第3話 急所ジャンキー

「そ、そこは違うのおおお違うところなのおおお!! ほ、他の所ならいいから、そこはダメなのおおおおお」

「グダグダ言ってるんじゃない。ここが急所なのはわかってるんだ、はやくしろ」

「むりむりむり!! ゼッタイむり! 死んじゃう、死んじゃう! あたしできるわけな――キャフン!」


 口では拒絶しながらも、お尻をキーチさんに叩かれたタマキィーおねーちゃんは、へっぴり腰で剣を抜き放つと、へとじりじり迫っていった。

 でも、やっぱり怖いのか、なんども後ろを――キーチさんのほうを振り返る。


「安心しろ、こんな楽なの、すぐに病み付きになるから」

「うそよ、あたし、そんな危ないやつじゃないもの……」


 いやいやとかぶりを振って見せるおねーちゃんだったけれど、その眼には隠しきれない期待が浮かんでいた。


「ほれ、いまだ、ヒトツキにしろ!」

「ぅうう……っ!」


 おねーちゃんが突進する。

 そこにいるのは若竜レッサードラゴンだった。

 生半可な装備では、うろこに傷一つつけられない凶暴なモンスターに、おねーちゃんは単身挑みかかる。

 レッサードラゴンが大きく胸郭を膨らませた。


「特大のブレスが来るぞ、チャンスだ!」

「――!」


 ボウッ! と放たれた火球。

 それをおねーちゃんは、円軌道を描いて回避すると、そのままドラゴンの足元へと肉薄。

 そしてそのまま、


「……うそ」


 ドラゴンの喉元にある急所――逆鱗げきりんを貫いてみせた。

 若竜が、苦悶の声を漏らし、傾斜していき、やがてドスンと大きな音を立てて完全に倒れた。


「あ……ん……」


 すっぱりと切っ先をドラゴンから抜き、血振りをしながら、陶酔した表情で死体を眺めるおねーちゃん。


「やだ……やだやだやだ……モンスターを殺すなんて、野蛮なのに……あたし……しゅき! あたしこれしゅき……もっと、もっとしたい!」

「ふん、見たことか、やっぱりお前はそういう女なんだよ」

「そ、そうでしゅ、そうなんでしゅ!」

「病み付きだな。これで立派な屠竜中毒者ドラゴン・スレイヤー・ジャンキーが完成だ、もう引き返せないぞ」

「はい……あへ、あへぇ……えへへへへ」


 次の獲物を物色しながらも、キーチさんに褒められ、頭を撫でられて、おねーちゃんはまんざらでもなさそうな表情を浮かべている。


『タマキィー・アスナトリア 戦闘記録 羊綿月ようめんつき第三週』


 その戦闘記録を握り締めながら、僕は、僕は――

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