第2.3話

 リビングで母さんからお風呂上りの私に聞いてきた。

「千鶴ちゃんとなにかあった? 」

ギクッ。一瞬見透かされた気がして驚いた。やっぱり気づいてたのか⁉

「な、なんでそんなこと聞くの? 」と、恐る恐る聞いた。

「だって、千鶴ちゃん別の子と帰ってたから 」

 やっぱり、気づいていたか……。

「今日、宿題多いから先に帰ってただけ! 」もちろん、全く勉強する気もない。

「そう、千鶴ちゃん、なんか、すごく感じ悪かったから、もしかしたらって思ったんだけど 」

「それ、どういう感じ悪いだったの? 」

「そうねぇ……悪口を言って楽しそうだったわ。私から手を振ろうとしたら、気づいたけどなんか無視されたみたい 」

「千鶴ちゃんってあんな子だったかしら……? 」


あぁ……千鶴も変わってしまったのかな。


「……さぁ、ね 」

母は私の言葉に首を傾げたが、これ以上聞かなかった。



次の日


 予定通り私は千鶴を待たずに5分早く出た。

朝ごはんを食べて、洗顔をした後、髪をくしでとき、セーラー服に着替えた。

今日の教科の数学、国語、社会、理科、体育、総合のそれぞれの教科が忘れてないか確認して、家を出た。

 案外スムーズに行けた。人を待たずに登校なんて初めてかもしれない。

朝から気も遣わなくてすむし、楽だ。


 正門に着いて、教室に着いた。

千鶴はいつもより遅れて教室に入って、私を見て驚いたような顔をした。


勝った……!!

どうだ、見たか!どうだ、一人にされる気分は!私がいつまでも来なくて驚いただろう!良く遅れなかったな!ざまぁみろ!



 まだ悪口が誰か分からないままなのに、まだはっきりしてないのに。


人っていうのは、ちょっとの失敗やちょっとした発言や行動などの、ささやかなきっかけで人間関係が変わってしまうのかもしれない。そこが分からないから難しい。大げさな表現だが、化学反応式のようにもう少し単純だったらいいのに。



 私は、勝ち誇った気分になった。心の中でガッツポーズをした。

その感情が許されるものかなんてどうでもいい。千鶴に私のつらさを分からせて

やったんだ。それだけでも十分な報酬、利益だ。


 周りの女子からの会話が聞こえた。

「今日、千鶴、一人だったね 」

「どうしたんだろ 」

「陽花里が委員会だったからじゃないの? 」

「あ、でも千鶴オーラすごかったよ 」

「マジか 」


 あぁ言ってる、言ってる。千鶴いまどんな気持ちだろう。

寂しいみじめな気持なのかな?恐怖感でいっぱいなのかな?


あぁ……



楽しい。



陽花里は、卑儀しい快楽を知った。




 数学、国語、社会が終わって、移動教室の理科が次になった。

私はまだ、その快感に浸っていた。

誰かと一緒に行く気はなく、一人でのんびり用意をしていた。

「聖奈、一緒に行こう 」

千鶴は若干焦っていた。

「う、うん? 」

聖奈は少し不思議に思ったようだ。

すると千鶴は聖奈に耳元に口を近づけて何かを話していた。

「えっ⁉ 」っと驚いた。

真剣な表情になって、肯いた。

片方は悲しそうな顔をした。いい気味だ。


 私は二人が教室に出たのを確認してから、私も出た。

私から『突き放してやったんだ』。



「あれ、陽花理、千鶴と行かないんだ 」


鍵当番の男子が私に聞いた。


「……うん。なんかいいかなって 」

「ふうん 」


 無性に何かが込み上げて、快感が吹っ飛んだ。

なんかいいかなってなんだ、どうした、あの快感はどこへ行った。

急にネットのホラーゲームみたいに何か恐ろしいものが襲ってるゾクゾク感が体に走った。

 振り出しに戻ってしまった。

 あ、また一人だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る