少女は考える。

倫華

第1.1話


「ふあぁ〜 眠い…… 」


 四月の暖かさは少女の起床を妨げる。まだ布団にくるまって寝ていたい。けど、少女は我慢して無理やり体を起こした。


「おはよう」


 朝の挨拶を母と父にした。

「おお、ひかり、おはよう」と母はにっこりと言った。

「おはよう、今日から新学期ね」

「あっ、忘れてた」

「あらら」と言ってくすくすと母は笑った。

「笑わないでよ」私はすこし頬を赤らめた。

「ごめんなさいね、今年もちずちゃんと同じクラスとなるといいわね」

「……うん」


 母が言ったちずというのは、私の親しい友達の(今風にいうと心友と表記するらしい) 仁科 千鶴(にしな ちずる)という女の子である。

 彼女はとても頭が良く、気が利く、信頼している相手には優しい子だ。いつも仲良くしてもらっている。

 しかし、彼女には最近不満がある。

 性格、と言うべきなのだろうか。

 2人きりになったとき、他の子の悪口を永遠に吐いているのだ。


 例えば、少し暑く、夕日が沈みかけの帰り道。

「ねぇねぇ、陽花里。花音ちゃんのことどう思う? 」と唐突に聞いてきた。

「え、まぁ、嫌いじゃないよ」私は驚いて曖昧に返事をした。

「あの子さ、ホントありえないんだけど。」

 どうやら千鶴はキレているらしい。

「何かあったの? 」

「さっきね、今度のアンコン(アンサンブルコンテスト)のパート分けをしてたの。」

 あぁ、始まった。悪口大会......。

「うん」

「そしたらさ、『花音、part 1 がいい〜』って言うのね。」

「part 1 ってたしか、千鶴がするんじゃなかったっけ?」

「そうなの!! だからね、私、え? って思って先生に言ったの。

「『先生、part 1 は私って言ってませんでしたか?』って! 」

「……それで? 」

「んで、『あ〜たしかにそうだったわね〜』って思い出してくれてさ、花音ちゃんしょげたかどうか知んないけど、怒って音楽室出ていくとき、バタン! って閉めて出て行っちゃったんだよ?

 陽花里、どう思う? それってさわがままじゃない?いくらやりたくてもさ、我慢しなきゃダメだと思わない? 」

 千鶴は悪口を言いながらどこか勝ち誇った言い方だった。


 こんなふうに、内容によっては千鶴が正しいと思うものもあるし、また、わがままなところもある。私はそれをきちんと意見するのが正しいのだろうけど、そんな勇気が持てるはずがない。現在、悪口を聞きすぎて千鶴がいい子なのか悪い子なのか分からなくなっている。

 でも、これだけは思う。


『女子ってめんどくせぇ…… 』



「……! ……! 」

 誰かが私を呼んでる......。

「ん? 」

「ひかり! ぼーっとしてないで、早く準備しなさい! 」母は少し怒った。

「はーい」そんな母を気にせずやる気のない返事をした。


 また、 いつもの癖だ。なにかと考えてしまう。

 この癖をどうにかしようと思ってもなかなか治らない。私の欠点だらけの1つだ。


 これからの新学期が不安と期待の両方が混ざりあってよく分からない感情に浸っている。

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