第1話 届く記録と処女喪失

 それから数か月ほど経って、家の畑をならしていた僕のもとに、王都から荷物が届いた。

 差出人は――おねーちゃんだった!

 僕はくわを放りなげて、すぐに自宅へと取って返した。

 自分の部屋に入るなり、荷物を急いで開ける。

 僕の手は期待に震えていたと思う。

 包装をといた中から出てきたのは、手の平ぐらいの大きさの水晶だった。

 一般的な魔術師が使う記録媒体だ。

 小さく『タマキィー・アスナトリア 戦闘記録 巳夢月みゆめつき第二週』と刻印がされていた。

 いまから半年ぐらい前、おねーちゃんが王都にいって一ヶ月ぐらいの時期である。

 僕はさっそく、水晶の記録を再生した。

 水晶から光が投射され、壁に粗い粒子で、誰かの姿が映し出される。


「……や……り、です……そん……には」


 ん? なんだか音が聞き取りづらい?

 僕はボリュームを上げた。


「そんな、ムリです! こんな硬いもので貫かれたら、死んじゃいます!」


 え?

 な、なにを言ってるの、おねーちゃん……?

 そこには、使い古された部分鎧を身にまとって、ショートソードを手にしたおねーちゃんの姿があった。

 そして、彼女のまえには、筋骨隆々とした上半身を惜しげもなくさらす、偉丈夫の姿が。

 僕はその人を知っていた。かつて世界を救ったという大勇者キーチ・クネ・トリーマンだった。

 その、半裸のマッチョマンが、見た目にそぐわない猫なで声で、おねーちゃんに諭すような言葉を投げる。


「そうだ、これからおまえには処女を卒業してもらう」


 い、いきなりなにを言ってるんだ、この変態!?

 僕は思わず立ち上がった。

 おねーちゃんの目には、怯えの色があった。

 しかし、キーチさんは意にも介さない様子で、おねーちゃんへとゆっくり歩み寄ると「ああ、なんてことだ!」おねーちゃんの繊細な手に自分の手を重ねた。


「大丈夫、はじめは誰でも怖いものだ。だが、すぐに気持ち良くなる」

「う、嘘です! そんなこと、あるわけ……」

「嘘じゃないさ、ほら……こんなにぬちゃぬちゃだろ?」

「や、やめ」


 キーチさんがなにか映像にうつっていない所を触ると、おねーちゃんは目を背けた。

 彼が手を持ちあげたとき、そこは粘液に塗れべとべとだった。


「……準備は出来たみたいだな」

「う、ううう」


 キーチさんが手を布で拭い、後ろから抱きしめるようにしておねーちゃんの手を取った。

 おねーちゃんの手には、ショートソードが握られている。


「さあ、突くぞ。まずはゆっくり、押し進める」

「ひっ、先端が当たってる!? だめ、やっぱりこんなのだめ!」

「いまさらなにを言ってるんだ、騎士になるっていうのはこういうことだ」

「あたし、知らなくて」

「この膜がわかるか? これが命を守っているんだ。ひどく脆い障壁だとは思わないか?」

「そんな、必死なのに……!」

「……いくぞ」

「え!? 待って、待って、待って、ダメそんなンホオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」


 おねーちゃんがいきなり絶叫した。

 キーチさんがニヤリと笑う。


「切っ先が膜を突き破ったな。おめでとう、これで処女喪失だ。気持ちがいいだろう?」

「そん……な」

「そうだな、厳密にはまだだ。だから、いろんな角度でついてみよう」

「う、うそ!? これで終わりじゃないの!?」

「当たり前だろ、それじゃあもったいない。さあ、一緒に動かして――」


 キーチさんが太い笑みを浮かべた瞬間、すっと、映像が下がった。

 これまでおねーちゃんを中心に映し出されていたものが、彼女の足元にスポットがあてられる。

 そこには――


「う、うそだ!」


 僕は思わず叫んだ。

 なぜなら、そこには――



 そう、ショートソードで無残にも刺し貫かれたスライムが、転がっていたのである。



「スライムは斬撃よりも刺突に弱い。保護膜が一点の突破力に負けるからだ。で、この角度から突くと……」

「ひぃ、ビクン、ビクンって……!」

「もう死んでる。おめでとう、今度こそ討伐処女卒業だ。これでようやく騎士見習いを名乗れるぞ。それで、もっと効率のいい倒し方だが……これがコアだ。一番敏感な部分だ、ここを攻撃するのがいい」

「敏感なんてぇ……」

「ほら、触ってみて。死体を見分けるのも見習い騎士の修行のひとつだ」

「こんな……さっきよりびしょびしょになってる、嘘、あんなに元気だったのに……私、手を汚しちゃった……」


 そのあとも延々と、大勇者キーチさんによるタマキィーおねーちゃんへの調教は続いた。

 僕は、呆然とそれを見ていた。

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