第1.4話
時間が経ち、放課後になった。
今年も顧問は湯本先生だ。
「今日も合奏をします。新一年生の歓迎演奏の曲を中心にします。えー、黒板に書いてる練習メニューをした後、4時半からするので、時間までに音楽室へ集合ね」
「はい! 」吹奏楽部の全員が返事をした。
吹奏楽部員達はそれぞれの廊下の位置へ楽器といつものセットを持って移動した。
「そう言えば、湯本先生、担任じゃなかったね」
「そうだね」
「あ〜湯本先生だったらよかったのに! 」
「一年間、絶対楽しかったよね」
「だってさぁ、あの野口だよ!? ありえないんだけど! 今日なんかさ、突然黒板に自分の名前書き出してさ」
あー……、また始まった。
どうにかして、早く練習させなきゃ。
「あっ、千鶴、もう十分過ぎてる! 」
「え? いいじゃん。十分ぐらい」
おい、サボりかよ。
「あっ、先輩睨んでる」これは事実。
「やばっ」
このときだけ、睨んだ先輩に初めて感謝した。
ユーフォニアムという楽器は他の楽器に比べて知名度が低い。しかし、某吹奏楽部のアニメによって知名度は上昇しつつある。
ユーフォニアムは、中低音域(と習った)で、ホルンやトロンボーンと同じぐらいの音域が出せる。ホルンのように難しく、特有の音がある訳でもないし、トロンボーンのように渋い音など自由自在に音を派手に変化できる訳でもない。
に加えて、あまりメロディーはなく、ほとんど合いの手や伴奏だ。要するに、舞台でいう裏方のようなもの。それでも、陽花里はユーフォニアムという楽器が好きだ。
"ユーフォニアムには、ユーフォニアムにしか出来ない役割がある" それを承知で吹いている。むしろ自分に合ってると思う。
また、癖だ。考える時間が多すぎて合奏の時間になっていた。
曲名は、部活動行進曲に「America the beautiful」「ワシントン・ポスト」
一年生歓迎演奏にジャズの「In the mood」「Sing Sing Sing」。スキマスイッチの「全力少年」、[Alexandros] の「ワタリドリ」、「ルパン三世」など、最近人気の曲やポピュラーで長く愛され続けている曲を吹いた。
あぁ、本当に楽しい。気持ちいい。音が重なり合って、一体感がある。色鮮やかな音たちがキャンバスに色を塗っていく。音と音が重なり合って、赤や黄色などの単色から、オレンジや空色などの混色も色付きだす。まるでオリジナルの一曲一枚の絵画を生み出しているようだ。絵画のクオリティはどうであれ、これはきっと合奏でしか味わえないだろう。ずっと、ずっと大切にしたいと、思っていた。
あのときまでは___
新入生が無事六人入り、全員で二十一人となり、サウンドがさらに厚くなる期待が膨らんだ。
たしか、新入生がようやくしっかりとした音が出せるようになった五月頃だっただろうか。その頃から少しずつ変化があった。
その変化というのは、千鶴があれだけ嫌いだの、気に食わないなど悪口を言っていたのに、小林聖奈と連むようになったのだ。こういうことがあるから、女子というのは本当に分からない。と、心底思った。
だから、いつも行動するメンバーの陽花里と千鶴の中に小林聖奈が入ってきた(割り込んで来た)のだ。私はあまりいい思いはしていない。(むしろ不快と言った方がいい)
「ねぇ、陽花里。」
千鶴がいつものように明るく話しかけてきた。
「なに? 」
「数学のここの部分教えて! 」数学が苦手な千鶴に教えてあげるのが日課だ。
「いいよ〜 ここはね、……」
「え? じゃあ、これはどうなるの? 」
「そこも同じだよ。だから……」
「なるほど! ありがとう! 」いつもかわいい笑顔でお礼を言ってくれる。
「どうもいたしまして」わたしも笑顔で答えた。
千鶴は悪口を言うところはあまり好きじゃないけど、人にお礼を言える素直さがあるところは私は好きで、いつもついつい数学を教えてしまう。
「千鶴ー! ちょっと来てー! 」
「はーい! 」
このクラスになってから、ごめんね、陽花里と謝って千鶴の所へいつも行くことが多くなった。いや、最近は少なくなったか。
このように、二人で会話しているときだけ千鶴を呼び出す。まるで横取りだ。
いつもの癖が疑問を生み出した。
『千鶴は本当に聖奈が嫌いなのか』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます