはがくりとその場にうずくまった。涙が後から後からあふれて止まらない。

「……ううう、僕の晩ご飯……!」

「そんなに泣くな。ほら、このりんごやるから」

 さすがに哀れを催したのか、チェシーはかじりかけのりんごをややためらいがちにニコルの手に握らせた。

 ニコルはめそめそ泣きながらりんごを受け取った。

「やるったって、これも元は僕のじゃないですか」

 赤いりんごに、そっと口をつける。かじったりんごは涙の味がした。

「うう、しゅっぱい」

 ぐすん、と鼻をすすりあげる。この際、かじりかけのりんごでも無いよりはまし……


 かじりかけ?

「……え?」

 ニコルは呆然とする。

 もう一度頭の中で反復。

 ……かじりかけ?

 繰り返してから、手の中のりんごをもじもじと見つめる。

 食べちゃったけど。

 これって……も、も、もももしかして……ええっ!?


「うええええ!?」

 いきなり一人でじたばたし始めたニコルに、チェシーがのほほんと声を掛ける。

「嫌なら食わなくていいんだぞ」

「べっ別にっ! 誰が嫌だって言いましたか!」

 ニコルは思わず、大事そうにりんごを抱え込んで口走った。口走っておいてからはっと我に返る。言うに事欠いて何というたわごとを。

 みるみる頬が真っ赤になっていく。

「赤くなったり青くなったり忙しいな、君は」

「だっ、誰のせいだと思って……!」

 とたん、りんごが手からすっぽ抜け、ごろんごろんと地面に転がった。あっという間に泥んこのまっくろけになる。

「あーーーーーーーッ!!」

「ちなみに、それは私のせいではないからな」

 チェシーは気にも留めていない。

「三秒以内に拾えば食えるはずだ」

「食えるかあッ!」


 じだんだ踏めるものなら、入り込める穴が空くまで踏み続けたい気分だった。髪の毛をぐしゃぐしゃとかきまわし、みじめな顔で怒鳴る。

「いちいちちょっかい出さないで下さい。もう、貴方ってひとは! 何でそんなにいぢわるなんですか」

 チェシーはわざとらしくうんざりと肩をすくめ、天を仰いでみせた。

「そのセリフもいい加減、聞き飽きたな」

「あ、あ、あんたのせいじゃないですかあれもこれもそれも全部、全部、全部!!」


 わざとやっているのか、それとも人の気持ちなどどうでもいいのか。

 もうチェシーのやることなすこと全部が、気に障って障って仕方がない。

 思わずどきりとするような顔をしたかと思うと、掌を返して憎々しく振る舞い、どこで何をしているのかとはらはら気を揉めば、次の瞬間、悪行の数々を露呈させる。

 もし本当にゾディアックのスパイなら、少しは気を持たせる素振りでもすればいいものを、いきなり心の内側にまで踏み込んできて、かきみだして。

 腹立たしくて、苛立たしくて……本当にどうしたらいいのか分からない。

 だいたい、こんなにも面の皮が厚くてたちの悪い傲岸な悪党、女の敵、口ばかり達者なペテン師、その他もろもろ全部チェシーのためにあるような罵詈雑言をきっちりまとめて訴状に書き上げ、正面切って突きつけ「訴えてやる!」とやりたいような奴ごときに。


 言いようのない挫折感に、ニコルはよろよろと打ちひしがれる。

 どうして自分が、あんな奴のために、こんな――やるせない気持ちにさせられなければならないのだろう……。


 ニコルはがくりと両手をついて、両手を胸にむすびあわせ、長い長いため息をついた。

「ああ、神さま聖女さまお星さま、罪深き我が身をどうかお許し下さい」

 もう、残るは神頼みしかない。それすらも、この神をも恐れぬ悪党に有効だとは思えないが……。


「こともあろうに僕は、ゾディアックの悪魔を仲間に引き入れてしまいました。性悪で、皮肉で、残酷な悪人を……!」

「まだまだ精進が足りないな」

 チェシーは明らかに嘘と分かる微笑みをたたえて遮った。

「この上もない僥倖を引き当てたことにまだ気付いていないとは」

「へっ……?」

「そう、僥倖だ。君は運がいい」

 声をひそめ、悠然と笑いかける。

 きょとん、と眼をぱちくりさせたニコルに、このゾディアックから来た悪魔は自信たっぷり、いけしゃあしゃあとばかりにとんでもないことを言ってのけたのだった。


「こんな優しい悪魔、どこを探しても他にはいないぞ」


【第3話 終】

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