魔王vs勇者達
「デビルウェーブ!」
「ぐぁぁぁああ?!」
魔王の部屋まで辿り着いた始まりの勇者、だが魔王の圧倒的な力の前に地に伏していた。
「その程度か始まりの勇者」
「くっくそっ…」
「だがここまで頑張ったのは誉めてやろう」
振り上げられる魔王の腕。
もう駄目だと諦めかけたその時であった!
「そこまでた!」
「ぬっ?!」
魔王の腕が止められた。
そこに立つのは一人の青年!
「き、北の勇者!助けに来てくれたのか!」
「俺だけじゃないぜ!」
始まりの勇者の後ろに降り立つ足音。
そこには南の勇者、東の勇者、西の勇者が並び立っていた!
「ぬはははは!面白い!貴様等まとめて滅ぼしてくれるわ!」
叫ぶ魔王の上に巨大な火の塊が出現する!
「なっ?!」
「あっあんなの俺たちだけじゃ!?」
「くそっ!」
その時であった!
バーン!と開かれる扉!
「諦めるな!」
「おっお前達は?!」
放たれた七色の魔法に魔王の魔法はかき消された。
「戦士の勇者!武道家の勇者!僧侶の勇者!魔法使いの勇者!商人の勇者!踊り子の勇者!遊び人の勇者!?」
「「「「「「「待たせたな!」」」」」」」
「何人来ようと無駄だ」
魔王の魔力が膨れ上がりその体が宙に浮き、その体に魔力がまとわり付く。
魔力が形を作り出し漆黒の鎧が具現化した!
「な、なんて禍々しい姿だ!」
「身体能力も格段に上がってるぞ!」
「私の補助魔法が強制解除された!」
「物凄い魔力を感じるわ!」
「あの鎧、物凄い価値があるようですね!」
「踊りの効果も無効化されてるわ」
「私のパフパフもあの鎧には効果が薄そうね!」
七人の勇者は変化した魔王の姿に絶句する。
だがいつの間にか部屋の四隅にその姿があった!
「武器屋の勇者見参!」
「防具屋の勇者見参!」
「道具屋の勇者見参!」
「雑貨屋の勇者見参!」
「ぬぅ、次から次へと…いい加減にしろ!」
更に膨れ上がる魔力!
魔王の鎧が一体化するように体に取り込まれながら変化していく!
まさに化け物と呼ぶに相応しい姿に誰もが息を呑む。
「ぬっ?!貴様等は?!」
その体に突如襲い掛かる複数の影!
この魔王城を守護していた魔物達である!
『スライムの勇者見参!』
『ゴブリンの勇者見参!』
『リザードマンの勇者見参!』
『ドラゴンの勇者見参!』
『動く石像の勇者見参!』
『リヴァイアサンの勇者見参!』
更に魔物の真上の天井が吹き飛びそれらは降りてくる!
『天使の勇者見参!』
『女神の勇者見参!』
『魔神の勇者見参!』
『精霊神の勇者見参!』
『創造主の勇者見参!』
まさに四面楚歌、多種多様な勇者に囲まれた魔王、魔王からは見えていないが城の周りには他種族の勇者が勢揃いしていた!
エルフの勇者、ドワーフの勇者、悪魔の勇者、妖精の勇者…
その数は数十万を超えていた。
「な、なんなのだこれは…」
狼狽える魔王、そして多勢に無勢、魔力を根こそぎ奪われ押さえ付けられた魔王の前に一人の男が歩み寄った。
長い前髪で顔の殆んどが隠れた痩せた男は魔王の前でしゃがみこむ。
「き、貴様が…っ?!」
何かを言おうとした魔王の頬が押さえられ開いた口が閉じれなくなる。
そして、痩せた男は口を開く。
ワシャワシャワシャワシャと動く不気味なそれは痩せた男の口から魔王の口に入っていく。
「うごぁ?!がっ…がぁぁぁぁ…」
ニヤニヤと嗤う周囲の勇者の目が赤く光り悶え苦しむ魔王を見下ろす。
そして、魔王の目が赤く染まり体から力が抜け落ちた…
「はいっ今世紀の健康診断はこれにて終わりです」
実に100年振りの異世界健康診断が終わり全員の口から胃カメラ虫が吐き出された。
涙目になりながら魔王は配下の魔物を睨み付ける。
『だッだって仕方無いじゃ無いですか!前回の健康診断の時に魔王様嫌で世界を滅ぼそうとしたじゃ無いですか!』
だからこそ勇者の襲撃だと嘘を付いて魔王の逃げ道を完全に塞いだのだと魔物は訴える。
「だからと言って何故に誰もが勇者を名乗る?」
「だって…」
チラリと魔王の顔を見て魔物は告げる。
「一人で世界を滅ぼせる魔王様を取り押さえようとできる者を勇者と呼ば無いわけにはいかないでしょ?」
勇者…それは勇気ある者にこそ送られる称号である…
完
ファンタジー系短編集 昆布 海胆 @onimix
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