第1.2話
「おはよう」と、声をかけたのは千鶴だった。私は、同じようにおはよう、と言った。
ぽかぽか暖かい春の空の下で二人は歩き出した。
「今年の担任、誰だろうね」と千鶴は聞いた。
「んー、やっぱり湯本先生なんじゃない? 」
と、何気無い普通の会話をしながら、心の中では2つの感情でいっぱいだった。何だろう。
焦っているのか、それとも千鶴が嫌いになってしまったのか。いや、嫌いという訳じゃない。なら、何なのか。
「……!」
「ん?」
「陽花里!」大声で言ってきた。
「あ、ごめん、考え事してた」また母と同じ反応をした。
「もう、陽花里ったら。その癖、治しなよ」
「はーい」今回は深く反省しながら返事をした。
あぁ、またやってしまった。
そして、いつの間にか学校に着いていた。
教室違うが、前年と同じ組の教室に入って、時間になったら先生が入室して今日の予定を生徒に伝えた。伝え終わったら、掃除をして、また教室へ戻る。そして、運命のクラス替えのメンバーが書かれている紙を裏にして配られる。
「やっべぇ、ちょっと緊張してきた」男子が私の隣の席で焦心していた。
「おい、ビビってんのか? 」 もう一人の男子はその様子を見てすこし面白がっていた。
「ビビってねぇけどよ、やっぱりドキドキするもんやん? 」
「そやけど…… でも、案外楽しみやない?」
「それな」少し納得した顔をした。
クラス替えってそんなに楽しみなものなの?
先生がいつもよりニコニコしている。
「紙はまだ表にしたらダメですよ〜」
もう遅かった。陽花里は既に表にしている。
まぁ、いいや。バレないように見ればいい。
そう思った陽花里は、こっそりメンバーを確認した
。
「げっ」
思わず口にしてしまった。ばれないようにすばやく口を塞いだ。
何故なら、そこに、小林聖奈という子が同じクラスだったからだ。
うわ、最悪。これからどうなるんだろう。これからどういう被害が出るんだろう。どう悪口に耐えていけばいいのだろう。期待が押し潰れ、不安とこれから起こりそうな嫌なことで頭いっぱいになった。まるで、他の子のは明るいスポットライトを当たっているのに、陽花里だけ、スポットライトも当たらず、暗い洞窟に放り込まれたみたいだ。どうやって暗いじめじめした洞窟の中で生きていけばいいと言うのか。
スポットライトを浴びている他の子達が紙を表にした。
「うわっ、マジかよ」
「やったー! 〇〇ちゃんと同じクラス! 」
「今年もよろしくね、◇◇ちゃん! 」
「うわあ、コイツと一緒かよ」
「最悪」
「あー、2年生終わったわ」
眩しく光に照らされて輝いている子達は自分の思い思いに感想を言った。
うるさい。
そして、指定されたクラスの教室にに移動する。
「今年もよろしくね、陽花里」と、遠い席から言ってきた。
「うん、よろしく! 」
千鶴とは今年も一緒になった。笑っていたのでおそらく嬉しいのだろう。
また、悪口たくさんきかされるのかな、と思ったが、そんなことも言えず、得意の営業スマイルで返事した。
出席番号順に席に座ると、私は左から二番目で、一番後ろの席になった。一番後ろの席は何かとプリントの回収がめんどくさくてあまり好きではない。ただ、寝ていても先生に見つかりにくいというメリットがあるのは助かるけど。
あれこれ考えていると、左の席に目が留まった。黒色で長く、重そうな天然パーマがかかった髪をしていた。ニキビが少し目立つが、顔だちは整っていて、やさしそうだ。猫背で、ひょろっとしていて、少し背が高い。だるそうに椅子に座る彼の名札を見ると、大塚 圭吾と書かれていた。
何故か彼も、私と同じように、洞窟の中にいるような気がした。
彼と目が合った。こんな人いたっけ。田舎らしくないイケメン。
「……は、はじめまして。大塚 圭吾(おおつか けいご)です。よろしく、坂江さん。」
彼は少し緊張していたが微笑んだ。
「はじめまして、坂江 陽花里(さかえ ひかり)です。よろしくね、大塚くん。」
私も微笑んだ。
おそらく、いや、確実に転校生だ。どうして気づかなかったのだろう。また、考え事してたから気づかなかったのかもしれない。
でも、大塚くん、いい人そうだな。陽花里は学校に入って初めて安心できた。
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