えぴろーぐ 信じて送り出したおねーちゃんが……

 あれからさらに数週間が経った。

 僕はもう、いてもたってもいられなかった。

 はやく、はやくおねーちゃんに会わないと、大変なことになってしまう。

 僕はなけなしの貯金をかき集めて、王都へと向かおうとしていた。

 そんな出鼻をくじくかのように、またもあの戦闘記録が僕のもとに届く。

 躊躇いながらも、僕は再生してしまう――


「あ? これもう映っているの? えっと……えへへ、マー君みてるぅー?」


 そこに映し出されたのは、あまりに衝撃的な光景だった。

 竜の背中にまたがりながら、その獰猛な動きに合わせて腰を振っているタマキィーおねーちゃん。

 バランスを取りながら、彼女は何度も竜の背中に――普通の武器では傷一つ負わせられないはずの、成体竜アダルティ・ドラゴン――その鱗を、いともたやすく巨大な剣で切り刻んでいる。

 しかも、剣は一振りじゃない。

 人の背丈ほどもあるそれが二本、対になって、おねーちゃんの手のなかに存在しているのだ。

 びゅる! どびゅる!!

 斬りつけるたびに噴き出す竜の血液を浴び、ときにそれを嬉しそうに舐めとりながら、おねーちゃんは戦い続ける。


「あたしね! ついに騎士になったの! でね、見込みがあるからって、キーチさまのもとで遊撃部隊に入れてもらったの! いま王都は未曽有みぞうの危機で、モンスターがいっぱい攻めてきていて、あたし、毎日それの相手をしているの!」


 竜が断末魔を上げ、地に臥せる。

 絶命を確認したおねーちゃんは即座に背中から飛び降りると、次の獲物へと標的を移す。

 その間も笑顔で、彼女はしゃべり続ける。


「騎士って楽しいの! すっごく愉しいの! こんなに気持ちいいことやめられないわ! だから、マー君のところには帰れないね! あたし、このまま騎士としてみんなをまもるから! みんなを守る公共守護騎士女になるから!」


 そう言いながら、凄絶で凶暴な満面の笑みを浮かべたおねーちゃんは、巨人をX字に切り倒し、次の獲物を求めて疾走する。

 オリジナル笑顔のまま、そして彼女は言った。


「ばいばい、ちっちゃいマー君。この戦いに勝っていたら、お祝いにケフィアを一緒に送るから、健康には気を付けて独り暮らしを送ってね!」


 プツリと。

 そして、戦闘映像は途切れた。

 みれば、確かに水晶と一緒に壺が同梱されていた。

 僕は、その壺の蓋を開けると、一息に中身を飲み干した。

 苦味と酸味、ドロドロと喉の奥に絡みつく感覚。

 耐え切れなくなって幾らか吐き出す。

 それは喉を伝い、胸を濡らし、僕の股間を汚した。

 白濁液をぬぐって、僕は、それから泣いた。ずっと、ひとりで泣いた。

 おねーちゃんは、もう遠くへ行ってしまって、僕とは違う次元で生きているんだと痛感した。

 僕は。

 僕は――


「よし、記録映像をもう一回、最初からみよう!」


 とりあえず全部保存していたおねーちゃんの闘いの記録を、はじめから見直すことにした。

 うん、カッコいいなぁ、おねーちゃん。

 僕も将来は騎士になろう!

 そう、堅く誓ったのは、言うまでもないことだった。






信じて送り出したおねーちゃんが(中略)記録を送ってくるなんて……

あねーとられ編

終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る