第4話 セゾン・デュポン(クラフトとラガーのいいとこ取り)
東京駅から電車で1時間ほど行った、海の見える駅で降りて、坂道を5分ほど登ると軽く汗をかく。目的地のカフェテラスは夏には海水浴客がいそうな薄茶色の浜辺を見下ろす場所にあり、遠くには房総半島と伊豆大島が見える。車でも来れるようなドライブインになっていて、去年の夏の日本のビールの広告とか、30年ぐらい前のメイクがやや濃い目の水着女子のビールの広告とかが貼ってある。しかし車だと酒を飲むことはできないのよね。
セゾン・デュポンさんは自分は運転しなきゃいけないから、ってホットコーヒーを注文した。しましまニーハイとフリルつき桃色のティアードスカートはおしゃれ女子ではなくていつもの格好だそうである。
セゾン・デュポンさんは医大生で、父親・親族も医療関係のお仕事をしている。将来は研究職につこうかな、と漠然と考えているらしい。病院経営や医者は兄とか従兄弟がやっているんで、いまさら私がやることもなさそう、ぐらいのリッチな人なのだ。
ベルギーのビールは、今回がはじめての感想だよ。
「セゾン、ってのは日本語で言うと『四季』ね。農家の人が冬の農閑期に作って、夏の盛りに飲むからセゾンビール。デュポン醸造所は昔からの名門だけど、ビールってのはだいたい貴族の飲み物じゃなくて、しっかり体を使って働いた人のためのものなんです」
ベルギーの農民はお茶がわりに飲んでるらしいんだけど、これは味がかなりしっかりしてるね。
「貧しい国土と働き者の国民がいるところのビールはおいしいんです、というのがベルギー国民の持論なのね。世界的に飲まれている国のビールとしては濃い味で知られてるはず。濃いというより、醸造所の個性がくっきり出ている感じ。私も代々領主というより、代々地主・庄屋レベルの家柄で、日本だと士族と農民の中間ぐらいかなあ」
これは、ラガーとクラフトビールのいいとこ取りしているような味。とてもおいしいけどフルーティのような甘さは少なく、ビールらしさに支えられている。グラスに継いで、口の周りについた泡を、農夫なら袖口でぬぐい、日本の社会人なら紙ナプキンで拭く。アルコール度は6.5%と高めなので飲み過ぎに注意。飲んでる端から頭と全身にアルコールが回る。芳醇なベルギーの農場が目に浮かぶ。朝からこんなのを飲んでたらとても仕事なんかやってられない。翌日が休日の夜か、休日の朝に飲むとうまいです。
セゾン・デュポンさんはおつまみにクローネンブルグ・セーズさんの会社が輸入しているフランスの硬いチーズを出してくれた。これで口の中の水分を吸い取らせ、からからのところにセゾン・デュポンを飲む。砂漠の中のオアシスである。
セゾン・デュポンさんの能力は、どんな飲み物・食べ物でもバナナ味にしてしまう能力。これだったら酔っ払わないよ、って言うけれど、バナナ味のビールになってもアルコール度は変わらないのでしっかり酔うから、それは嘘である。
おみやげにセゾン・デュポンを半ダースもらって、帰りの電車の中でさらに1本飲んでしまう。
味 ★★★★☆
コク ★★★☆☆
個性 ★★★☆☆
おすすめ度 ★★★★☆(これはその日の天気・体調に左右されそう)
お値段 448円
素朴な感想 うますぎて、こんなの毎日飲んでたら体こわす。
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